新地対艦・地対地精密誘導弾は和製トマホークBlockⅤa巡航ミサイルを目指す
9月8日に防衛省から「令和5年度 事前の事業評価 評価書一覧」が発表され、17種類の新兵器の開発研究の概要が掲載されています。その中の「新地対艦・地対地精密誘導弾」は8月31日発表の来年度防衛予算の概算要求で既に登場していましたが、この時は詳細な説明が無く、概算要求の『主要事項』の項目で入れ代わりとなった「島嶼防衛用新対艦誘導弾」の名称が変更されたものではないかと予想していました。(8月31日の予想記事)
それでは令和5年度事前の事業評価に掲載されている「新地対艦・地対地精密誘導弾」から、実際の「新地対艦・地対地精密誘導弾」の正体はどういったものなのか確認して見ましょう。
達成すべき目標:地対艦・地対地精密誘導弾
- 12式地対艦誘導弾能力向上型と地上装置の共用・・・ランチャー共通化
- 小型軽量化された飛しょう体・・・12式地対艦誘導弾能力向上型より小?
- 既存弾頭、ブースター、センサー等を組み合わせ・・・既存の各部品流用
- 衛星システムと連接・・・データリンクにより発射後の目標変更が可能?
※明言はないが「地対艦・地対地精密誘導弾」は12式地対艦誘導弾能力向上型と同様に亜音速で飛翔する長距離巡航ミサイルの可能性が高い。そして12式地対艦誘導弾能力向上型は対艦攻撃がメインで対地攻撃がGPS誘導のみのサブ的な簡易なものであるとすると、「地対艦・地対地精密誘導弾」は対地攻撃能力の誘導性能を高めた本当の意味での対地攻撃用巡航ミサイルになる可能性が高い。つまり日本版MST(マリタイム・ストライク・トマホーク、対艦対地兼用のトマホークBlockⅤa)を目指していると推定される。
◆当該事業を行う必要性
- 本州等から対処できる射程・・・推定射程2500~3000km以上
- 効率的に撃破できる高精度の誘導性能・・・赤外線カメラによる目標識別?
- 高残存性を有する・・・高速性または高機動性(今回の場合はおそらく後者)
※九州ではなく本州を想定しているため、西日本のみならず東日本を発射地点に想定している可能性がある。仮に富士演習場を発射地点として南西諸島を想定戦場とした場合は直線距離で2000km、巡航ミサイルが迂回飛行をすることを考慮して実用2000kmの射程を達成するには最大射程2500~3000km級が必要。
有効性
- 目標類別・・・赤外線カメラによる目標識別
- 命中部位指定が必要な目標への対処・・・上記装備による突入箇所の部位指定
- 貫徹力が必要な目標への対処・・・大型艦ないし地下バンカー攻撃
※終末誘導はアクティブレーダーではなく赤外線カメラであることはほぼ確実。これにより対艦攻撃では目標艦の種類の指定(敵艦隊の中の空母や揚陸艦のような重要目標を狙える)や命中部位の指定(有効打となりやすい艦中央部、指揮能力を奪える艦橋やCICなど)が可能。対地攻撃でも目標への命中精度が飛躍的に高まり、データリンクにより戦果判定も可能になる。貫徹力については別途開発中の「シーバスター弾頭」のことを指すと思われる。
令和5年の事前の事業評価の「新地対艦・地対地精密誘導弾」を読む限り、「新地対艦・地対地精密誘導弾の開発」とは「島嶼防衛用新対艦誘導弾の要素技術の研究」からの移行とは明言されていませんでしたが、おそらくは島嶼防衛用新対艦誘導弾の構想を主に受け継いだものであることはほぼ間違いないでしょう。亜音速で飛翔する長距離巡航ミサイルです。
目標は揚陸艦
レーダーでも目標艦の大小はある程度は分かるが、赤外線カメラならば詳細な判別が可能。
目標は航空基地
低空を飛行し、遠回りに迂回しながら山を縫うように飛んで迎撃を回避。
地上目標の例示は航空基地です。敵に奪取された島嶼部の空港という説明ですが、おそらく実際には大陸の沿岸の航空基地を想定している可能性があります。
また地上目標の例示は航空基地、つまり固定目標です。逆に言えばこの巡航ミサイルでは地上移動目標(例えば弾道ミサイルの移動発射機)を狙うことができないという説明でもあります。