Yahoo!ニュース

一足早いデービス対ロマチェンコ戦展望 米メディアが語る「新旧対決が実現するワケ」

杉浦大介スポーツライター
Esther Lin/Premier Boxing Champions

 ジャーボンテ・“タンク”・デービス(アメリカ)は年内にもワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)と対戦するのかーーー。ラスベガスのMGMグランドガーデン・アリーナで6月15日に行われたWBA世界ライト級タイトル戦前、そんな推測がまことしやかに囁かれた。15日のタイトル戦でデービスがフランク・マーティン(アメリカ)を8回KOで下した後も、メディアルームではデービス対ロマチェンコ戦の現実性が話題の中心になった。

 デービスは今や米国内最大級の人気を誇り、ロマチェンコも引退後の殿堂入りは確実と目される名王者。3階級制覇王者同士の対戦が成立すれば、2024年最大級の一戦として注目を集めるはずだ。果たしてこのカードは本当に実現するのか、そして実際に行われたらどんな試合になるのか。ラスベガス在住のボクシング・ジャーナリスト、ショーン・ジッテル氏に意見を求めた。

 FightHype.comのレポーターを務め、厳格な全米ボクシング記者協会(BWAA)からビデオグラファーとしては史上初めてメンバーに迎えられたジッテル氏。甘いマスクと確かな眼力を備えた新進気鋭のジャーナリストも、“タンク”対“ハイテク”に対する期待感を抑えきれないようだった。

デービス対マーティン戦も取材したショーン・ジッテル記者 撮影:杉浦大介
デービス対マーティン戦も取材したショーン・ジッテル記者 撮影:杉浦大介

 関連記事

現代のKOアーティスト、“タンク”・デービスは“米リングの新たな顔”となるのか

 最高級のカードであり、試合内容も期待できる一戦

 デービス対ロマチェンコ戦は依然として優れたマッチアップだと思います。理想を言えば、タイムマシーンで5、6年前のロマチェンコを現代に連れて来て、今が全盛期のデービスと対戦させられたらそれがベストではあるのでしょう。ただ、ロマチェンコは今でも極めて優れたボクサー。5月のジョージ・カンボソスJr.(豪州)戦でもそれを改めて証明してくれました。

 加齢する前、例えば2018年にニューヨークで行ったホセ・ペドロサ(プエルトリコ)戦でのロマチェンコは勝負所で80〜100のパンチをまとめてスパートするラウンドを作っていました。それがカンボソス戦ではそこまでの集中打は不要でした。以前より効率的で、もともと定評のあった的確なパンチの打ち分けを生かして敵地でのストップ勝ちを呼び込んだのです。

 やはり総合的にはもうピークは過ぎているとしても、先ほども言った通り、ハイレベルの王者であることに変わりはありません。そして、スタイル的にも“タンク”対ロマチェンコ戦はいい試合になると予想できます。

 ロマチェンコは前がかりのボクサー。下がりながら動く場合には手数を出さず、自身が好むアングルを見つけた上で、前に出てパンチを放ちます。現役最高級のパンチャーであるデービスを相手にロマチェンコがそのような戦い方をすれば、一瞬も目が離せない展開になることでしょう。

パワーが特筆されがちだが、デービスは技術の高さも評価されて然るべき Esther Lin/Premier Boxing Champions
パワーが特筆されがちだが、デービスは技術の高さも評価されて然るべき Esther Lin/Premier Boxing Champions

 一方、デービスは序盤ややスロースタートを切り、相手の力量を見極めた上でのカウンター戦法を得意としています。多くのトップファイターがそのような戦い方をし、ハイメ・ムンギア(メキシコ)戦のサウル・”カネロ”・アルバレス(メキシコ)がそうでしたし、エロール・スペンス Jr.(アメリカ)戦を除いたほぼすべての試合でのテレンス・クロフォード(アメリカ)も同じです。

 ロマチェンコは“相手のデータをダウンロードする”などと言われましたが、それはデービスも同様。自身よりかなり大きなマリオ・バリオス(アメリカ)戦ではガードを高く上げ、慎重に攻めていきました。それが自身とほぼ同じサイズのマーティン戦では、普段より早い段階で仕掛けていったのです。

