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袋小路に陥っている2020年コミケ会場問題

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

さて、タイトルではあえて「コミケ会場問題」と書きましたが、今回ご紹介するのはコミケのみならず東京ビッグサイトを利用して開催される様々な展示会全体の問題です。まずは本問題についてあまり認知をされていない方に対して軽くおさらいから。

我が国では2020年に東京オリンピックの開催が決定しているワケですが、その実施にあたって首都圏の各大型イベント会場の民間利用が制限されることとなります。特に問題となっているのが、我が国の各種展示会のメッカとなっているお台場の東京ビッグサイト。東京ビッグサイトはオリンピック期間中、世界各国の報道機関の拠点となる国際放送センターやメディアプレスセンターとして利用されることが決定しており、2019年4月から準備工事が始まり、東京オリンピック終了まで段階的に利用が不可となってゆきます。このことによって、一部施設では最大で約1年半もの期間が使用不可となってしまうこととなり、その間予定されるであろう様々な民間イベントが路頭に迷ってしまうわけです。

当然ながらオリンピックの主催者である東京都としては、このビッグサイトの会場問題は早い段階から認知しており、2015年末には公民あわせた各関係者で組織する連絡会議を発足させ、問題解決に向けて動いてきました。ただ正直、この連絡会議自体が上手く機能していないのが実態。結果的に、ビッグサイト会場問題がまさに現在進行形で袋小路に陥ってしまっているわけです。

特にこの論議の中で「ガン」となっているのが日本展示会協会(通称:日展協)の存在です。日展協は日本の展示会業者を束ねる団体として、早期からビッグサイト会場問題を社会に向かって訴えてきた主体ではあるのですが、「問題解決の為の対話」ではなく「自己都合の無理難題」を延々と主張するという発言スタイルを取っており、一部からはその姿勢が「築地問題を引っ掻き回した共産党系の市場関係団体とそっくり」などとも言われて始めている始末です。以下ではその主張の変遷をご紹介しましょう。

第一幕:日展協、仮設メディアセンターの建設を求める

本問題に対する日展協の元々の主張は「ビッグサイトを五輪用メディアセンターとして転用するのではなく、新たな仮施設を作ってそれを五輪施設に充てよ」というものです。この主張は2015年11月に日展協から公式声明として発表されるわけですが、当時の日展協はそもそも「東京の湾岸エリア一帯は五輪開催の数ヶ月前から大規模なイベントの開催が制限される」ということを理解していなかったフシがあります。

オリンピックのような大規模国際イベントにおいて、最も懸念されるのがテロ等への対策です。世界各国の要人が集まり、またあらゆるメディアから注目を受けるオリンピックは、それを政治的なアピールに利用したい反体制側の組織にとっては絶好のアピールの場、すなわちテロの標的となります。特に選手村を中心に五輪関連施設の集中する東京湾岸エリアはセキュリティ上の最重要エリアのひとつとなっており、この一帯は五輪開催の半年前から大規模イベントの開催が抑制される他、あらゆる大型の開発工事は半年前までに終了させておくようにと、警視庁からゼネコン各社に要請が出ている状況です。

今回の一連のビッグサイト会場問題は「ビッグサイトがメディアセンターに転用されること」が最大の問題であるかのように語られているフシがありますが、実はそれは問題の本質ではありません。そもそもこの期間中に、東京お台場に立地するビッグサイト自体で大きなイベントを開催することが出来ないことが発端であるわけです。なので、実は日展協がそもそも主張していたような「メディアセンターを仮設で作って、ビッグサイトはコレまでどおり使わせろ」という論は、実は本問題においてなんら解決策とはならないわけです。

ただ東京都はこのような日展協の主張に対しても、最大限の配慮を行っています。東京都は2016年2月に東京ビッグサイトの代替施設を同じくお台場内の青海に仮設で建設することを発表、また元々計画されていたビッグサイトそのものの拡張工事を半年ほど前倒しにすることで、2019年7月からは現時点でお台場で供給されている展示場面積の約9割を供給可能としました。勿論これは、日展協が求めてきた「五輪施設側を仮設施設に充てよ」という要望に対する100点の回答ではないですが、一方で五輪向けのメディアセンターを確保しながら、一方で日展協の求める「お台場で、同等規模の展示会が開催できる環境」の確保に最大限努めた結果であったわけです。但し繰り返しになりますが、どれだけお台場内に仮設の展示施設を作ったところで、東京五輪開催前から終了までの間、これら施設が大規模イベントの為に使用できないという要件は変わりません。

