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【新型コロナ】医療崩壊寸前のロサンゼルス 33秒に1人が死亡する米国

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
南カリフォルニア地域の空床率は一時、0%となった。(写真:ロイター/アフロ)

 今、カリフォルニア州ロサンゼルスの医療体制が崩壊寸前だ。

 ロサンゼルス市長のエリック・ガルセッティー氏は危機感を募らせてこう話している。

「医療関係者によると、クリスマスまで新型コロナによる入院患者数がこのまま増え続ければ、医療施設はコロナ患者はもちろん他の病気の患者にも対処できなくなる」

LAでは17人に1人が感染

 実際、人口約1,000万人のロサンゼルス郡での感染者の増え方は凄まじい。新規感染者数は連日1万人超えが続いており、米国時間12月18日は16,504人を記録、12月19日に累積感染者数は61万人を超え、全米の郡の中では最多だ。ロサンゼルス郡の居住者の約17人に1人が感染している割合となる。

 ロサンゼルス郡はアメリカでは最大の人口を抱える郡なので、感染者数が多くなることは理解はできるものの、それでも、感染者数の急増ぶりには驚かされる。

 陽性率も日本と比べると半端ではない。ロサンゼルス郡の7日間の平均陽性率は、14.7%(12月12日時点)。ロサンゼルス郡の中心であるロサンゼルス市では1日4万件以上のコロナ検査が行われているが、陽性率は19.6%もあり、中には30%と非常に高い地域もある。ガルセッティー市長は陰性だったものの、市長の9歳の娘は感染していることも判明した。

「オブラートに包まずに言うが、我々は押し潰されつつある。病院は致命的なほど患者でいっぱいだ。ロサンゼルス郡はパンデミックの震源地になりそうだ。感染拡大を食い止めなければ、病院は対処しきれなくなるだろう。心筋梗塞になっても、自動車事故にあっても、はしごから転落したり、脳卒中になったりしても、空き病床はもうないかもしれない」

 とロサンゼルス郡-南カリフォルニア大学医療センターの医局長のブラッド・スペルバーグ氏は懸念の色を滲ませている。

病床は空きがない事態に

 ロサンゼルス郡の新型コロナによる入院患者数は12月初めの数から倍増し、18日時点では5,100人が入院しているが、17日は11の郡を含む南カリフォルニア地域の集中治療室の病床は空きがない事態に陥った。

ロサンゼルス郡の新型コロナによる入院患者数は12月に入ってから急増している。出典:ロサンゼルス郡公衆衛生局
ロサンゼルス郡の新型コロナによる入院患者数は12月に入ってから急増している。出典:ロサンゼルス郡公衆衛生局

 ロサンゼルスの主要医療施設の1つであるUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)医療センターに勤務する医療関係者が、筆者にこう話してくれた。

「入院患者数は、第2波の時は最高60人台でしたが、18日時点では118人と倍増し、エクモという人工心肺装置を装着している患者も8人以上もいます。大変な状況になっていることは間違いないです。

 小さな病院では、看護師が不足し、緊急性の低い手術や検査については対処がままならない状況も起きています。手術室や検査室を担当している看護師も新型コロナの患者が入院しているユニットに応援に行っているからです」

 病院内ではファイザー社のワクチンに期待する声も大きいという。

「UCLA医療センターでは、16日からファイザー社のワクチンによる予防接種が始まりました。この予防接種に期待をしているスタッフが多く、医師や麻酔科の看護師から今日受けた、来週受けるという声が聞こえています」

98%の加州民に自宅待機令

 カリフォルニア州自体の感染状況も悪化の一途を辿っている。2週間前、同州の1日の新規感染者数は約17,800人だったが、その数は今では2倍以上に増加した。累積感染者数は18日時点で180万人を超え、連日3万人超の新規感染者が出ている状況では200万人を超えるのは時間の問題だ。

 12月6日には同州で自宅待機令も出された。カリフォルニア州は大きく分けて5つの地域に区分されており、地域の集中治療室の収容能力が15%を切ったら、自宅待機令が発令されている。最初は、南カリフォルニアとサンホアキンバレーの2地域に自宅待機令が出されたが、その後、サクラメントとサンフランシスコを中心とするベイエリアでも発令され、今ではカリフォルニア州の全人口の98%の人々に出されている状況だ。

 バーやナイトクラブ、美容室、ミュージアム、映画館、室内娯楽施設は閉鎖され、小売店は最大収容人数の20%のみ入れることが許可されている。レストランも春の緊急事態宣言時のようにテイクアウトとデリバリーサービスのみの営業に舞い戻ることを余儀なくされており、必要不可欠な要件以外は旅行も取りやめるよう勧告が出されている。

 それでも、感染拡大は鈍化の兆しを見せていない。15日には、同州は大量死に対処するためのプログラムを稼働させ、今後予測される死者数に備えて、5000の遺体袋と60の冷蔵庫を購入した。

33秒に1人が新型コロナで死亡

 アメリカの感染者数も激増を続けている。12月19日付ワシントン・ポスト電子版は“アメリカでは33秒に1人が新型コロナで死亡している”と報じた。「ホワイト・クリスマス」を1回聴き終えるまでに、約5人が亡くなっているというのだ。

 激増の一因と考えられているのが、11月終わりに起きた、感謝祭の連休時の米国民の大移動だ。CDC(米疾病予防管理センター)は移動を自粛するよう勧告を出したものの、出したのは連休開始直前。多くの米国民はすでに飛行機を予約済みで、キャンセルもままならなかったため、各地の空港はたくさんの乗客でごった返した。CDCの後手後手の対応が批判されることとなった。

 また、医療関係者によると、人々からは“コロナ疲れしている”という声がよくあがっているという。長い自粛生活に耐えられず、人と会うようになったり、秋冬に入って人々が室内で会うようになったりしていることも増加の原因と指摘されている。

 類似した状況は、今の日本でも見られる。

 全国的に人出が多かった11月の「勤労感謝の日」の連休後、感染者数は増加の一途にある。“コロナ疲れ”や“コロナ慣れ”のためか、東京の繁華街の人出は減少するどころか増加している。そのような状況では、どれだけの人々が習慣化している年末年始の帰省を控えるかも疑問だ。

米、ワクチンとユニバーサル・マスクで死者数約5.5万人減少

 ワシントン大学保健指標評価研究所(IHME)は、9月、アメリカの新型コロナによる死者数は12月までに31万人を超えると推定していたが、ジョンズ・ホプキンス大学の集計によると米国時間12月20日時点で推定通り31万人を超えた。そのIHMEが12月17日に更新した予測によると、2021年4月1日までにアメリカの死者数は56万人を超えると推定している。

 もっとも、IHMEは、ワクチンが迅速に行き渡れば、死者数は2021年4月1日までにアメリカでは約54万人まで減少すると推定している。

 ちなみに、アメリカの場合、ワクチンに加えて95%の人々がマスクを着用した場合(ユニバーサル・マスク)、死者数は約50.5万人まで減少すると推定。それだけまだアメリカではマスク着用が十分ではなく、外出時の常時マスク着用率は12月14日時点で73%となっている。

 ワクチンが広く普及するまでには、まだまだ時間を要する。“自分は感染している”という仮定の下、できる限り移動せず、できる限り人にも会うことなく自制を続ける必要がある。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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