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妊娠・出産・育児の包括支援システム:母になるなら、父になるなら、何処で

足立泰美甲南大学経済学部教授/博士「医学」博士「国際公共政策」

人口減少がもとめる新たな雇用とは

人口が減少すること。それは、労働供給の減少をもたらし、消費の低下を招き、ゆくゆくは経済成長の低下に繋がる恐れがあるだろう。その打開策として、新たな労働力としての女性の雇用促進に向けた政策が講じられている。そもそも統計的に女性の雇用は、どう推移しているのだろうか。

総務省(2014)「労働力調査:基本集計」によると、専業主婦は前年度の4.3%に相当する1,592万人減少し、過去最大の減少幅となっているのに対し、女性就業者数は2013年度に過去最多の2,701万人に達し、前年度と比べ47万人も増えている。

女性の雇用は社会からのニーズだけでなく、それぞれの家計の経済状況からも必然とされている。そこには、厳しいワーキングプアに直面する若年層の就業状況が起因する。若年層を中心とした正規職員の減少、パート・アルバイト、派遣社員、契約社員などの非正規職員の急増によって、世代内および世代間の賃金格差は徐々に拡っている。年収の推移をみただけでも300万円未満の低所得層が若年世代を中心に増えている。

日本の家庭内における働き方の考えが揺らぎつつある。かつて家計の大黒柱は1本といわれていたのが、世帯主と配偶者がともに家庭を支える2本柱へと変化している。女性の社会進出は人口減少という社会問題にとどまらず、家計の収入面からも雇用促進に拍車がかかっている。

地域社会からみた自然増加への糸口

図1 人口減少と出産率
図1 人口減少と出産率

だが女性の雇用は労働供給の解決の糸口になるものの、人口減少に終止符を打つとは言いがたい。人口を増やすアプローチには自然増減と社会増減の2つがある。そのうちの社会増減の課題は、ともすれば自治体間の住民の取り合いになりかねない。出生率の低下によるとめどない自然減少が著しく顕在化している今、むしろ自然減少、それに歯止めをかけることが大きな意味をもつだろう。

図1に示すように、長期化する出生率の低下は、若年人口、生産年齢人口及び老年人口を合計した総人口の急激な減少を生んでいる。国立社会保障・人口問題研究所は、2010年から2045年までの35年間で、全国的に10.0%以上に人口が減少すると試算している。女性の雇用促進を狙いつつも、出生率の上昇にも繋がる政策を織り込むことが重要であろう。

だが女性の雇用と出生率は、相入れることができるのだろうか。結婚、妊娠、出産というライフサイクルのなかで、就業を希望しながらも子育ての負担によって、仕事を続けるか、子育てをするか、という選択に迫られる。

人口減少という課題に対し、自然増加の要因となる出生率はキーワードになるだろう。しかしながら子を産むということは、仕事との両立、家事との兼ね合い、収入面からみた新たな負担、色々なところに波及する。子を産みやすい環境、いつ、どこで、どのような形で母になるのか、父になるのか。それを考えるには、妊娠、出産、子育てという一定の期間から、自分の生活を顧みることが必要ではないだろうか。

子育て世代が求める住みやすいまちとは

図2 3本の矢のイメージ
図2 3本の矢のイメージ

そもそも、子育て世代が望む社会とはどういうものだろうか。安心して働きながら結婚・出産・子育ての希望をかなう社会の実現。

2013年6月に少子化社会対策会議が開催された「少子化危機突破のための緊急対策」。「働き方改革」、「子育て支援」に加え「妊娠・出産・育児支援」を織り込んだ「3本の矢」の少子化対策が打ち出された。図2にその概要を示す。社会全体で少子化が進み、世帯構成が2世帯、3世帯の大家族から核家族へと大きく変容し、そして地域のつながりが希薄になるなかで、育児や出産に対して身近な協力が得られにくくなっている。そこで、従来の仕事と家庭の両立や子育ての支援策を講じることへの強化に加え、妊娠、出産、子育ての間を埋める切れ目のない体制作りが迫られている。