第二幕:日展協、首都圏以外の他都市での大規模施設の開発を求める

ところが日展協は上記のような東京都による代替施設案が出てから2ヶ月を経た2016年4月に、突如これまでとは全く異なる主張を展開し始めます。それが「首都圏以外でも、来場者が集まりやすい都市に5 万~10 万平米の大規模会場ができれば、ビッグサイトの代替地にもなり得る」という主張です。この主張は同年同月に発表された日展協の公式声明文として関係者各位に流布されることとなります。

当然ながら日展協の主張に対して最大限の配慮をしお台場での仮設施設計画を進めてきた東京都としては青天の霹靂なわけですが、打って変わってこの日展協の声明に気を良くしたのが愛知県です。実は愛知県は2019年秋から中部国際空港至近に総床面積6万平米の国際展示施設を開業させる計画を進めており「我こそはビッグサイトの代替施設である」として猛烈アピールを始めることとなります。

【参考】拠点性・魅力アップでセントレア巻き返しへ! 空港島はこう変わる!

五輪のコミケへの影響は?国際展示場の早期建設は吉?凶?

http://machicarrot.com/blog/16805

何はともあれ、日展協が求めていた「首都圏以外で来場者が集まりやすい都市での5 万~10 万平米の大規模会場」が供給される。このことによってビッグサイト会場問題はやっと収束に向かう…関係者一同が胸を撫で下ろしていたわけです。

第三幕:日展協、「やはり首都圏での代替施設が必要」と主張を始める

ところが、日展協はまたも主張を翻します。2017年1月、日展協は再び公式声明分を発表。当該声明文では、愛知県が「来場者が集まりやすい都市に5 万~10 万平米の大規模会場」という要件を満たす会場計画をたて、ビッグサイトの代替施設として名乗りを上げたにもかかわらず、「残念ながら問題は解決されていない」と切って捨てた後、「やはり、次のような全面的な解決を各方面にお願いしたい」としてビッグサイトと同規模の仮設展示場 (8 万平米) を首都圏に建設すべきとの主張を改めて表明しました。

但し、今回は「東京湾岸エリアは五輪直前から大規模イベントが出来ない」ということをやっと理解したのか、仮設展示場の建設場所を「例えば築地市場跡地、羽田空港近辺をはじめ、その他適切な場所。都内が難しければ、みなとみらい地区、山下ふ頭、幕張メッセ近辺など」と用地を指定し、改めて首都圏での仮設展示場の開発を主張し始めたわけです。当然ながらこの日展協の主張には、同協会の求めに応えてお台場に仮設展示場の開発を決めた東京都、ビッグサイトの代替施設として名乗りを挙げた愛知県は唖然とせざるを得なかったわけです。貴方達が主張してた従前の主張は一体何だったのか?と。

現在、この様な周辺関係者達の割り切れない気持ちをよそに、日展協はさらにその主張を強化しています。2017年9月日展協は、上記声明文に引き続く第五弾目となる公式声明を発表。その声明文では、前回発表では8 万平米として求めていた首都圏の仮設展示場の規模を一気に10万平米にまで上乗せ、「候補地は羽田空港近辺、みなとみらい地区、山下ふ頭、幕張メッセ近辺など、様々な場所が考えられる」などとして改めて仮設展示場の建設を求めて、現在に至っている状況です。

このような日展協の支離滅裂な主張により現在、ビッグサイト会場問題は完全なる袋小路に陥っているところ。そうこうしている間にタイムリミットが刻々と近づいてきているワケですが、この問題は一体誰が、どの様な形で着地をさせるのでしょうか? 誰かがどこかで「マトモな」主張をきっちりと取りまとめて行かなければならない。…ということで以下のような企画が執り行われることとなりました。

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登壇するのは、東京都大田区の区議会議員で「“オタクすぎる“現役地方議員」として知られるおぎの稔区議、そして白饅頭の愛称で「キモくてカネのないオッサン」問題等を追求し執筆、言論活動を展開しているテラケイ氏。サブカル業界の番人ともいえるこの両氏に私が加わる形で「オリパラ会場問題、現状と課題のおさらい」と題したトークイベントを開催いたします。

しかも開催日は12月27日と年末ギリギリなのは勿論のこと、12月29日からまさに東京ビッグサイトで始まる冬のコミックマーケット直前という大変「危険」な日程となっているところ。おぎの議員はご自身も冬コミにサークル参加される予定だった筈ですが、果たして準備は大丈夫なんでしょうか? …と諸々の心配が絶えないわけですが、ご関心のある方は以下のリンク先より奮ってご参加を頂けましたら幸いです。

【真冬の特別編】おぎの稔×白饅頭トークイベント@大田区産業プラザPiOD会議室

『オリンピック・パラリンピックと会場問題、現状と課題のおさらい』

http://twipla.jp/events/290982

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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