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ファーウェイ制裁で中国が屈するかそれとも米国が凋落するか

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(441)

皐月某日

 今週末に国賓として来日するトランプ大統領は、直前の22日、これまでになく怒りを爆発させた。米民主党のペロシ下院議長から、過去の納税記録を調査する議会の召喚状に応じないのは「隠蔽に当たり弾劾に値する」と言われたからである。

 トランプ政権と民主党は4月末に220兆円規模のインフラ投資で合意していたが、トランプは「疑惑調査とインフラ投資の二兎を追うことは出来ない」として、民主党が疑惑調査をやめるまで協議を行わないと通告した。

 そして緊急記者会見を開き、怒りの口調で「私は隠蔽していない」と長い長い反論を行った。その異様さに、米メディアはウォーターゲート事件の際にニクソン大統領が行った反論会見と重ね合わせる。

 CNNテレビには当時ニクソンの法律顧問を務め、ウォーターゲート事件のもみ消しに奔走したジョン・ディーンが出演し、「ニクソンはこれほど民主党と敵対することはなかった」と述べ、トランプの大統領としての資質に疑問を呈した。

 トランプの怒りの激しさは疑惑が事実無根だからではなく、焦りを感じているからのように見える。トランプは大統領には議会の召喚に応じなくても許される特権があると主張するが、裁判所は1審、2審とも議会の召喚に従うべきとの判断を下した。それでもトランプは最高裁まで戦うつもりでいるようだ。

 もっともペロシ下院議長は本気で弾劾するつもりではなく、弾劾すると言ってトランプを挑発し、トランプを怒らせてその子供じみた対応を国民に見せることを狙っているように思う。フーテンがブログに「灰色高官」と書いたそのトランプ大統領がまもなく令和初の国賓として日本にやってくる。

 本人にしてみれば議会の追及から逃れ、即位したばかりの日本の新天皇に歓待されることは、大変に喜ばしく束の間の安らぎを得られるだろう。しかし世界では、米国が軍事圧力をかけるイランを軸に中東は一触即発で、また中国の通信機器大手ファーウェイに対する制裁が世界経済を揺るがしている。そんな時に4日間も日本に滞在して大丈夫なのかとフーテンは他人事ながら心配になる。

 ところでファーウェイ問題は、フーテンに80年代の日米貿易摩擦を思い出させる。日本の工業製品が集中豪雨的に米国に輸出され、米国の製造業を廃業に追い込み、製造業労働者を失業させたその時に、米国は製造業から情報産業への転換を図り、IT革命を起こして日本との経済戦争に勝利しようとした。

 米国はその転換に成功し、一方では製造業労働者を切り捨て、他方でIT産業の頂点に米国企業が君臨することになる。切り捨てられた製造業と労働者のいる地域はラストベルトと呼ばれ、切り捨てられた者の怨念が2016年にトランプ大統領を誕生させた。

 日本はIT産業で米国の後塵を拝するが、実は当時の日本には米国をしのぐIT技術があった。1984年に東大助手の坂村健が開発した「トロン」である。同じ年に米国ではビル・ゲイツがマイクロソフトを創業し「ウィンドウズ」を開発していた。

 トロンはOS(基本ソフト)の世界標準になってもおかしくなかった。ところが日本経済を恐れる米国は、トロンを「外国貿易障害年次報告書」の中で不公正貿易障壁と位置づけ、日本がトロンを使った日本製のパソコンを作れば制裁の対象にすると脅してきた。

 その脅しに日本政府もメーカーも屈した。日本製のパソコンにトロンが搭載されることはなくなり、日本がIT産業の先頭に立つこともなくなった。一方のビル・ゲイツはウインドウズの成功で世界一の資産家になる。そして日本と米国は暗黙の裡に製造業とIT産業で棲み分ける形になった。

 次にテレビの世界で日米間に世界標準を巡る争いがあった。NHKとソニーは旧郵政省の指導の下、画質の優れたハイビジョンで世界を席巻しようと考えた。欧州各国はハイビジョンの技術を導入しようとしたが、米国はハイビジョンとは逆の技術で世界制覇を目論んだ。それがデジタル技術である。

 ハイビジョンはテレビの走査線の数を多くして画質を良くするが、デジタルは走査線の数を減らして1つの周波数で3つのチャンネルが放送出来る技術である。画質の良いテレビが良いか、多チャンネルのテレビが良いかの争いになった。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:11月24日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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