Yahoo!ニュース

コロナ禍の豪雨・土砂災害という「複合災害」。くれぐれも「避難控え」に要注意

橋本淳司水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表
(写真:ロイター/アフロ)

新型コロナ感染症×豪雨×土砂災害という複合災害

複数の災害が同時に、あるいは連続して発生することを複合災害という。

2011年に発生した東日本大震災は、地震×津波×原発事故の複合災害だった。2016年に発生した熊本地震は、地震×土砂災害×豪雨の複合災害だった。現在、私たちが直面しているのは、新型コロナ感染症×豪雨×土砂災害という複合災害だ。

感染症を含む複合災害は、1665年の英国でのペスト大流行と翌66年のロンドン大火、第1次世界大戦中のスペイン風邪の流行などがあるが、昨年の令和2年7月豪雨は、まさに新型コロナ感染症×豪雨×土砂災害という複合災害だった。令和2年7月豪雨を元に、何が起きるかを考えてみたい。

懸念される避難控え

新型コロナ禍の複合災害で懸念されるのが、1)「避難を控えてしまう」、2)「対応する人員や物資が不足する」、3)「支援を控えてしまう」である。判断の難しい場面が多いが、まずは命を大切にする行動をとるべき。

まず、1)の「避難を控えてしまう」。コロナ感染リスクを考え、指定された避難場所、避難所に行かない人が増える。そのため危険な環境にとどまってしまい被災したり、必要な公的支援が得られないケースがある。

内閣府・消防庁は「新型コロナが収束しない中でも危険な場所にいる人は、避難が原則」と打ち出し、同時に避難所での感染症対策を呼びかけた。

実際、令和2年7月豪雨の際の熊本県内の避難所では、1人ひとりに検温を行い、マスクを全員に配布。密を避けるために、2メートル間隔にスペースを確保し、避難世帯ごとに卓球フェンスによる仕切りが設けられた。さらには3密を避け、空気の入れ替え、共有部分のこまめな消毒が行われた。

自宅にとどまるか、自宅外へ避難するか

最初に行うのは、自分の住む自治体のハザードマップで、自分の家がどこにあるか確認すること。

「平成30年7月豪雨(西日本豪雨)」では、270人を超える死者・行方不明者の被害が出た。なかでも岡山県倉敷市真備地区では川の堤防が決壊し、51人が犠牲になった。倉敷市が住民に配布したハザードマップは浸水域とほぼ合致していたが、住民の大半は、川の氾濫について、まったく心配していなかった。

ハザードマップで印をつけた場所に色が塗られていたら自宅外へ避難、色が塗られていなければ自宅で避難が基本だが、いくつかの例外がある。

【例外1】色が塗られていなくても周囲に比べて土地の低い場所、崩れやすい場所、崖の側に住んでいる場合は、自宅外へ避難する。

【例外2】色が塗られていても、

1)洪水による家屋の倒壊や崩落の恐れがない

2)ハザードマップで示されている浸水深度よりも高い場所に住んでいる(高層階など)

3)浸水しても水、食料などの備え、トイレや排水など衛生環境を確保できる(何日分必要かは「洪水浸水想定区域図」に記された浸水継続時間を参考にする)

という3つの条件が揃っていれば、自宅での避難も可能。

ただし、例外1、例外2ともに、見極めることが難しいこともあるだろう。もし迷ったら「避難する」と決め、避難先で公衆衛生を徹底する。雨の様子を見ながら避難するかどうかを決めるという態度は、逃げ遅れにつながりやすい。

雨、土地、土地開発の3つの要因を確認

災害は1つの要因で発生するわけではない。少なくとも以下の3つを考える必要がある。

著者作成
著者作成

1つ目は雨だ。大雨をもたらす線状降水帯が同時多発的に発生している。積乱雲の長い列が、長時間、同じ場所に居座ることで、特定地域での総降水量が多くなる。また、雨が止んでいても、上流域の水が時間とともに集まり、洪水を引き起こすケースもある。気象情報や河川情報を入手する。

