Yahoo!ニュース

ツイッター社消滅に、8割のリストラ。見えてきたツイッター買収、マスク氏の本音

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
(写真:ロイター/アフロ)

イーロン・マスク氏がツイッターを買収してからもうすぐ半年になろうとしていますが、ツイッターをめぐる混乱は収まりを見せるどころか、ここに来てさらに激しくなっている印象すらあります。

直近で、最も大きな騒動と言えるのが、APIの有料化でしょう。

もともとツイッターは、個人開発者でも手軽に無料のAPIを活用してアプリケーションを開発できることが、ツイッターの人気の拡がりを支える要因の1つだと言われてきました。

しかし、イーロン・マスク体制になり、その姿勢は明確に反転。

長く人気を博していた様々なツイッター関連サービスが、次々に終了や休止を宣言するという展開になっています。

参考:「Twilog」「feather」、機能停止に Twitter API有料化の波紋広がる

さらに、最近では会社としてのTwitter社が3月の段階で、X社と合併する形で消滅していたことが判明し、「Twitter消滅」がトレンド入り。

ツイッターのサービスも消滅すると誤解する人がでて、移転先探しがあらためて激しくなる騒動になりました。

参考:イーロン・マスク氏「X」と投稿 Twitter社消滅で全世界が注目 「x.com」ドメインも取得済み?

そういう意味で、ツイッターをめぐる混乱は今年に入って加速している印象すらありますが、1つだけ明らかになってきたことがあります。

それはマスク氏のツイッター買収の本音は、あくまでスーパーアプリ「X」開発のための最短ルート獲得だった、という点です。

マスク氏の多くの発言は一貫していない

マスク氏は、特にツイッター買収に関する発言については、その発言の多くが二転三転していて一貫性がないことがすでに明らかになっています。

例えば、マスク氏はツイッター買収時には、ツイッター上での言論の自由を担保することが、買収の1つの大義名分であるようにアピールしていました。

参考:イーロン・マスクが「言論の自由」を説明するとこうなる

ただ、蓋を開けてみたら、マスク氏は自分のツイートの表示を最優先するようにアルゴリズムを変更したり、自社に批判的なメディアのアカウントを凍結したりと、言論の自由を無視した行為を多数実行。

さらには自社のサービスのライバルとなり得るサービスへのリンクを遮断しようと試みたりと、言論の自由どころか自分に都合の良い変更ばかりをしているのが目につきます。

また、買収直後に75%の人員削減計画があることがリークされた際、マスク氏はそんな計画はないと直後に否定していました。

参考:マスク氏、ツイッター従業員に75%の削減計画ないと伝達

ただ、こちらも蓋を開けてみたら、最近のBBCのインタビューで、過去に8000人いたツイッター社の従業員が、現在は1500人まで減っていることが判明し、実は80%を超える従業員が退職していることが分かったわけです。

また、直近のマスク氏の行動で非常に象徴的なのが、生成AIの話題でしょう。

マスク氏は生成AIの進化の早さに対して、開発を6か月止めるべきだという署名運動を先頭にたって行っていました。

しかし、その舌の根も乾かぬうちに、自らは他社からAI開発者を引き抜き、「X AI」という会社を設立し、ライバルに追いつくためのAI開発の準備を着々と行っていることが報道されています。

参考:イーロン・マスクが密かにAI開発続行、DeepMindの人材引き抜き

もちろん、経営者が事業の状況をみながら判断を変えるのは当然ですから、発言が二転三転するのは必ずしも不思議なことではありません。

ただ、マスク氏の発言は、通常の経営者に比較すると、激しく二転三転することは明白になっていると言えるでしょう。

自分の視点から曖昧な発言に言い換える

また、マスク氏は、状況を自分の視点から言い換えるのが非常に上手な経営者でもあります。

象徴的なのは、ツイッターの財務状況についての発言でしょう。

参考:マスク氏、ツイッター経営は「痛みを伴う」

ツイッターの経営において、マスク氏の発言だけを聞いていると、まるでツイッターはマスク氏の買収前から大赤字だったような印象を持つ方も少なくないと思います。

ただ、実はツイッター社はマスク氏買収前は、従業員が5000人近くいた2019年のタイミングではしっかりと黒字を出せていました。

(出典:BBT大学院)
(出典:BBT大学院)

参考:【データから読み解く】Twitterの業績推移

それが、8割以上の従業員をリストラした現在の1500人体制でも、まだ収支が黒字になっていないというのは、マスク氏の方針転換を嫌った広告主がツイッターを離れたために売上が減少したことだけが原因ではありません。

