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Netflixで配信開始!アメリカの人気レース「NASCAR」は変革のとき

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
NASCAR/ジョーイ・ロガーノのマシン(写真:DRAFTING)

映画「カーズ」のモデルにもなったアメリカの人気自動車レース「NASCAR(ナスカー)」が2024年2月18日(日/米国)に66回目を迎えるビッグイベント「デイトナ500」から開幕する。日本では久しぶりに「GAORA SPORTS」が「デイトナ500」の生中継を放送する。

そんなNASCARが1月末に世界的人気のコンテンツプラットフォーム「Netflix」に登場。2023年の終盤戦が舞台の「NASCAR フルスピード Season1」を配信開始し、グローバルランキングのトップ10に入り込んだのだ。フロリダ州のFirst Coast Newsのリポートによると、すでにドライバーたちもSNSへの大きな反響を感じているという。「NASCAR フルスピード Season1」は日本でも字幕付きで鑑賞可能だ。

NETFLIX
NETFLIX 写真:Lee Jae-Won/アフロ

新しいファン層拡大を狙うNASCAR

かつては日本でもレースが招聘され、モータースポーツファンにはその名前が知られていたNASCAR。元々はアメリカ南部発祥のストックカー(市販車ベース)のレースだが、アメリカでは90年代からその人気が拡大し、2000年代には野球の大リーグを上回るほどの影響力を持っていた。

しかしながら、近年はいつも超満員だった観客席に空席が目立つ。最重要レース「デイトナ500」は今も国民的人気イベントだが、それ以外のレースではかつてほどの勢いは無くなっている。

NASCAR
NASCAR写真:REX/アフロ

そんなNASCARは今まさにテコ入れの最中だ。新しいファン層の取り込みのために様々な施策に取り組んでいるが、その一つが「グローバルなファン拡大」である。アメリカ独特の楕円形オーバルコースが主体のNASCARに近年は左右にカーブするサーキット(ロードコース)のレースが少しずつ増加。

ロードコースのレースに限って、他の国の有名ドライバーが参戦するようになり、昨年はキミ・ライコネンジェンソン・バトン小林可夢偉ら元F1ドライバーや、オーストラリアで人気のスーパーカーズ選手権の王者シェーン・バーン・ギスバーゲンらがスポット参戦。

さらに最新NASCARマシンをベースにしたシボレー・カマロでル・マン24時間にゲスト参戦するなどグローバルなプロモーションを展開し、アメリカ以外のファンの注目を集めた。今年もそういったドライバーのスポット参戦はあるだろう。

ジェンソン・バトンらがル・マン24時間レースでドライブしたシボレー・カマロ(写真:DRAFTING)
ジェンソン・バトンらがル・マン24時間レースでドライブしたシボレー・カマロ(写真:DRAFTING)

また、2018年からアフリカ系アメリカ人のドライバー、ブッバ・ウォレスが参戦したことで、以前はほとんど見かけなかったアフリカ系やラテン系など様々な人種のファンの姿が会場で見られるようになった。今のNASCARのサーキットは以前とは違い多様性を感じる雰囲気だ。

唯一のアフリカ系アメリカ人ドライバー、ブッバ・ウォレス
唯一のアフリカ系アメリカ人ドライバー、ブッバ・ウォレス写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

新しいファン層の拡大を狙ってきたNASCAR最大の起爆剤となりそうなのが、Netflixでの番組配信である。同プラットフォームではF1が「Formula 1:栄光のグランプリ(原題:Drive to Survive)」を配信し、デジタルネイティブな若い層の取り込みに成功し、全くF1が人気を獲得できていなかったアメリカで今や年3回もグランプリを開催するまでになった。

F1ラスベガスGP
F1ラスベガスGP写真:ロイター/アフロ

これまでアメリカ国内・テレビ放送の影響力に頼ってきたNASCARだが、ついに新たなプラットフォームを使った戦略に出たのだ。「NASCAR フルスピード」は全5話。シーズン終盤戦のプレーオフに挑んだドライバーたちの人間模様、チームスタッフや家族との絆など人間にフォーカスを当てた部分は「Formula 1:栄光のグランプリ」に近い。マシンやテクノロジーについてはあまり言及せず、ドライバーのキャラクターを通じてNASCARの魅力を伝える、よくできた構成になっている。

「デイトナ500」をテレビ観戦する前に見ておくと、より感情移入できるだろう。

旧態依然とした雰囲気からの脱却

「NASCAR Full Speed」のストーリーの中には、これまでNASCARが重んじてきたアメリカ南部発祥のレースであるプライドや歴史という点はほとんど出てこない。昨年、NASCARは75周年というアニバーサリーイヤーだったにも関わらず。それよりもスピーディーに進んでいくストーリーの中で「eスポーツ出身」や「最新のトレーニング」など今の時代に沿った要素を散りばめている。これまでなかなか伝わりづらかったNASCARの今を伝えようとしていると感じた。

昨年75周年を迎えたNASCAR(写真:DRAFTING)
昨年75周年を迎えたNASCAR(写真:DRAFTING)

実際にNASCARは昔のままばかりではない。マシンも2022年からカーボンファイバー製のカウルを装着し、6速シーケンシャルミッションで空力面でも大幅見直しを行った新型車両「NEXT Gen」を導入。NASCARの名物だった5穴ホイールナットは姿を消し、センターロック式に変更されたことでタイヤ交換はスピーディーになった。エンジンは相変わらず5.8リッター・V8の大排気量で車重も1.6トンと非常に重いが、ルックスはより現代のGTレースカーに近いものになった。

コースも以前は2戦しかなかったロードコースのレースが今季は5戦開催。昨年からはNASCAR初となる市街地コースでのレースもシカゴで始まるなど、近年は様々なトライをしているのだ。

NASCAR(2021年)
NASCAR(2021年)写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

NASCARのロードコースのレースは面白い。F1に代表されるヨーロッパ文化のモータースポーツと違いトラックリミット違反(=コース外走行)という概念がなく、大幅にコースを逸脱して1.6トンもある重いマシンをコーナリングさせていく姿は迫力満点だ。しかも、F1の「DRS」のようなオーバーテイクを促進する装置は存在せず、ドライバーが自分の力で追い抜きをかける。シリーズとして様々な面を洗練しつつも、最後は捨て身の勝負に近い肉弾戦となる魅力を残している。

また、シリーズ全体の総獲得ポイントでチャンピオンが決まる他のモータースポーツと違い、NASCARでは2004年からシーズン終盤戦にプレーオフ戦を設定。今季であれば第26戦までの成績でプレーオフ進出者が16人に絞られ、3戦ごとにチャンピオン候補が4人ずつ脱落し、最終戦となる第36戦・フェニックスでは最終チャンピオン候補4人の内の最上位がチャンピオンに輝く。絶対に最後まで年間チャンピオンが決まらないシステムとなっており、その2023年シーズンの模様がNetflix「NASCAR フルスピード」で描かれている。

NASCAR(写真:DRAFTING)
NASCAR(写真:DRAFTING)

NASCARは急に変わったわけではなく、ファンの意見を聞きながら徐々にそのシステムやルール、演出方法を見直し変化させてきた。Netflixでの発信はその積み重ねを今までのファンとは違う層に知らしめるタイミングが来たということなのだろう。これを機にNASCARはアメリカでの人気を復活させることができるのか、そしてグローバルな選手やスポンサーを受け入れ、そのフィールドを拡大していくことになるのだろうか。

NASCARには日本のトヨタも参戦しているだけに、日本人ドライバーにもぜひチャレンジするチャンスを作って欲しいところだ。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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