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『ウルトラセブン』放送開始55周年の今年、「特撮」へのリスペクトがCMにも

碓井広義メディア文化評論家
ウルトラ警備隊ならぬ「トキウム防衛隊」(企業サイトより)

気がつけば、今年も、あと半月。見る側を楽しませてくれたCMを振り返ってみます。

注目したいのは「特撮系CM」。往年の特撮作品を想起させる、リスペクト精神にあふれたCMに面白いものがありました。

時代を超える「セブン」の魅力

ヨコハマタイヤ「アイスガードセブン」 「ウルトラ吸水ゴム」篇

セブンと深田恭子さんの共演(企業サイトより)
セブンと深田恭子さんの共演(企業サイトより)

『ウルトラセブン』(TBS系)が登場したのは1967年。今年は放送開始55周年に当たります。

前作『ウルトラマン』との違いは、地球の怪獣ではなく、宇宙からの侵略者との戦いが描かれたことでしょう。

SF色が強まり、セブンの造形も近未来的な美しさを誇っていました。

また実相寺昭雄監督が手掛けた「狙われた街」では、メトロン星人とモロボシダン=セブンが、アパートの四畳半で対決しました。

こうしたファンタジーとリアリティの共存も『ウルトラセブン』の特色です。

そんなセブンが今年もまた、ヨコハマタイヤのCMで深田恭子さんと共演しました。

CMのオンエア開始が夏だったので、「この時期にスノータイヤのCM?」とびっくり。

やがて到来する冬に備え、「氷った道」という強敵から人類を守る「アイスガードセブン」をアピールするためでした。

深田さんが「セブン!セブン!セブン!」と呼びかけると飛来する、永遠のヒーロー。

しかもタイヤやセブンを影絵で見せるシーンでは、『ウルトラセブン』のオープニング映像が見事にアレンジされていました。

まさにオマージュですね。

魅力的なキャラクターは、時代を超えて多くの人を引き付けます。

最新SFXを駆使したヒーロー

大和ハウス工業「ダイワマンSEASON2 Episode 1&2」篇

謎のヒーロー「ダイワマン」(企業サイトより)
謎のヒーロー「ダイワマン」(企業サイトより)

冷たい雨が降る、夜のメトロポリス。ジェット噴射で空中に浮かぶ人影がある。ダイワマンだ。

やがて路上へと降り立つと、殺気立った怪しい者たちが迫ってくる。

まさに一触即発だが、ダイワマンは安易に戦わない。

ダイナモービルに乗って帰る先は、もちろんダイワハウスだ。

最新のSFXを駆使したハリウッド映画のような映像は、『バットマン』シリーズを想起させます。

大和ハウス工業の新企業CMシリーズ「ダイワマンSEASON2Episode 1『登場』」篇の主演は、西島秀俊さん。

西島さんは今、最も旬な俳優の一人です。

アカデミー賞の国際長編映画賞に輝いた、映画『ドライブ・マイ・カー』がありました。

さらに、この夏放送されたドラマ『ユニコーンに乗って』(TBS系)でも存在感が際立っていました。

年齢にかかわらず自分の夢に挑戦する役柄が、多くの人の共感を呼んだのです。

では、ダイワマンとは、一体何者なのか。

「Episode 2『継承者』」篇では、その正体が「俳優・西島秀俊」であることが明かされました。

西島秀俊が、俳優・西島秀俊を演じる。そのトリッキーな設定が、すこぶる愉快です。

怪獣より請求書が強敵? 

TOKIUM/TOKIUMインボイス トキウム防衛隊「発足・出動」篇

トキウム防衛隊の勇姿(企業サイトより)
トキウム防衛隊の勇姿(企業サイトより)

人々の命と幸せを守る、最強チームが結成されました。TOKIUMインボイスのCM、トキウム防衛隊「発足」篇です。

ピッカピカの指令室。胸のバッジが輝く真新しい制服やヘルメット。「テンション上がる!」と隊長(永山瑛太さん)も張り切っています。

一方、隊員たち(東京03と愛来さん)は溜まった請求書の処理で忙しそう。

そこに怪獣出現。「全員出動だ!」と隊長は叫びますが、「それどころじゃないの!」と隊員たちは動いてくれません。

このギャップが何ともおかしい。

また「出動」篇では、指令室を飛び出そうとする隊長がドアを開くと、そこには請求書の山。紙はかさ張るため、保管場所が満杯なのです。

モニターにはゴジラに似た怪獣の姿が映し出されますが、どうやら怪獣退治より先にペーパーレス化のほうが急務みたいです。

『ウルトラマン』の科学特捜隊や、『ウルトラセブン』のウルトラ警備隊を思わせる、トキウム防衛隊。

怪獣との対決はまだですが、「請求書受領サービス」を訴求する任務はしっかり果たしていました。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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