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東京都庁のプロジェクション・マッピング、観光振興になるか?

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:アフロ)

先週報じられた記事から。以下FINDERSからの転載。

最大の建築物へのプロジェクションマッピングの展示(常設)としてギネス世界記録(TM)に認定
https://news.yahoo.co.jp/articles/73223b29e66439452be8067c619108f12fb0a1f5?source=sns&dv=sp&mid=other&date=20240302&ctg=ent&bt=tw_up
2025年2月25日(日)、東京のランドマークのひとつである都庁第一本庁舎に巨大なプロジェクションマッピングを通年で行う 「TOKYO Night & Light」 のオープニングイベントが行われた。[…]

今後、本格的な観光シーズンを迎え、ますます数多くの外国人旅行客訪れることが予想される中、またひとつ東京の夜を楽しむ新たな魅力が生まれた。またこの一大プロジェクトが、都庁舎をプロジェクションマッピングするという一見ハードルの高そうな取り組みであることから、東京都という自治体を中心に進めることで大きな障壁を乗り越えたことが容易に想像できる。地方自治体などのインバウンド施策の計画において、ぜひ参考にしてほしい事例だと思う。

東京都が観光振興を目的として、都庁で毎晩上映されるプロジェクションマッピングイベントを作成&公開したという記事。上記メディアはクリエイティブ向けのメディアなので完全に肯定的な論調ですが、SNSなどでは特に18億円という作成予算を中心にかなり批判的論調が強いのが実情です。

本件に関して、夜の経済(ナイトタイムエコノミー)の専門家としてコメントをするのならば2点、良かった点と悪かった点があります。

◆良かった点

このプロジェクトの良かった点は「通年イベント」としてこの作品の上映が行われること。これまで日本全国で多くのプロジェクションマッピング企画がありましたが、それら企画が「通年」で行われるのは、三重県に所在するテーマパーク・伊勢忍者キングダムの「安土城炎上」を含めほんの数えるほど。多くの企画は期間限定で行われるものであり、そういうイベントは刹那的に一過性の観光消費は生むものの、「地域に根付いた」観光事業やそれに伴う投資を誘引することは殆どなく、あまり意味はありません。

対して今回の東京都の企画は、今後通年で実施する企画として組まれたもの。この様に都市夜景を彩る企画としては、香港の湾岸を使ったライトショー「シンフォニー・オブ・ライツ」が有名ですが、この様な通年企画は都市観光のコンテンツの一つとして機能する可能性は高く、逆に言えば「通年の企画として組む為に」18億円というコストがかかったのは機材費なども考えれば仕方がない部分もあります。

◆悪かった点

今回のプロジェクトの残念だった点は、この企画が「東京都庁」を舞台として実施された屋外企画であること。公共物である東京都庁を使うのが一番楽であったという点は理解はするものの、都庁を外から無料で眺めるだけの観光コンテンツは当然ながらそこに直接消費は生みません。

では波及効果は?というと、東京都庁の周辺は高層ビルが林立しており、都庁の壁面で実施されるショーを直接観覧できる範囲というのはとても狭い範囲なんですね。

例えば前出の香港のライトショーは、ビクトリア湾を挟んだ両岸から対岸で行われるショーを相互に鑑賞できる造りになっており、鑑賞の範囲がビクトリア湾岸の広範な地域に及びます。こういうショーの造りである場合には、湾岸エリアの広範囲に「ナイトショーが見える」ことを売りとしたレストランやホテルなどの観光施設が開発されることとなり、そこに設備投資が行われ、そもそもは湾岸のそれ程治安も良くなかった地域の再開発に繋がり、周辺地域の不動産価値も上がる。こういった好循環が生まれます。

一方で、今回の東京都庁を舞台とした企画はというと、そもそもの都庁が高層ビル群に囲まれている為、鑑賞エリアが非常に狭く、経済的な恩恵を受ける範囲がとても狭い。おそらく今回の企画で直接、不動産価値があがるのは、今までも「都庁のライトアップが見える」を売りに客室やレストランを提供してきた近隣ホテルを中心としたほんの限られた事業者のみであり、そこから発生する観光投資は微々たるものとなるでしょう(彼らは儲かるでしょうが)。

ということで、今回の東京都庁のプロジェクションマッピング企画は、「通年永続実施をする為に覚悟を決めて予算を確保した」という点では評価ができるものの、その「使い方」においては残念ながら高く評価することは難しく、「観光振興」という目的をもってやるのなら、もっと見晴らしの良い(=影響範囲が広い)場所で、大きな設備投資が行われることを狙って企画を組まないとダメでしたね、という評価となります。

正直、今の企画だと18億円をペイする程の「意義ある」観光企画にはなってないでしょうね、というのが観光、特にその中でもナイトタイムエコノミーを中心に専門とする者としての雑感です。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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