文章力は不要に? 対話型AI「ChatGPT」で仕事のやり方は変わるのか
対話型のAIチャットボットとして話題の「ChatGPT」が、米アルファベット(グーグル)やマイクロソフトを巻き込みつつ、検索エンジンやオフィスソフトに影響を及ぼす可能性が注目されています。
なぜ、チャットができるだけのAIがここまで注目されるのか、背景を考察していきます。
直接「答え」を返してくれるのが魅力に
2022年11月末にリリースされたChatGPTは、問いかけに対して自然な文章で「答え」を返してくれるのが特徴です。
現時点では不正確な回答も多く、持っている知識も2021年までの情報に限られているものの、質問に対して答えを返してくれるという能力は、多くのサービスにとって脅威になり得ます。その1つが検索エンジンです。
最近のグーグルは、ユーザーが知りたい答えを返してくれる機能を増やす傾向にあります。歴史上の人物ならWikipediaなどから内容を引用したり、Googleマップと連動して乗り換え経路を示してくれたりします。
しかし基本的には、検索結果からWebサイトを1つずつ開いていき、目当ての情報を探しあてる必要があります。これはスマホの小さな画面では容易ではありません。
たとえば「家庭のフライパンでステーキを焼くコツ」を知りたいとき、グーグルは参考になるWebサイトを示してくれます。これに対してChatGPTは、具体的な手順を示してくれるという違いがあります。
グーグルは検索結果に表示する広告で大きな収益を上げています。売上高は直近の1年間では1631億ドル(約21.5兆円)、売上全体の半分強を占めていますが、この巨大なビジネスが脅かされているというわけです。
グーグルはこのChatGPTの登場を重く受け止めており、AIのプロトタイプや製品を積極的に出していくようトップからの指示が出たことを米New York Timesは報じています。
すでにグーグルも対話型AIのための言語モデルを開発しているようですが、ChatGPTのように不正確な文章を出してしまうと、グーグルのブランドを毀損することにもなりかねません。このあたりにどう折り合いを付けるのか、興味深いところです。
一方、ChatGPTの開発元であるOpenAI社には、2019年に米マイクロソフトが出資しています。人気ニュースレターのThe Informationは、検索エンジンの「Bing」がChatGPTの導入を検討しているとの内部情報を報じています。
長年、Bingはグーグルの後塵を拝しており、簡単に逆転できるとは思えないものの、「グーグルを本気にさせる」存在として、がんばってほしいところです。
仕事で「文章力」は不要に?
ChatGPTは社会問題にもなりつつあります。たとえばChatGPTにテーマを与えると作文をしてくれるので、学校の課題に使うことができてしまいます。
これを受け、ニューヨーク市の公立学校ではChatGPTへのアクセスを遮断したことを複数の米メディアが報じています。理由としては、生徒の学習への悪影響や、コンテンツの安全性や正確性に関する懸念を挙げています。
一方、この能力をビジネスに活用するのであれば、大いに歓迎されるでしょう。前述のThe Informationは、マイクロソフトが「Word」のようなオフィスソフトにもChatGPTの導入を検討していると報じています。
一般に、オフィスソフトには文書の作成を支援するさまざまな機能が搭載されています。ただ、それらの機能の多くは文書の体裁を整えるもので、文書の「中身」までは作ってくれません。
しかしChatGPTは、ビジネス文書やメールのようにある程度型が決まった文章を作るのが得意です。そこで、オフィスソフトで文書の体裁を整え、中身をChatGPTに書いてもらう、といった活用方法が考えられます。
文章の中で、事実関係や数字については人間がチェックする必要があり、全自動とまではいきません。しかし定型的なビジネス文書の作成にかかるコストは大きく減るでしょう。
これは文章を書くのが苦手な人にとって朗報です。これまでメールやチャットで送ろうとしてもうまく表現できず、つい電話をかけてしまうことがあったのではないでしょうか。
しかしChatGPTがあれば、簡単な指示を出すだけでメールの文章を書いてもらうことができます。これにより、電話をかける側、電話をかけられる側の両方の生産性向上を期待できます。
文章を書くのが得意な人にとっても、省力化や時短を期待できます。ただ、単に「文章力がある」だけでは優位性にならず、AIにはできないような付加価値を求められる時代がやってくるかもしれません。