2つ目は土地(地形や地質)だ。近年の豪雨災害に伴う土砂災害は、多量の降雨と花崗岩、花崗閃緑岩地域が重なった場所で多発している。花崗岩が風化したマサ土は浸食に弱い。

3つ目が自宅の上流部の土地開発。メガソーラー開発や大規模な皆伐があると土砂災害が発生しやすくなる。

3つを考え、可能性があるなら避難すべきだろう。

避難するタイミングと周囲への声がけや支援

避難するタイミングは避難先への距離、避難する人(あなたと同行者)が避難にどれくらい時間がかかるかで決まる。

内閣府・消防庁の「避難行動判定フロー」によると、避難に時間がかかる場合は「警戒レベル3」で、時間がかからない場合は「警戒レベル4」で避難することとしているが、想定浸水地域が広域に渡る場合には、避難場所・避難所が遠くになる可能性があり、より早めの避難が必要になる。

また、令和2年7月豪雨の際は、平屋に住む30人が溺死している。高齢者、要介護者は移動・誘導の困難であり、介護施設で14名が溺死している。このなかには自力で2階に上がれなかった人もいた。近隣に助けが必要な人がいないかを確認したい。

対応する人員や物資が不足する

次に、2)「対応する人員や物資が不足する」について。複合災害下では、対応してくれる行政や医療関係者などの人員、備蓄品が不足する可能性もある。感染防止や健康状態の確認のために必要となるものは可能な限り準備する。

<非常用品とリュックサック>

・マスク、消毒液、体温計(新型コロナの感染防止対策として持参することが求められている)

・防水機能のある懐中電灯(夜間に自分の居場所を知らせることもできる。胸ポケットにさせるタイプ、ヘッドライトだと両手があくので便利)

・予備電池(スマホ用のモバイルバッテリー)

・着替え

・タオル

・マッチやライター

・救急薬品

・携帯ラジオ

・貴重品(公衆電話に使える10円玉も)

・非常用食料と水(飲料水、乾パンやクラッカー、レトルト食品、缶詰、粉ミルク、哺乳ビン、ナイフ、缶切りなど)

・ボンベ式コンロ(自宅避難の場合)

・簡易トイレ、携帯トイレ(自宅避難の場合)

・油性の太マジック(被災後、壁などに連絡先やメッセージを書いたり、自分の所有物に名前を書く)

・丈夫な靴(底がしっかりしていて脱げにくいもの)

・軍手

・使い捨てカイロ

・紙おむつ

・生理用品

・厚手のごみ袋 など

・杖(避難時に足元を確認する)

・復旧作業用のマスク(土砂災害が起きたのち乾燥してくると埃が出る。ゴーグルもあれば便利)

支援を控えてしまう

 最後に、3)「支援を控えてしまう」について。感染症を含む複合災害では、他者との接触を避けがちになる。

 これまでお話ししてきた部分では、近隣への声がけ、体が不自由な人への支援が消極的になる。

 また、復旧作業においても、遠隔地からのボランティアが期待できない面がある。復旧の遅れによって、次の災害が発生するというマイナスの連鎖も考えられる。

 「支援を控えしまう」は新型コロナ感染症を含む複合災害が発生した時、解決するのが非常に難しい。だからこそ、自治体内での公助、近隣での共助を明確にし、シミュレーションしておくべきだろう。

水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表

水問題やその解決方法を調査し、情報発信を行う。また、学校、自治体、企業などと連携し、水をテーマにした探究的な学びを行う。社会課題の解決に貢献した書き手として「Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2019」受賞。現在、武蔵野大学客員教授、東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」プログラム研究主幹、NPO法人地域水道支援センター理事。著書に『水辺のワンダー〜世界を歩いて未来を考えた』(文研出版)、『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る〜水ジャーナリストの20年』(文研出版)などがある。

橋本淳司の最近の記事