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【ランニング前の動的・静的ストレッチは効果がないの?】自身の体の柔らかさと、その時々の体調で判断を

たくや/ランナー医師、ランナー、ランニングコーチ

スタート前にストレッチをする方を多く見かけます。着替えてスタートを待つ間、周囲のランナーがストレッチやジョギングをしていると、何となく自分もやらないといけない気がしてきたりします。スウェーデンで調査された研究では、ランナーがけがを予防するために一番多く選択されたのは、ストレッチであったという報告があります。本当にストレッチには、怪我を予防する効果があるのでしょうか。

下肢の怪我の予防にストレッチは無効

ストレッチがランニング中の怪我のリスクを軽減するかについての研究は、いくつかあります。その中で一番大規模な2011年の中国からの総括論文の「下肢軟部組織のランニング傷害を予防するための介入の効果」では、6件の研究で計5130人のランナーを調べています。結果ストレッチ療法は、軟部組織の損傷を防ぐことができないとしています。また2004年のアメリカの文献で、ランニングに限らずスポーツ中の怪我の軽減について調べたランダム化試験・コホート研究の総説論文では、ストレッチは怪我の減少とは関連していないとしています(オッズ比0.93、信頼区間0.78-1.11)。

ストレッチに加えてウォームアップ、クールダウンを行った421人のランナーを対象としたランダム化試験もあります。ウォームアップ、クールダウン、ストレッチを行うように介入した群と、介入しなかった群を比較した結果、1000時間あたりのランニング傷害発生は介入群5.5件と非介入群4.9件で、介入した効果はみられませんでした。

小さな規模の研究では、効果があるというものもある

とはいえ一部の少数のランナーを対象とした試験では、有効であったというものもあります。24人の女性ランナーを調べた研究で、腸脛靱帯症候群という慢性的な疼痛を抱えたランナーは、同部位のストレッチをすることでプラスの効果が生まれるとしています。また、自衛隊のトレーニングの前後にストレッチを組み合わせることで、筋肉や腱損傷、腰痛の発生率が低下したとの報告もあります。

限られた小さな研究ですが、効果があったという文献もあるのです。

実はランニング前の動的ストレッチも、パフォーマンス向上の効果がない?

怪我のリスクは減らなくても、ストレッチをした方が速く走れるのでは?と思う方も多いと思います。2014年のチュニジアの文献では、実際に静的ストレッチと動的ストレッチ、その両方を組み合わせた準備運動のあと、30m走とジャンプ力、敏捷性を調べています。結果どれもほとんど変わらなかったという結論でした。また2007年のアメリカの文献では、種々の準備運動ののちにダッシュとジャンプ力を調べていますが、静的ストレッチ後は逆にジャンプ力が低下したとの結果でした。特に静的ストレッチはサッカー選手の研究で、1日たってもパフォーマンスが低下していたとの研究もあるので、レース前だけではなくレース前日も柔軟体操は控えた方がよいかもしれません。

まとめ

静的ストレッチも動的ストレッチも、ランナー全員が必要というわけではありません。体の柔軟性や、その時々の体調で考えた方がよいのです。
痛めているところがあったり、長時間の電車移動で筋肉が硬くなっていたら、そこを中心に静的ストレッチをしましょう。レースの序盤にペースが上がらないランナーは、動的ストレッチをしましょう。反対に体が柔らかいランナーは、ストレッチをする必要はありません。以前記事でも書いたように、多少体が硬い方がパフォーマンスがあがるものです。

医師、ランナー、ランニングコーチ

41歳まで某大学病院の消化器肝臓内科で勤務、現在は都内の一般病院で内科医をしています。また、中学でランニングを始めて走歴は約40年、その経験を活かしてランニングステーションでコーチもしています。総合内科専門医・消化器病専門医・肝臓専門医・抗加齢医学会専門医、JMJA公認ランニングドクター他、資格は多数。フルマラソンの完走は67回でベストタイムは2時間50分31秒(2019湘南)。ランナーからよく聞かれることやランナーに伝えたい事を、科学的なエビデンスと経験をもとに記事を書いています。

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