【F1】開幕から2連戦をレビュー。レッドブルvsフェラーリの名勝負に世界中のファンから熱い視線
今年のF1は去年にも増して面白い。そんな印象を持つ人は多いのではないだろうか?
史上最もエキサイティングなシーズンと言われた2021年から大幅に車体レギュレーションが変更され、勢力図に明らかな変化が見えた2022年。中東で開催された2戦のレースを振り返る。
好調のフェラーリ、開幕を落としたレッドブル
開幕直前テストでの下馬評通り、2022年シーズンを牽引するのは「レッドブル」と「フェラーリ」だ。特にフェラーリの速さ、仕上がりの良さは本物で、開幕戦バーレーンGPではシャルル・ルクレールとカルロス・サインツが1-2フィニッシュを果たした。実はフェラーリはタイヤサイズが変更になった2010年の開幕戦・バーレーンGPでも1-2フィニッシュを果たしている(当時はアロンソとマッサ)。
2010年は開幕1-2フィニッシュの後、その後9レースも優勝から遠ざかってしまったフェラーリだが、今季の第2戦・サウジアラビアGPはレッドブルとマッチレースを展開し、優勝は逃したもののルクレール、サインツ共に2戦連続の表彰台を獲得した。
一方、「レッドブル」は開幕戦の決勝レース中に燃料系やブレーキの冷却など複数のトラブルが発生。レース終盤にマックス・フェルスタッペン、セルジオ・ペレス2台共にリタイアするという最悪の結果に終わってしまう。
サウジアラビアGPではセルジオ・ペレスがポールポジションを獲得し、決勝ではペレスがレースをリードしたものの、ペレスにとって運悪くセーフティカーが導入されたことで、優勝争いはフェルスタッペンとルクレールの対決に。最終ラップまでそのバトルは続き、僅か0.549秒差でフェルスタッペンが今季初優勝を飾った。
レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表は「(サウジアラビアGPは)マックスが非常に戦略的な素晴らしいレースをした。序盤2戦は2チーム(レッドブルとフェラーリ)による素晴らしいレースができたし、フェラーリはとても速いから、ここから彼らとの競争が続いていくはずだ」とコメント。
2022年に向けての新しい開発に集中してきたフェラーリが獲得ポイントではリードしているが、レッドブルが速さで凌駕し、失った開幕戦のポイントを取り返せるかに注目だ。
苦悩のメルセデス
王者メルセデスの苦悩は深刻だ。開幕戦・バーレーンGPではルイス・ハミルトンが3位表彰台を獲得したものの、これはレッドブルのリタイアに助けられてのもの。第2戦・サウジアラビアGPではルイス・ハミルトンが予選Q1で敗退するという大波乱があり、決勝でも10位でフィニッシュするのがやっとだった。
新加入のジョージ・ラッセルはトップ争いの接近戦に加わりながらもステディなレースを展開し、2戦連続のトップ5フィニッシュを達成。マシンが波打つ現象、ポーパシングに悩まされる厳しい状況の中、ラッセルは可能な限りのポイントをチームにもたらした。
メルセデスの苦悩について、トラックエンジニアのアンドリュー・ショブリンは「サウジアラビアのコースは我々にとってバーレーンよりも厳しく、イリュージョンを起こせる要素はなかった。我々は過去8年間、様々な問題を克服してトップに居ることができたし、我々にはそれができると思う。なぜならファクトリーには優秀かつ献身的に仕事をする人材が揃っているからね」
2014年のパワーユニット規定導入以来、初めて直面する大きな困難をメルセデスは乗り越えることができるだろうか?
マシンのバランス改善以上にメルセデス・パワーユニット勢の苦戦ぶりはもっと深刻だ。高速市街地コースのジェッダ(サウジアラビア)の予選においてQ1敗退となったのは、トラブルを抱えてアタックできなかった角田裕毅(アルファタウリ)を除くと全てメルセデスユーザー。パワーユニットの劣勢ぶりはかなり深刻である。
メルセデス勢の不調に乗じて躍進しているのが、フェラーリパワーユニットを使う「ハース」と「アルファロメオ」だ。ロシアのウクライナ侵攻の影響により、メインスポンサーとニキータ・マゼピンを失ったハースだが、急転直下でシートを獲得したケビン・マグヌッセンが2戦連続の入賞。アルファロメオも開幕戦ではバルテリ・ボッタスが6位、新人の周冠宇が10位でダブル入賞を果たした。
ホンダが製作したレッドブルパワートレインズ勢はトラブル続きなのが心配の種。角田裕毅はサウジアラビアGPで予選を走れず、決勝でもレース直前にエンジントラブルでリタイアとなってしまった。
接近戦の面白さ、問われるF1の対応
今季はマシンがウイングカーになったことで、後方の乱気流が少なくなり、マシン同士がかなり接近してバトルができるようになった。オーバーテイクを促進するリアウイングのDRSは不要なのでは?という声も上がるほど、スリリングな闘いがあちらこちらで展開されている。
勢力図の変化もあり、今季のF1は確かに面白い。ニューマシン特有のマシントラブルも多く、それも含めてドラマティックだ。戦えるマシンを得たチーム、パフォーマンス不足に苦しむチームで明暗がハッキリと分かれ、ドライバーやチーム関係者の人間模様がよりクローズアップされるシーズンになっている。
しかも、これだけの接近戦であるにも関わらず、トップドライバーたちは正々堂々とした素晴らしいバトルを展開しているし、まるでドキュメンタリー番組撮影のためのシナリオでもあるのかと思うくらい、バトルに見応えがある。当然、ファンからの評価も上々だ。
しかしながら、先日のサウジアラビアGPではコース近隣の石油関連施設がミサイル攻撃を受け、それでもサウジアラビアGPを開催しようとするF1に「信じられない」「Cash is King」という批判のコメントがSNSに相次いだ。
「Cash is King」(お金が大事なのだ)という言葉は新型コロナウィルスの感染拡大が始まった2020年の開幕戦・オーストラリアGPの開催を強行しようとしたF1に対し、ルイス・ハミルトンが皮肉を込めて発言した言葉。
コロナ禍に続いて、アメリカでの人種差別問題、今度はロシアのウクライナ侵攻があり、世界を転戦するグローバルスポーツであるF1はその度にメッセージを発信し、問題に向き合う姿勢を見せてきた。しかし、今回はサウジアラビアの特殊な事情があり、安全が確保されたとのことで開催に至ったが、ミサイル攻撃というテロ行為がありながらグランプリが続行されることを理解できないファンもいる。
結果として、サウジアラビアGPはフェルスタッペンvsルクレールの歴史に残る名勝負の舞台となったが、平和な社会があってのスポーツだ。今後の開催も含めてF1の対応が問われている。