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子どもの忘れ物が直らない根本的な理由! どうすれば直るのか?

親野智可等教育評論家
(写真:イメージマート)

「忘れ物をして自分が困れば自分で直すだろう。だから放っておけばいい」と考える親はけっこういます。でも、実際はこうした自業自得方式では直りません。

私は23年の教師生活で担任として650人の子を受け持ちました。忘れ物が多い子もたくさんいましたが、これで直った子を見たことがありません。

そもそも、それで直るならもうとっくの昔に直っていたはずです。もう何度も困ってきているのですから。それに、ひと言で忘れ物をなくすといっても、大人が思うほど簡単なことではありません。

忘れ物をなくすには、先を見通して計画的に準備する力、要らない物を処分したり上手に整頓したりする力、持ち物を適切に管理する力、面倒くさくても次の日の支度をしっかりする自己管理力など、総合的な能力を高める必要があります。

いまこうした能力を持ち合わせていない子が、それを獲得するには強烈なモチベーションと強固な意志力と猛烈な努力が必要です。それをその子に望むことができるのでしょうか?

しかも、忘れ物が多いのは親の育て方やしつけのせいではなく、生まれつきの資質によるところが大きいです。その証拠に、同じきょうだいでもある子は忘れ物がすごく多いけど、別の子は絶対に忘れ物をしないなどという例がたくさんあります。

親のしつけで決まるなら、きょうだい全員忘れ物が多いか全員忘れ物をしないかのどちらかになるはずです。こうした生まれつきの資質を子どものうちに直すのは本当に難しいです。なぜなら、子どもは直す必要性を強く感じないからです。

大人になってからのほうが直る

もちろん、子どもも忘れ物をしたそのときは困るのですが、それは叱られるから困るだけなのです。本当に心から身に染みて困っているわけではないので、その場が過ぎればまた同じことを繰り返してしまうのです。

でも、大人になれば本当に心から困る状況に直面します。仕事に必要なものを忘れてばかりいれば仕事になりません。大事な取り引きのとき忘れ物をすれば周囲の信用を失ってしまいます。

その結果、会社を首になって収入が得られなくなれば、自分も家族も暮らしていけません。このように大人になれば困る真剣度合いが格段に増して、本気で直す必要性を感じるようになるのです。

そこで本人が「直したい」と心から思い、同時に「自分はできる」と思えればスイッチが入ります。ですから、いまは親子関係をよくして子どもの自己肯定感を高めることに専念してください。

自己肯定感がなくて自己否定感に凝り固まっていると、大人になって「直したい」と思っても「でも、自分には無理だな」となってしまいます。

放っておかれた子はますます忘れ物が増える

このようなわけで、自業自得方式で放っておいては直らないのです。実際には、放っておかれた子は直るどころかますます忘れ物が増えます。忘れ物が増えるといろいろな弊害が出てきます。まず、忘れ物をした子は授業に集中できなくなります。

例えば、図形の勉強で必要なコンパスを忘れてしまったとします。子どもは焦ってしまい、先生の話を聞くどころではなくなります。

「しまった。コンパスを忘れた。どうしよう?先生に言ったほうがいいかな?それとも先生には言わないで隣の子に借りたほうがいいかな?イヤ、待てよ、もしかしたらロッカーのカバンの中に入っているかも…」などと必死で考えているうちに、授業はどんどん進みます。

気がついたら、みんなが何をやっているのかわからなくなっています。このように授業に集中できなくなるので学力にも影響が出ます。

また、忘れ物が多いと先生に叱られることが増え評価も下がります。当然、子どもの自己肯定感は下がります。友だちからも「だらしがないね」などと言われたりするかもしれません。場合によってはいじめの原因にもなりかねません。

また、忘れ物が多くて自分はこんなに困っているのに、何のサポートもしてくれない冷たい親への不信感も出てきます。

つまり、「自分のことなんか、どうでもいいと思っているのではないか?自分は大切にされていないのではないか?」と感じるようになるのです。つまり、愛情不足感です。

子どもも自業自得方式を身につけてしまう

また、親に自業自得方式で育てられている子は、その方式自体を身につけてしまう可能性もあります。そして、きょうだいや友だちが困っていても助けなくなる可能性があるのです。

