4月1日から居場所を失ってしまう方へ
4月1日から社会的な所属が失われる
新年度を迎えるにあたり、学年があがる、新しい教育課程に進学されることが決まっている方、また、担当部署の異動や、新しい職場で働き始める方がいます。
その一方、卒業や中退が決まりながら、進学や就職先が決まっていない方にとっては、4月1日以降についてどうしていくか悩んでいる方もいるかと思います。
過去、育て上げネットで支援した、就職先が決まらないまま4月1日を迎えることになった若者がこんなことを言っていました。
これまでは「〇〇高校〇年の工藤です」や「〇〇株式会社の工藤です」というように、自分が所属していたコミュニティとともに自己紹介して、自分の存在を伝えてきました。その世界が突如なくなってしまったことが、とても不安で恐ろしいです。
新型コロナウィルスが生活に与える影響が少しずつ緩和されてきたとはいえ、物価やエネルギーにかかる費用は高くなっています。社会環境が不安定になり、日常の安定が脅かされやすいなか、少なくない方が上述の若者のように、居場所(社会的所属)を失った状態で4月1日を迎えます。
社会的所属、安心できる居場所が家庭にも地域にもない若者や子どもたちとかかわるなかで垣間見るのは、一時間後、明日、来月の予定がまったくなく、友人や知人と会う約束もなく、収入や貯金もない状況では、日常的な不安の高まりのなかで、本人が意図しない形で孤立・孤独に陥ってしまうということです。
4月1日以降に居場所がなくなり、いまからどうしたらいいのか不安のある場合、これだけはしておいてほしいというものを、現場の視点で書きたいと思います。
少しでもいいので収入を確保する
仕事を得るために就職活動を継続される方は、できるだけ早く就職するための時間を確保したい気持ちになるかもしれません。しかし、毎月の収入が途切れてしまうことは、日々の生活が支出だけとなり、とても不安になるものです。
就職活動には交通費などがかかり、一回一回は少額であっても、積み重なれば大きな費用となります。目減りする預貯金を前に、就職活動の範囲も制限せざるを得なくなるかもしれません。以前に比べて面接に至るまではオンラインで選考する企業もありますが、スマートフォンやパソコン、回線費用などもかかってきます。
就職活動に集中したい気持ちは理解できますが、アルバイトにせよ、不要なものをフリマアプリなどを経由して販売するにせよ、少しでも収入があるということは、生活面でも、メンタル面でも、不安を少なくすることができます。
自分が納得の行く仕事と出会うための余裕を持つためにも、収入の確保は大切です。
自分の状況を周囲に伝える
社会的な場所が限定されると、自然に他者と出会う機会が少なくなります。特に学校や職場がなくなると、友人や知人、職場の同僚とのコミュニケーション、企業活動を通じて生まれる関係性もなくなります。
仕事を持っているなかで、起業や転職についての話はしやすいですが、無業(無職)状態から、働く先を探しているというのは、極端に近い存在に対して言いづらい、恥ずかしいことになるという若者もいます。
育て上げネットが無業の若者に対して行った調査では、無業になると2人に1人が「人が怖い」と回答、無業期間が長くなると、対人不安が高まっていくということがわかりました。
新年度に入ってもまだ就職活動をしている自分について、周囲に話すことは気が引けるかもしれません。しかし、いまは人手不足で、働き手が足りてないという企業の声もたくさんあります。若者への就労支援をする私たちのもとにも、たくさんの企業から、働き手を求める話がきます。
これまでお世話になった先生や取引先の方に、新年度の挨拶とともに現状を伝えてみること、しばらく実際に会って話をしていなかった友人や知人を、お茶に誘ってみるのはどうでしょうか。
言いづらいことは承知ですが、話の流れのなかで、いま自分がどのような状況で、何を求めて、探しているのかを伝えることで、有意義な助言や情報をいただけるかもしれません。
なかなか連絡することに踏み出せない方は、相手の誕生日や(少し先ですが)暑中お見舞いなど、自然に一報できる機会を活用することもできます。
気分転換になるものを見つける
ある女性は、「ハローワークに通う毎日のなかで、たまに趣味であるボウリングをすることで、就職活動だけに向き合わないようにした」とおっしゃっていました。
社会的所属がなくなると、ひとりの時間が増えやすくなります。不安や焦燥感が募りやすい状況で、目の前のことに向き合い続けると苦しくなる場合があります。
そのため気分転換になるものを見つけることで、少しでも不安が和らいだり、リフレッシュできるようにしたりすることも重要です。
ボウリングのようにお金がかかるものだけではなく、ジョギングでも、ゲームでもよいと思います。これまでうまくやれなかったパソコンのスキル、何となく気になっていたアプリを使ってみるなど、お金がかからないものもありますので、自分のためにうまく時間が使えるものを見つけてください。
支援機関を探してアクセスしてみる
ハローワークや「〇〇センター」では、相談のプロフェッショナルが応対してくれます。現状は、対面相談が前提ですが、オンラインやSNSを使って話ができるものも増えています。
具体的にどのような支援制度やメニューがあるのか知るということもできますが、相談の予約をすることで、スケジュール帳に予定が入ることや、いまの不安を吐露できる機会を作っておくことは、先々の不安軽減にもつながります。
すぐに解決できるものがあるかどうかはそれぞれの状況や悩みごと次第ですが、「誰かに話をする」ということは、一時的にせよ、安心感を持ったり、不安を低減できたりする可能性があります。
育て上げネットでは、ご家族のための相談支援や、若者のための就労支援をオンラインで行っていますが、地元では相談しづらいという方々からの問い合わせがとても多くなっています。
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また、民間団体の立場で言うのもどうかと思いますが、身の上話を他者にするには安全性の担保が重要です。さまざまな考えを元に独自の取り組みをする民間企業・団体のなかから、自分にフィットする場所を見つけるのは簡単ではありません。
それであれば公的機関、公設民営機関の利用から始めることをお勧めします。
居場所を失ったとき、不安や悩みを打ち明けることへの抵抗感は誰にでもあるものです。つらい経験を誰かに伝えることも簡単ではありません。そのため、孤立しないよう、誰でも構わないのでつながりを作りましょうとは言えません。
それでも、安全性が担保されているところからつながりを作っておくことは、意図せぬ孤立環境を軽減し得るだけではなく、自分ひとりでは把握しきれない情報の獲得や、それらを適切に整理して次にどうするか決めていくサポートになり得ます。