【全日本ロードレース】JSB1000はヨシムラの参戦、注目のルーキーなど見どころが大幅増!
国内オートバイレースの最高峰「MFJ 全日本ロードレース選手権」の2022年シーズンが4月2日(土)、3日(日)に栃木県・モビリティリゾートもてぎ(ツインリンクもてぎから改称)で開幕する。
コロナ禍によって2年連続で夏の鈴鹿8耐や秋のMotoGP日本グランプリなどの世界選手権レースが中止となり、若干トーンダウンした印象だった2輪レースだが、今季は国内の全日本ロードレース選手権の最高峰、JSB1000クラスのレースが充実しそうだ。
中須賀の強敵に?ヨシムラの渡辺一樹がフル参戦
排気量1000ccのスポーツバイクで争う「JSB1000」には絶対王者と呼ばれる存在のライダーがいる。ヤマハのワークスチーム「YAMAHA FACTORY RACING TEAM」のエース、中須賀克行だ。
昨年2021年も開幕戦から連勝を続け、なんと7月に開催の鈴鹿・MFJグランプリで早々と年間チャンピオンを決めてしまった。2020年にチームメイトの野左根航汰にチャンピオンの座を奪われ、40歳を目前に流石にその速さに陰りが見えたかに思えたが、全くそんな心配は要らなかった。
2021年の中須賀は予選もレースもほぼパーフェクトなパフォーマンスを見せ、安定感あふれる走りを披露。バトルの局面でも巧みにライバルを翻弄させながら、レース後半に勝負どころを持ってくる走りにはさらに磨きがかかった印象だ。11レース中10勝をマークし、全日本ロードレース最高峰クラスで史上最多10回目のチャンピオン獲得を達成した。
しかし、今季は中須賀に最大級のライバルが現れる。昨年、「ヨシムラスズキ」の開発ライダーとしてFIM世界耐久選手権用のスズキGSX-R1000を進化させてきた渡辺一樹がヨシムラのマシンと共にフル参戦することになったのだ。昨年スポット参戦した開幕戦もてぎのレースでは予選でポールポジションを獲得。優勝は2レースとも中須賀に奪われたものの、ヨシムラのスズキGSX-R1000のポテンシャルアップは誰の目にも明らかだった。
渡辺は4月の鈴鹿2&4レースにも出場を予定していたが、直前のテスト走行で負傷。そのまま最終戦まで全日本ロードレースを走る機会はなくシーズンを終えることになった。そんな渡辺一樹は一人のライダーとしてシーズンを通じてのフル参戦を熱望。その思いに応えたのが2019年にヨシムラで渡辺のチームメイトだった加賀山就臣だった。
先日の東京モーターサイクルショーで、ライダーとしては全日本ロードレースから引退することを発表した加賀山だが、渡辺一樹をチーム監督職であるチームマネージャーとして支えることになった。ほぼワークスマシン級との呼び声が高い、ヨシムラチューンのスズキGSX-R1000を渡辺が走らせ、加賀山が「Team KAGAYAMA」のメンバーと共にバックアップする新体制「ヨシムラスズキ ライドウィン」としてフル参戦する。
昨年の開幕戦のレースを見ても察しがつく通り、今シーズンのJSB1000は中須賀vs渡辺の一騎打ちになる可能性が濃厚だ。開幕戦からこの2人が突出したパフォーマンスを見せることになるだろう。
注目の新人は岡本(ヤマハ)と作本(ホンダ)
開幕戦を前に残念なニュースもあった。ホンダのエース級チーム「SDG Honda Racing」からホンダCBR1000RR-Rで参戦を予定していた名越哲平がテスト中の怪我により開幕戦出場を断念したことだ。昨年、JSB1000のルーキーながらも2位表彰台を2回獲得した名越に対する期待は大きかっただけに、開幕の2レースがノーポイントになるのはかなりの痛手だ。
そういうことからも「中須賀vs渡辺」の対決構図になりそうな雲行きなのだが、昨年の名越のパフォーマンスを見てもわかるとおり、近年はJSB1000と同じ1000ccバイクを使う「ST1000」クラスから昇格してきた若手ライダーの勢い、伸び代が目立つ。
