U-20女子W杯コスタリカまで2カ月。ヤングなでしこは4年越しの連覇なるか
20歳以下の「ヤングなでしこ」は、再び旋風を巻き起こすことができるだろうかーー。
8月にコスタリカで行われるFIFA U-20女子ワールドカップまで2カ月と迫り、U-20日本女子代表のチーム作りが大詰めを迎えている。
日本は2018年のU-20W杯フランス大会で初優勝。翌2020年大会はパンデミックにより中止になったが、今大会はディフェンディングチャンピオンとして臨む。チームを率いるのは、前回大会から引き続き、池田太監督だ。なでしこジャパンとの兼任で指揮を執っており、元代表の宮本ともみコーチをはじめとするコーチングスタッフも同じ。チームコンセプトも共通しており、今大会で活躍すれば、なでしこジャパン入りへのアピールにもなる。
ただし、今大会は例年の大会とは異なるハードルがある。それが、準備期間の短さだ。コロナ禍で、この年代は外国勢との対外試合を行ってこなかった。
例年は大会前に2〜3回の海外遠征をこなし、本番に向けたシミュレーションができていた。だが、このチームは昨年5月に立ち上げられてからの1年間で、国内キャンプを4度行ったのみ。今年4月にウズベキスタンで予定されていたアジア予選も中止(W杯出場権は2019年のアジア予選の結果により獲得)になり、5月のキャンプで半年ぶりに集合した。
組み合わせ抽選会では、グループステージでオランダ、ガーナ、アメリカと同組に。ライバルのアメリカは、今年に入って親善試合を8試合もこなしている。
そうしたハンデを覆すため、池田監督はWEリーグのシーズンが終わった5月からの3カ月間で4度のキャンプを計画。急ピッチでのチーム作りを進めるため、策を凝らしてチームの成熟度を高めようとしている。
「5月のキャンプから期間を空けずに集まれたので、コミュニケーションは円滑に取れるようになっています。タイミング的には早いかもしれませんが、対戦国のオランダ、ガーナ、アメリカの情報もミーティングで共有して、頭を世界基準に切り替えた中でトレーニングや試合をして、自分たちの基準を上げていくアプローチを始めました」
【チームを勢いづける選手は?】
チーム作りが進められる一方、合宿はメンバーの最終選考という側面もある。今回は28名が参加したが、大会に行けるのは21名。練習やトレーニングマッチがアピールの場となる。今回は9日間で、男子高校生チームと3試合を行った。
「まずは自分の最大限できるパフォーマンスを発揮することにフォーカスしました。あとは監督が求めていること、チームとしてやりたいことを擦り合わせながら、自分の良さを出していけるようにしました」
そう語ったのは、チーム最年少の16歳ながら、主軸の一人でもあるDF小山史乃観(こやま・しのみ)。所属チームのC大阪堺では攻撃的なポジション、U-20代表ではサイドバックと、異なるポジションでプレーしているが、練習から果敢な攻撃参加を見せるなど、持ち味を発揮していた。
「自分こそが!」と、ギラギラしたアピールを見せる選手は少ない。それは常連選手が多く、メンバー同士の信頼関係ができていることも一因だろう。所属クラブはバラバラだが、主軸の組み合わせもある程度固定されており、チームの土台はできている。
上述した理由で国際大会を経験していない選手がほとんどだが、前回のU-20代表候補に飛び級で入っていた選手たちは経験値という点で頼りになる存在だ。MF森田美紗希(日体大)、DF長江伊吹(神戸)、GK大場朱羽(イーストテネシー州立大)、FW山本柚月(ベレーザ)、MF中尾萌々(メンフィス大)、DF田畑晴菜(C大阪堺)らが19年のアジア予選(タイ)の優勝メンバーに名を連ねていた。
一方、プロのWEリーグで活躍した選手たちは、チームに勢いをもたらしてくれそうだ。初代女王の神戸でコンスタントに活躍したDF竹重杏歌里、ベレーザのアタッカーとして台頭したFW山本柚月とFW藤野あおば、広島のFW柳瀬楓菜、埼玉のMF吉田莉胡らが所属クラブでレギュラーの座を射止め、飛躍を遂げている。
「(WEリーグで活躍して)経験や自信をつけてきている選手もいます。そういう選手たちは、コミュニケーションをとる中でも会話の軸になるので、その経験が選手たちの(プレーや考え方の)幅を広げてくれているなと思います」(池田監督)
また、アメリカの大学でプレーするGK大場、MF中尾、DF岩井蘭の3名が5月の合宿に続き選出された。女子サッカーで世界ランク1位のアメリカは、大学サッカーもレベルが高く、多くのヤングスターを輩出している。「フィジカルの部分は、アメリカで学んだ一番大きなポイント」(岩井)というように、ハイレベルな環境で揉まれた球際の強さやキック力で違いを見せていた。
【短期間で見えた修正力】
これまでの合宿からは、戦術的な変化も見られた。これまでの4バックに加えて、今回から3バックを取り入れている。その狙いについて池田監督はこう話している。
「この年代でいろんなシステムの経験値を上げて、一人一人のやれることを増やしていくこともありますし、チームとしてオプションが持てるように、選手の特性も考えながら(3バックに)トライしました」
また、対戦相手の男子高校生チームにも、アメリカやオランダといった強豪国を想定した(4-1-4-1)をリクエスト。本番の相手を想定した中で、短期間で新システムへの適応が見られたのは大きな収穫といえそうだ。
4日目に行った聖光学院高校との初戦は、山本のゴールで先制するも、追いつかれて1-1のドロー。しかし、8日目に同高と再戦した際は、FW浜野まいか、MF岩崎心南、FW土方麻椰がゴールを決め、3-0で勝利した。
最初のゲームではぎこちなかった3バックも、本番を想定した中3日で話し合いを重ね、2試合目では機能させた。短い準備期間の中でPlan(計画)→Do(実践)→Check(振り返り、課題修正)→Action(改善、再実践)のPDCAサイクルをしっかり機能させることができたのは、本番に向けて自信になったのではないだろうか。
「選手の理解力と実行力、相手によって判断する臨機応変さが出てきて、アドリブが利くようになってきたと思います」(池田監督)
この後、チームは7月にも合宿を行い、月末からの直前合宿を経て本大会に臨む。コスタリカへのチケットを掴むのは、どの21名になるのか。7月中のメンバー発表を楽しみに待ちたい。
*写真はすべて筆者撮影