驚異のエアバッグ火星着陸 NASAの探査ローバー「スピリット」「オポチュニティ」の火星に水を探す
本記事でご紹介するのは、NASAが2003年に火星着陸に成功した探査ローバー、スピリットとオポチュニティです。驚くことに、エアバッグでバウンドしながら火星へ着陸するという、その独特な方法について詳しく見ていきましょう。
■NASAの火星探査ローバー「スピリット」と「オポチュニティ」
2003年、NASAは火星の表面を探査する2機の無人火星探査ローバー、スピリットとオポチュニティを、デルタIIロケットによりそれぞれ打ち上げました。今回の最大の目的は、火星に水が存在したことを証明することです。更に、火星の環境が生命活動に適しているかどうかも評価します。今回狙う火星の着陸地点はどちらも中緯度で、スピリットがグセフクレーターに、オポチュニティが火星の反対側にあるメリディアニ平原を目指します。
ローバーの重量は185kgで、クルーズステージと呼ばれるモジュールに搭載されています。クルーズステージにはスラスターが搭載されており、ローバーを正確に地球から火星へ連れていく役目を果たします。また、火星への突入時にローバーを守る、エアロシェルが搭載されています。
ローバーは25cmの車輪を6つ備えており、車輪よりも大きな穴や溝を超えることが可能です。また、他の車輪を固定し、前輪を一つだけ回転させる事で地面を掘る事が出来るそうです。
そして、火星の表面平均温度はマイナス55度と、非常に寒冷な環境です。そのため、電力を使わずに効率よく機器の保温を適切に行うため、ローバーにはプルトニウム238の崩壊熱を利用した原子力発熱装置が搭載されています。これにより、ローバーの温度はマイナス40度~40度の間で保つことができるのです。
そして、ローバーには岩石を磨く装置や、分光計、顕微鏡カメラなどを搭載し、火星表面の水の分析を行います。また、ローバーにはアメリカ同時多発テロ事件により倒壊したワールドトレードセンターの瓦礫から切り出した金属片や、スペースシャトル、コロンビア号空中分解事故で亡くなった宇宙飛行士7名を追悼するプレートが貼り付けられています。
■24個のエアバッグを使う驚異の着陸技術
まず、火星着陸が非常に難しい点として、通信遅延という課題があります。火星と地球間の距離は、最接近時でも約7500万kmあり、通信が最短でも3分以上遅れてしまうのです。そのため着陸時は、地球から細かい探査機の状態を確認して適切な指令を出すことはできず、全ての機能を探査機が自律的に行って着陸する必要があるんですね。
そして、月への着陸とは異なる点として、火星の大気の存在があります。秒速約500km以上の高速で火星に飛んできた探査機は、超高温の中を減速しながら目的地に的確に着陸しなければならないのです。
NASAが初めて火星着陸に成功した探査機「バイキング」は、ロケットを逆噴噴射することで火星へ着陸しました。しかしこのやり方では、生命が存在している可能性があり、これから探査を行う火星表面を噴射ガスが汚染してしまうという問題点があったのです。そこで、考えられたのがエアバッグ方式です。
例えばスピリットの場合、火星大気突入から着地までが約6分になります。着地まで残り2分を切ったところでパラシュートを展開し、クルーズステージと着陸機を切りはなします。そして、エアバッグの膨張を開始します。
スピリットは24個ものエアバッグの中に保護されて、火星上を約1kmも弾んでから着陸するのです。実は、このユニークな着陸方式は、1997年に火星着陸に成功したNASAの「マーズパスファインダー」計画で既に成功を納めていました。
そして、このエアバッグの素材は日本の繊維メーカー・クラレが開発した。衝撃や熱に強い「ベクトラン」が採用されています。べくトランはわずか直径1mmで約150kgを吊り上げる、という高い強度が特徴です。ほぼ鉄と同じ強さを持ちながら、重さは鉄の1/5です。今では、光ファイバーの補強材や、ラケットやネットなどスポーツ用品の素材として、広い分野で活用されています。
そして、このエアバッグ方式の着陸により、スピリットとオポチュニティの見事着陸に成功!運用期間は当初3か月でしたが、スピリットは2010年に通信が途絶するまで6年間にわたり探査を実施し、オポチュニティは2018年に通信が途絶するまで14年以上にわたって探査を続けました。
そして、オポチュニティが着陸したメリディアニ平原の岩石を分析したところ、水が流れた痕跡を示すデータが確認されました。また、岩石の中に水中でしか生成されない「硫酸塩」を含んだ、硫酸塩鉱物などを発見したことから、過去に広大な海または湖が存在したことを示す証拠を得ることができました。
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