今季は昨年ST1000でランキング2位を獲得した「Astemo Honda Dream SI Racing」の作本輝介(さくもと・こうすけ/25歳)、そして昨年ルーキーながらも優勝した岡本裕生(おかもと・ゆうき/21歳)らがST1000からJSB1000に昇格する。
特に岡本裕生はまだ21歳という若さながらも、ST600クラスですでに2度の全日本チャンピオンを獲得した実力の持ち主。一発の速さはもちろん、雨がらみの開幕戦でベテランライダー相手に3位表彰台を得るなど、高い順応性も見せる。
そんな岡本は今季、ヤマハから高い評価を受け、ワークスチーム「YAMAHA FACTORY RACING TEAM」のライダーに抜擢された。JSB1000ルーキーながらいきなりワークス体制で走る環境を得たライダーは近年では稀だ。
JSB1000はメーカーの最新技術がマシンに盛り込まれ、タイヤの技術競争が存在する「尖った仕様」のマシンがトップを争う。つい最近まではJSB1000の特殊な走らせ方をマスターするのに数年はかかるケースが多く、若手はプライベートチームや育成チームで経験を積むというのが定番だった。
しかし、それはちょっと昔の話。今季の大幅な進化が期待されるホンダCBR1000RR-Rに乗る作本、ヤマハワークスから参戦する岡本のように勢いがある若手が起用される傾向にあるのだ。昨年、名越哲平がシーズン後半戦で結果を残したように、JSB1000ルーキーたちにとって開幕戦、第2戦くらいまでの4レースは厳しい戦いになるかもしれないが、後半戦では「中須賀vs渡辺」の対決に割って入ってくるのではないだろうか。
伏兵となり得る中堅チームのライダーたち
贅沢なレース環境を得た若手、ルーキーが居る一方で、プライベートチームで走る経験豊富なライダーたちの存在も忘れてはならない。
昨年、全戦でポイントを獲得し、ランキング2位を得た濱原颯道は「Honda Dream RT桜井ホンダ」からの継続参戦が決定。プライベート体制ながらも着実に結果に繋げる走りは昨年より2レース多い、年間13レースで争う2022年シーズンを戦う上ではチャンピオン獲得に向けては重要な要素になるはずだ。
そういう意味では心機一転「TOHO Racing」に移籍したベテラン、清成龍一の開幕戦欠場は残念だ。厳しい寒さが続いたこの冬は、テスト走行のチャンスも限られていただけに多くのライダーがまだまだ準備不足。開幕戦の週末も厳しい寒さになる可能性があり、とにかく怪我なくシーズンを全戦戦い抜くことが大切だ。
そんな中、マシントラブルにもめげずに積極的にマシンを進化させているのが、本田技研・鈴鹿製作所の社内チーム「Honda Suzuka Racing Team」だ。チームの母体であるオートバイ部の部長でもある亀井雄大は昨年、夏の鈴鹿で中須賀克行とトップ争いを演じてみせた。同チームは部活の活動費の予算内で創意工夫をし、独自の哲学でマシンを進化させている、ある意味JSB1000らしいチーム。前半はもてぎ、鈴鹿と亀井が得意としているコースでのレースが続くだけに期待が大きい。
また、秋吉耕佑、柳川明、武田雄一などかつて全日本の最高峰クラスで優勝を争ったライダーたちのベテランらしい走りにも注目。特に武田雄一は12年ぶりのフル参戦となる。
若手からベテランまで幅広い年齢層とバックグラウンドを持ったライダーがエントリーし、昨年にも増して注目度がアップした印象のJSB1000クラス。そのレースの模様はYouTubeの「motoバトルLive」チャンネルで無料ライブ視聴が可能。今や無料でライブ中継が見れるレースが少なくなっているだけに、気軽に全日本ロードレースを楽しんでみてはいかがだろうか。