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ロシア軍がシリアで中国新疆ウイグル自治区出身者からなるトルキスタン・イスラーム党の拠点を爆撃

青山弘之東京外国語大学 教授
シリア人権監視団、2021年9月15日

シリア北西部のイドリブ県で9月15日、ロシア軍戦闘機がジスル・シュグール市近郊に設置されている国内避難民(IDPs)キャンプ近くと、トルキスタン・イスラーム党が拠点を設置しているザルズール村近郊の飼料農場、そしてハマーマ村一帯を爆撃した。

英国を拠点とする反体制系NGOのシリア人権監視団は、この爆撃で「トルキスタン籍」、すなわち中国新疆ウイグル自治区出身の戦闘員の子供1人が死亡、また1人が負傷したと発表、爆撃の瞬間とされる映像を公開した。

爆撃は、トルコのハタイ県(アレキサンドレッタ地方)との国境から10キロに満たない地点に対しても行われたという。

イドリブ県の状況

イドリブ県とその周辺地域は、「シリアのアル=カーイダ」として知られるシャーム解放機構、トルコの庇護を受ける国民解放戦線(Turkish-backed Free Syrian Army:TFSA)といった反体制派の支配下にあり、ロシア、トルコ、そしてイランが緊張緩和地帯第1ゾーンに指定している地域である。シリア・ロシア軍とトルコ軍・シャーム解放機構・国民解放戦線が激しい戦闘を繰り広げた末、2020年にロシアとトルコが停戦合意を交わして以降、長らく大規模な戦闘は確認されていなかった。

筆者作成
筆者作成

だが、ロシア軍は2021年8月19日から爆撃を再開し、23日以降は毎日、同地各所への爆撃を行っている。シリア人権監視団によると、その数は9月に入って129回に達しているという。

標的となっているのは、シャーム解放機構、国民解放戦線、そして両組織が主導する「決戦」作戦司令室の拠点だが、女性や子供も巻き添えとなっている。また、8月31日には、トルコが占領下に置いているアレッポ県北西部のいわゆる「オリーブの枝」地域内のイスカーン(イースカー)村とジャルマ村にあるシリア国民軍(国民解放戦線の上位組織)所属のシャーム軍団のキャンプを爆撃し、5人を負傷させた。

爆撃には、二つの狙いがあると見られる。

第1は、クルド民族主義勢力の民主統一党(PYD)が活動を続けるシリア北部(アレッポ県タッル・リフアト市一帯、マンビジュ市一帯、ラッカ県アイン・イーサー市一帯、ハサカ県タッル・タムル町一帯)で、砲撃やドローンによる爆撃をエスカレートさせているトルコの動きをけん制することである。

第2は、シリア南部のダルアー県で武器引き渡しを拒否する元反体制武装集団メンバーに力を示し、ロシアが仲介するシリア政府との和解に応じさせることである。なお、ダルアー県では、7月末から元反体制武装集団メンバーがダルアー市ダルアー・バラド地区などで立て籠もり抵抗を続けてきたが、9月初めまでに武装解除に応じ、これを拒否した約50人が家族約30人とともにトルコ占領下のアレッポ県北部とイドリブ県に退去した。

トルキスタン・イスラーム党とは?

9月15日にロシア軍が狙ったトルキスタン・イスラーム党は、反体制派の支配下にあるイドリブ県に「安住の地」を得た数ある外国人武装集団の一つである。

トルキスタン・イスラーム党は、中国新疆ウイグル自治区の分離独立を目指す東トルキスタン・イスラーム運動(Eastern Turkistan Islamic Movement:ETIM)のメンバーや支持者を中心に構成される武装集団である。シャームの民のヌスラ戦線(シャーム解放機構の前身)のメンバーであるアブー・リヤーフの支援を受けて、2013年末頃にトルコ領内に拠点を設置し、戦闘員の募集や教練を開始、2014年末にアブドゥルハック・トゥルキスターニーを指導者(アミール)として結成を宣言した。正式名は「シャームの民救済(ヌスラ)トルキスタン・イスラーム党」。「シャームのくにのイスラーム党」を名乗ることもある。

Snack Syrians、2018年1月8日
Snack Syrians、2018年1月8日

米国は2004年にETIMをテロリスト排除リスト(Terrorist Exclusion List:TEL)に加えていた。だが2020年11月、ドナルド・トランプ政権はETIMをTELから削除した。その際、国務省報道官は「10年以上にわたり、ETIMが存在を続けているという確たる証拠がない」と述べ、指定解除を正当化した。だが、ETIMのメンバーが家族を引き連れて、中国からトルコを経由してシリアに「移住」し、トルキスタン・イスラーム党を名乗り、イドリブ県を中心に活動を続けていることは、周知の事実である。

米国の「寛容」な姿勢の背景には、中国を牽制する狙いがあることは明らかで、これにより、トルキスタン・イスラーム党は米国の攻撃を回避できたかに思われた。

ロシア軍による爆撃の激化が、イドリブ県へのロシア・シリア軍の進攻の予兆かどうかをめぐっては、専門家の間で意見が分かれるところではある。だが、9月15日のロシア軍の爆撃は、トルキスタン・イスラーム党のこうした楽観論を打ち消すものだったことだけは事実だ。

なお、トルキスタン・イスラーム党は、シャーム解放機構や国民解放戦線、さらにはその背後にいるトルコと実質的な共闘関係にある。ただし、このことは、彼らの存在がイドリブ県の住民によって歓迎されていることを意味しない。もっとも最近では、9月10日、イドリブ県のフーア市とカファルヤー町で、彼らの退去を求めるデモが発生している。

フーア市とカファルヤー町はシーア派(12イマーム派)が多く暮らしていたが、反体制派の包囲を受け孤立、2018年半ばまでにすべての住民がシリア政府の支配地に退去して以降は、政府との和解を拒否してイドリブ県に逃れてきた反体制派とその家族、そして外国人戦闘員らの移住先となっていた。

イドリブ県では、トルキスタン・イスラーム党のほかにもイドリブ県では、カフカス地方出身者からなるムハージリーン・ワ・アンサール、アジュナード・カウカーズ、ウズベキスタン人からなるイマーム・ブハーリー大隊などが活動を続けている。これらの組織もシャーム解放機構、国民解放戦線と共闘関係にある。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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