F1とMotoGPの元ワールドチャンピオンも参戦!14社の自動車メーカーが争う耐久レースに注目
F1・バーレーンGPの決勝レースと同日3月2日(土)に、バーレーンから100kmも離れていない中東のカタールで開幕するのが「FIA世界耐久選手権(WEC)」だ。自動車耐久レースの最高峰として、6月の「ル・マン24時間レース」を最重要イベントとして全8戦で開催されるが、2024年は14社もの自動車メーカーブランドが参戦することになり、最高の盛り上がりを見せている。
メーカーだけでなくドライバーも豪華
2024年のWECは自動車メーカーの大量参戦によって、中間に位置したプロトタイプカークラス「LMP2」が廃止(ル・マン24時間だけは実施)となり、総合優勝を争うプロトタイプカー「HYPER CAR」とFIA GT3車両を使用する「LMGT3」の2つのクラスでレースが実施される。
新設された「LMGT3」は世界共通カテゴリーであるFIA GT3に変更されたことで、マクラーレン、レクサスなど近年WECに参戦していなかったメーカーの参入を促すことに成功。ドライバーラインナップには必ずアマチュアドライバーを一人は起用しなくてはいけないプロアマ混成のルールだ。
しかしながら、総合優勝を争う「HYPER CAR」クラスはプロドライバーだけの構成でもOK。そのため元F1ドライバーや世界各国のGTカークラスで活躍してきた耐久のスペシャリストたちが集い非常に豪華なラインナップになっている。
中でも近年はF1を経験したドライバーの起用が目立つ。「HYPER CAR」には多くの元F1ドライバーがエントリーしているのだ。その例を挙げてみるとセバスチャン・ブルデー(キャデラック)/小林可夢偉(トヨタ)/セバスチャン・ブエミ(トヨタ)/ブレンドン・ハートレー(トヨタ)/ニック・デ・フリース(トヨタ)/ミック・シューマッハ(アルピーヌ)/アントニオ・ジョヴィナッツィ(フェラーリ)/ロバート・クビサ(フェラーリ)/ポール・ディレスタ(プジョー)/ストフェル・バンドーン(プジョー)/ダニール・クビアト(ランボルギーニ)などメーカーワークスあるいはセミワークスだけでもF1で注目されたドライバーたちが名を連ねる。
最近までF1に乗っていたドライバーも参戦し、F1で残念ながらシートを失ってしまったドライバーたちがキャリア第2章として耐久レースで重宝されているのが分かる。この傾向は過去にグループCカー全盛の時代にもあり、その時代と酷似した雰囲気が戻ってきた。
名前を挙げた元F1ドライバーたちの多くはすでに耐久レースに軸足を移し、経験を積んできている。トヨタの小林可夢偉やセバスチャン・ブエミらはすでにF1よりも長いキャリアを耐久レースで積んでおり、彼らはすでにスペシャリストと言える。
バトンがポルシェでフル参戦!
