北朝鮮がアメリカ製大型無人機の形状をコピーした新型無人機を開発
北朝鮮は2021年1月の朝鮮労働党の党大会で新型兵器開発の「国防5カ年計画」を発表、その中に「無人攻撃兵器と偵察観測手段(行動半径500km)」というものがあり、どちらも大型の無人航空機(ドローン)と推測されていました。そしてこれが衛星画像で初めて報告されたのが2022年10月3日です。
日本発のOSINTプロジェクト「DEEP DIVE」に参加しているTarao Goo氏(オランダ拠点のOSINTグループ「Oryx」の日本語版の管理人)が衛星画像から北朝鮮の大型無人航空機を発見、「DEEP DIVE」主催のユーリィ・イズムィコこと小泉悠氏(東京大学先端科学技術研究センター専任講師)が報告しています。
そして2023年7月27日、北朝鮮の朝鮮戦争”勝利”70周年記念パレードで新型の大型無人機が公式に姿を見せました。正確にはパレードの前日に、訪朝していたロシアのショイグ国防相を武装装備展示会に招いた際に先に無人機の映像が公開されていましたが、パレード当日には実際に平壌上空を飛行して見せて機体がハリボテではないことを誇示しています。
驚くべきことにそれらはアメリカの「RQ-4グローバルホーク無人偵察機」と「MQ-9リーパー無人攻撃機」に酷似していました。形があまりにも似ています。大きさもまったく同じです。しかも名前まで似せています。数字の部分をわざと同じ数にしてあるのです、北朝鮮自身が堂々と「設計を模倣しました」と認めているのです。
- 샛별-4(セッピョル-4)、RQ-4グローバルホークに酷似
- 샛별-9(セッピョル-9)、MQ-9リーパーに酷似
샛별(セッピョル)あるいは새별(セビョル)。朝鮮語の意味は「新しい星」で、転じて金星の別名「明けの明星」。朝鮮中央テレビの放送で判明した段階で、北朝鮮公式の漢字での訳語(中国語や日本語での正式な翻訳)はまだ不明。おそらく日本語への訳語は「明星-4」「明星-9」だと思われるが、「新星-4」「新星-9」と表記する可能性もある。
北朝鮮無人偵察機「セッピョル-4」、RQ-4グローバルホークに酷似
※セッピョル-4、推定:全幅35m
北朝鮮無人攻撃機「セッピョル-9」、MQ-9リーパーに酷似
※セッピョル-9、推定:全幅20m
本当に大きさと形状が模倣対象とそのまま同じで、RQ-4グローバルホークとMQ-9リーパーに酷似しています。後者については武装も米製ヘルファイア対戦車ミサイルそっくりのミサイルが搭載されています。
なお宣伝動画で2機種とも飛んでいますが、実際にパレードでもセッピョル-4とセッピョル-9が平壌の上空に飛来しており、セッピョル-9はトレーラーに載せて地上のパレード行進の方にも出て来ました。また室内施設の武装装備展示会2023に両方とも展示されています。
外観は酷似、でも中身は?
ただし外観を寸分違わずコピーできていたとしても、肝心なのは中身です。無人偵察機の性能で重要となるのはカメラやレーダーや信号情報収集などのセンサー類であることは勿論ですし、現状の北朝鮮の場合は遠隔操作を行うための通信衛星を確保できていません。将来的に自力で衛星を打ち上げて解決するとしても、当面は地上からの見通し線通信にならざるを得ないでしょう。衛星通信が使えない場合は、機体が地球の丸みの陰に入るほど離れた距離では通信することはできません。
2021年の国防5カ年計画で「偵察観測手段(行動半径500km)」とあったのは、グローバルホークと同等の運用高度1万8千mまで上がれるならば、地上との見通し線内で500kmまで通信可能という意味だったのかもしれません。
大型無人機をどう使うのか?
セッピョル-4は高高度長時間滞空型(HALE)無人機で、セッピョル-9は中高度長時間滞空型(MALE)無人機に分類されますが、どちらも敵の大型の地対空ミサイルや戦闘機が投入されているような前線の戦域では生き残れません。ステルス能力も無く中高度以上を遅い速度で飛ぶ機体だからです。現在行われているロシア-ウクライナ戦争でもMALEに相当する大型無人機は行動の自由が大きく制限されています。
そうすると非武装のセッピョル-4は平時の偵察監視任務を重視していると受け取ることも可能ですが、武装型のセッピョル-9はどう使う気なのかよく分かりません。本格的な戦争になった場合、強力な航空戦力を持つ米韓軍を相手にセッピョル-9で攻撃を仕掛けに行ってもまともに通用する見込みがありません。
セッピョル-9の武装はあくまでデモンストレーション用で実際には偵察監視任務を重視してるのか、あるいは平時での小競り合いでの軽い戦闘の際に投入することを考えているのか、現時点ではどう使う気なのか意図は不明です。