 マーティン同様、自身とさほど変わらない体格のロマチェンコを相手に、デービスが前半から攻めにかかる姿が想像できます。デービス、ロマチェンコはどちらもスロースターターの範疇に入りますが、直接対決では早いラウンドからスパークしても不思議はありません。好カードというだけでなく、フルラウンドにわたって珠玉の攻防が展開される可能性が十分にあるというのが私の意見です。

スター対決をなぜ成立させられるのか

 私はデービス対ロマチェンコ戦が年内に実現すると思っています。

 ロマチェンコをプロモートするトップランクのボブ・アラムは、デービスの商品価値の高さ自体をかねてから認めてきました。同時に最近はPBCに好意的な言葉を残しており、それはこれまで頻繁にはなかったことでした。そういった背景は、アラムがこの試合をまとめたいという希望を示しているように思います。

 デービス戦を成立させることは、ロマチェンコのキャリアに報いることにもなります。ロマチェンコは多くを成し遂げてきましたが、まだ8桁(1000万ドル以上)の報酬を手にしたことはなかったはず。アメリカ最大級のスターとの対戦は、ロマチェンコの偉大なキャリアの集大成となるに違いありません。

写真:ロイター/アフロ

 マーティン戦後、デービスの支援を任されているレナード・エラービー(メイウェザープロモーション前社長)に尋ねてみましたが、こちらもロマチェンコ戦には好意的でした。これまでのエラービーは「“タンク”が誰と戦おうとビッグファイトになる。他の選手の名前はどうでもいいよ」と繰り返していましたが、今回、ロマチェンコとの対戦には前向きだったんです。

 アラム、エラービー、デービスはこの試合に興味を示しています。あとは引退間近とも伝えられるロマチェンコがどう感じるか。

 カンボソス戦は父親の情熱がゆえに実現した試合だったとすれば、デービスとの戦いは先ほども話した通り、これまでで最大のステージ、最大の報酬であることがロマチェンコのモチベーションになるのでしょう。たとえ敗れたとしても、現在最高の選手と戦い、自身を納得させた形でキャリアに終止符を打てるのです。これらの状況から、プロモーターの違いを考慮した上でも、デービスとロマチェンコの激突はこれまで以上に現実的だと私は見ています。

やはりデービスが有利だが・・・・・・

 最後に結果を予想しておくと、やはりデービスが優位と目されてしかるべきなのでしょう。ロマチェンコも随所に持ち味を発揮すると思いますが、マーティン戦で示した通り、デービスは今まさに全盛期を迎えています。

 先ほども話した通り、ロマチェンコはインサイドに飛び込み、様々な角度からパンチを放ってきます。テオフィモ・ロペス(アメリカ)は2020年の対戦時、身体能力で匹敵することでロマチェンコが誇示してきたアングルのアドバンテージの多くを取り除くことに成功しました。“タンク”も同じように迎え撃ち、対価を払わせることができるのではないかと思います。

デービス対ロマチェンコ戦は興行的な成功は間違いない Esther Lin/Premier Boxing Champions
デービス対ロマチェンコ戦は興行的な成功は間違いない Esther Lin/Premier Boxing Champions

 デービスは若さの面でアドバンテージがあり、素晴らしいスピード、パワー、正確さも兼備しています。自ら攻めることができ、カウンターも上手という稀有な選手です。ロマチェンコも接戦に持ち込むものの、ファンを楽しませる戦いの末、後半ラウンドにデービスがKO勝ちを収めると私は見ています。デービスはロマチェンコをストップする最初の選手になるでしょう。

 ただ、繰り返しになりますが、その瞬間が訪れるまで、極めてハイレベルの上質な戦いが期待できます。デービスにとっても“テスト”と呼び得る試合になるでしょう。最終的に未来の殿堂入り選手に勝って統一王者になれば、デービスのこれまでのキャリアの中でも最高の勝利と目されるに違いありません。そんな新旧戦が目撃できることを、私もファンの1人として楽しみにしていますよ。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

杉浦大介の最近の記事