そんな中でも今年のWECで一番のビッグネームは2009年のF1ワールドチャンピオン、ジェンソン・バトン(ジョタ・ポルシェ)のフル参戦だ。バトンがF1でチャンピオンになったのはもう15年も前のことになり時の流れの速さには驚かされるが、彼は今も世界的影響力を持つレジェンドの一人。日本でも絶大な人気を誇るドライバーで、SUPER GTに参戦して2018年にチャンピオンに輝いたことを覚えている人も多いだろう。
近年はF1解説者を務めながら、「エクストリームE」や「NASCAR」など様々なモータースポーツにチャレンジし、今年1月の「IMSAデイトナ24時間」ではアキュラをドライブして3位でフィニッシュした。すでにF1ワールドチャンピオン獲得から15年、SUPER GTチャンピオン獲得から6年が経過しているが、まだ44歳。F1時代から続く安定した走りとチームワークを大切にする人柄は耐久レースの世界で重宝されるだろう。
そんなバトンのチーム体制はポルシェワークスではなく、ポルシェ963を購入したカスタマーチーム「ハーツ・チームジョタ」からの参戦だ。同チームはル・マン24時間のプロトタイプカークラスで20年の経験を持ち、ル・マンで3回クラス優勝(LMP2)した名門プライベーター。ワークスチーム体制ではないが、「HYPER CAR」クラスではカスタマーチームにもワークスと同じマシンがデリバリーされるため、戦える条件は充分に整っている。昨年はトヨタ、フェラーリの後塵を拝することが多かったポルシェだが、その分BoP(性能調整)で優遇される状況であり、バトンがドライブする38号車「ハーツ・チームジョタ」が上位争いをする局面もあるはずだ。
バトンは2018年にロシアのSMPレーシングからWECに参戦した他、昨年はNASCARマシンベースのシボレー・カマロでル・マン24時間にゲスト参戦した。しかしながら、フルシーズンの参戦となると初。元F1ワールドチャンピオンの実力に期待したい。
MotoGP王者ロッシが4輪・世界選手権に
バトンと並んで注目は2輪・ロードレース世界選手権で7度のワールドチャンピオンを獲得したレジェンド、バレンティーノ・ロッシの参戦だ。ロッシは「LMGT3」クラスにBMW M4 GT3で「チームWRT」からフル参戦。MotoGP現役時代には将来のF1転向が幾度となく噂されていたが、そんなロッシがついに4輪の世界選手権レースにデビューする。
2021年を最期にMotoGPからライダーとしての引退をし、2022年からロッシはGTカーレースへの参戦を開始。GTワールドチャレンジ・ヨーロッパに参戦しアウディをドライブした後、2023年はBMWをドライブ。オーストラリアのバサースト12時間ではトップ争いを展開しただけなく、6月のル・マン24時間の前座レース「ロードトゥルマン」でクラス優勝、さらにGTワールドチャレンジのスプリントカップでは母国イタリアのミサノサーキットで初の総合優勝を勝ち取った。
2輪では誰もがその存在を知るレジェンド中のレジェンドだが、本格的な4輪レースでの経験はまだ2年しかない状態。しかし、2年目で結果を残すのは2輪時代から続くロッシのキャリア形成パターン。そして世界選手権レースへのデビューを勝ち取ったのだ。
2輪レーサーの4輪転向後の活躍といえば、1960年代にジョン・サーティースがF1でワールドチャンピオンに輝いた例が代表的。80年代の人気レーサー、ワイン・ガードナーが全日本GT選手権(現在のSUPER GT)に参戦、エディ・ローソンがチャンプカーシリーズ(現在のインディカー)に参戦したこともあった。近年ではケーシー・ストーナーがオーストラリアのスーパーカーシリーズに参戦するなどしたが、2輪時代ほどの大成功といえるまでには至っていない。
4輪・世界選手権に挑戦するロッシがどこまで活躍できるかは非常に興味深いが、「LMGT3」クラスはプロ・アマ混成によるレースで、必ず一人はラインナップに入っていないといけないブロンズランクのドライバーの実力にも左右される。
46号車「チームWRT」のブロンズドライバーはオマーン出身のアハマド・アル・ハーティで、同国で初めてレース用ライセンスを取得したドライバーながら、昨年はアストンマーティンを駆りポールポジション1回、ル・マン24時間では初参戦で2位フィニッシュという実力の持ち主。ロッシにとっても心強い戦力と言える。それだけにロッシのル・マン24時間での表彰台、あるいはWECでの世界選手権・初優勝というニュースが届く可能性は充分にあるはずだ。
FIA WECの日本戦は2024年9月13日(金)〜15日(日)に富士スピードウェイで開催される。MotoGPからロッシが引退し、寂しさを感じているファンは4輪レーサーに転向したロッシに会いにいってみてはいかがだろうか。今シーズンは2輪ファンもWECに注目してほしい。