例えば、教室で友だちが「リコーダーがない」と言って探しているとします。もう音楽の授業が始まる時刻なので音楽室に行かなければなりません。

親なら、「こういうときは友だちのために探すのを手伝える子になってほしい」と思うはずです。でも、自業自得方式を身につけた子は、そういう行動を取らなくなる可能性があります。

なぜなら、「手伝うのはこの友だちのためにならない。ここは困ったほうがいい。自分が困ればこれから気をつけるだろう」と考える可能性があるからです。

必要なのは合理的な工夫

このようなわけで、自業自得方式で放っておくのはよくありません。必要なのは親子で忘れ物を減らすための合理的な工夫をすることです。例えば、次のような工夫をしてみましょう。

・持ち物コーナーを作って、学校に持っていく物はそこにまとめておく

・絶対に必要な物は付箋紙に書いて靴に貼っておく

・持ち物一覧表でチェックする

・必要なものをホワイトボードに書いておく

・習字セットなど細かい物が多い場合は「持ち物集合写真」で確認する

これらを参考にして、わが子に必要な合理的な工夫をしましょう。それでも難しいなら、手伝ったりやってあげたりしてください。

親がそういう姿勢でいると、それを見て子どもも自分で工夫するようになる可能性も高まります。

そして、一番効果があるのは、親が一緒に予定帳を見ながら忘れ物がないか最終確認をしてあげることです。これも叱りながらではなく、親子の触れ合いの一つとして楽しい雰囲気でやってください。

このような親のサポートがあれば、子どもの忘れ物は必ず減ります。そうすれば、子どもは親の愛情を実感します。また、親の姿から学んで困っている友だちを助けるようにもなります。

先生に叱られることも減り評価も高まります。友だちからも信頼されるようになります。授業にも集中できて学力にもよい影響が出ます。

「これだといつまでも自分でできないのでは?自立できないのでは?」などと心配する必要はありません。次の2つを大切にしていれば、子どもは自分のペースで着実に自立していきます。

1,親子関係をよくして子どもの自己肯定感を高めることに徹する

2,親のやらせたいことではなく、子ども自身がやりたがることを応援してたっぷりやらせてあげること

日本は家庭負担と子どもの持ち物が多すぎる

最後に、ぜひとも言っておきたいことがあります。そもそも日本の学校は子どもの持ち物が多すぎて、忘れ物をしやすい構造になっています。これも大きな問題です。

体育着や水着ならともかく、分度器やコンパスとか図工や習字の道具なども家庭で購入させて、いちいち持ってこさせているので忘れ物が多くなってしまうのです。

海外では学校側が用意するのが普通です。でも、日本では業者との利害関係が絡んでいるせいもあり、家庭の自己負担が大きいのです。

これが隠れ教育費の増大につながっているわけで、大きな社会問題です。昨今は日々の食事も満足に取れない子どもが増えている中で、このような出費を強いるのは間違っています。

また、以前より教科書やノートが大きく分厚いものになり、ランドセルも大きくなりました。それに加えて、タブレットやいろいろな教材教具も持ち運びしなければならないという状態です。

その結果、体が成長中の子どもたちが、毎日の登下校で重いランドセルを背負い続けています。心身への悪影響がないはずがありません。背骨への影響も心配ですし、姿勢が悪くなる可能性もあります。

心理面においても、重い荷物が子どもに与えるストレスは軽く見るべきではありません。大人でも、毎日の出勤で重い荷物を持ち運ぶのは相当なストレスです。

荷物が重いことで登校を苦痛に感じる子もいるはずで、それが登校渋りにつながる可能性もあります。

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教育評論家

教育評論家。本名、杉山桂一。長年の教師経験をもとに、子育て、しつけ、親子関係、勉強法、学力向上、家庭教育について具体的に提案。Instagram、Threads、Twitter、YouTube「親力チャンネル」、Blog「親力講座」、メールマガジン「親力で決まる子供の将来」などで発信中。全国各地の小・中・高等学校、幼稚園・保育園のPTA、市町村の教育講演会、オンライン講演、先生や保育士の研修会でも大人気となっている。Twitter、Instagram、YouTube、Blog、メルマガ、講演のお問い合わせなどについては「親力」で検索してHPから。

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