かつて、「働き方改革」では、若者雇用対策の推進と正社員実現の加速化を目指してきた。そして、仕事と生活の調和を軸としたワーク・ライフ・バランスの実現、育児休業の取得促進、長時間労働の抑制。これらの政策を通して仕事と育児の両立への構築を図ろうとしてきた。2つめの「子育て支援」では子育て世代包括支援センターが指揮を執り、結婚・出産・子育て支援への整備、子ども・子育て支援の充実を狙ってきた。

これらの議論を踏まえ、必要があれば修正に応じる柔軟な姿勢をとり続けてきた。とりわけ、妊娠、出産そして乳幼児の期間は、子育てに対する負担が重い。それぞれの時期を別々に捉えるのではなく、一括した策を打ち出し、シームレスなサービスを提供するのも一案である。3本の矢が2015年まさしく本格的に実施されつつあり、少子化対策への膨らみつつある期待が通底している。

'''子育て世代のニーズに応えたまちづくり、つまり仕事と子育ての両立が実現できる住環境及び生活環境を備えつつ、妊娠・出産・育児の期間を社会全体で考えていくことが大きな意味をもつ。

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社会全体で取り組む子育て支援システム

 図3 妊娠・出産・育児の包括支援システムのイメージ
図3 妊娠・出産・育児の包括支援システムのイメージ

実際に妊娠・出産・育児のシームレスなサービスとはどういうものであろうか。図3に具体的な概要を示す。出産後、病院から自宅に帰ってくるとする。家庭によっては、自宅の環境を整えなければいけないケースがあるだろう。里帰り出産をして相談できる人がそばにおらず、近隣に親しい人がいなければ、不安が交錯する。

沐浴の仕方など育児方法を学ぶ機会もなく、周囲のサポートもない場合、子育てで鬱になることもあるだろう。訪問する看護師の指導は、沐浴やほ乳瓶のレクチャー、赤ちゃんが母乳を飲んでくれない、便がでない、またてんかん発作が起きた。そのような対応策に留まらず、母親の精神面にも気配りが求められるだろう。場合によっては、近隣に相談できる人がいないなら、ショートステイで泊りがけで子育てができることも情報として教えたほうがよいかもしれない。

1人1人が住み慣れた場所で安心して子育てをするには、子育てへのサポートの拠点が日常生活の中にあり、妊娠から子育てまで包括したシステムの導入と途切れることなくワンストップでサービスを提供できるまちづくり。それが子育て世代が望む社会かもしれない。

少子化を伴う人口減少がもたらす社会のひずみは複雑である。だが一つの解決策として子育てのすみかとして、妊婦・出産・子育ての包括ケアシステムを備えたまちづくりが今後一層求められてくるであろう

(参考文献:図の出所)

図1)総務省「国勢調査」及び「人口推計」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計):出生中位・死亡中位推計」をもとに筆者作成

図2)厚生労働省(2013)「少子化支援対策会議」をもとに筆者作成

図3)厚生労働省(2015)「地域子ども・子育て支援事業について」より抜粋

甲南大学経済学部教授/博士「医学」博士「国際公共政策」

専門:財政学「共創」を目指しサービスという受益の裏にある財政負担. それをどう捉えるのか. 現場に赴き, 公的個票データを用い実証的に検証していく【略歴】大阪大学 博士「医学」博士「国際公共政策」内閣府「政府税制調査会」国土交通省「都道府県構想策定マニュアル検討委員会」総務省「公営企業の経営健全化等に関す​る調査研究会」大阪府「高齢者保健福祉計画推進審議会」委員を多数歴任【著書】『保健・医療・介護における財源と給付の経済学』『税と社会保障負担の経済分析』『雇用と結婚・出産・子育て支援 の経済学』『Tax and Social Security Policy Analysis in Japan』

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