実は、マスク氏がツイッターを買収した際に行った巨額の借入の負債を、ツイッター社に負担させたことによりツイッターの収益構造が大幅に悪化した結果です。

なにしろ、借入の利子の支払いだけでも年間15億ドルと言われています。

マスク氏の買収前のツイッター社の売上が51億ドルですから、その利払い負担がいかに巨額か分かると思います。

ただ、当然マスク氏はそうした具体的な実態についてはインタビュー等では触れず、曖昧な表現で逃れることが多いわけです。

スーパーアプリ「X」についての発言は一貫

そうした言行不一致や、曖昧な発言が目立つマスク氏ですが、唯一の一貫している明確な発言と言えるのがスーパーアプリ「X」についての発言です。

そもそも、マスク氏はツイッター買収を検討する前から、スーパーアプリ「X」の開発を検討していたと言われています。

ただ、ゼロからアプリを開発し、アクティブユーザーを集めるよりも、ツイッターをベースにした方がスーパーアプリ「X」の実現に近づくというのが、マスク氏の判断だったようです。

象徴的なのは、ツイッター買収成立前のマスク氏のこちらのツイートでしょう。

マスク氏は、この時から「ツイッター買収はスーパーアプリXの開発を加速させる」と明確に発言しており、やはりこれこそがマスク氏の本音だったと考えるのがシンプルでしょう。

さらに、最近のBBCのインタビューでマスク氏は「Twitterを買ったのは訴えられたから仕方なく」と発言しており、ツイッター買収を断念するつもりがあったことを告白しています。

参考:Twitterのマスク氏、BBCのインタビューで「Twitterを買ったのは訴えられたから仕方なく」

前述のマスク氏のツイートは、ツイッター買収について訴訟をうけ、買収を決断せざるを得ない状況に追い込まれたマスク氏が、ツイッター買収のメリットを自分に言い聞かせるように投稿したものと考えることもできるわけです。

マスク氏はツイッター自体には興味がない?

ツイッター買収当初は「ツイッターの大きな変更はユーザーの投票結果を受けて実施する」と、民主的な姿勢を見せてきたマスク氏ですが、昨年末にCEO退任のアンケートで敗北してからは、アンケート機能をほぼ使わずに独断で決めるようになってきています。

参考:ツイッターCEO辞任表明に、マスク氏を追い込んだネット投票の罠

最近のAPIの有料化や、それに伴う関連サービスの終了などに対して、マスク氏が開発者に対する配慮のコメントをほぼしていないところを見る限り、マスク氏はツイッター関連サービスの開発コミュニティや開発者には興味がないようです。

Twitter社もあっさりとX社に合併して消滅させてしまいましたし、ツイッターの鳥のアイコンを数日間ドージコインの柴犬アイコンに変えてみたり、会社の看板からTwitterのwを消してみたりと、ツイッターというブランド自体に愛着やリスペクトがなさそうなことも明らかになりつつあります。

おそらくは、マスク氏としてはあくまでスーパーアプリ「X」を最短ルートでつくりたいだけで、ツイッターというブランドやサービス自体を、従来の形で維持することには全く興味がないということなのでしょう。

スーパーアプリ「X」をツイッターユーザーは歓迎するか

今後注目されるのは、はたしてマスク氏のスーパーアプリ「X」への転換に、既存のツイッターユーザーはついていくのかという点です。

直近では、ツイッターがイスラエルのネット証券会社「eToro」と提携し、金融サービスを充実化させることが発表され、注目されています。

参考:ツイッターとネット証券が提携 株価表示などサービス拡充へ

すでに昨年の段階で、ショート動画機能の開発を指示したこともニュースになっていましたし、今後も、マスク氏の下で、こうした従来のツイッター以外の機能のニュースが増えていくことは間違いなさそうです。

ツイッターが利払いを継続するためには、既存のツイッターユーザーが引き続きツイッターを使いつづけ、そのユーザーに広告を表示したい広告主が戻ってくることが最低条件となります。

ツイッターにツイッター以外の機能を詰め込んでスーパーアプリ化すれば、ツイッターのアクティブユーザー数はさらに増やせるとマスク氏は考えているようです。

日本は世界でも最もツイッターをアクティブに使っている国だと言われていますが、マスク氏によるツイッターのスーパーアプリ化が、日本のツイッターユーザーにとって吉と出るのか凶と出るのかが、我々日本のツイッターユーザーにとっては一番の注目点と言えるでしょう。

少なくとも現在のツイッターは、マスク氏の主導のもと、その姿を今後も大きく変えつづけていくのは間違いなさそうです。

noteプロデューサー/ブロガー

Yahoo!ニュースでは、日本の「エンタメ」の未来や世界展開を応援すべく、エンタメのデジタルやSNS活用、推し活の進化を感じるニュースを紹介。 普段はnoteで、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についての啓発やサポートを担当。著書に「普通の人のためのSNSの教科書」「デジタルワークスタイル」などがある。

徳力基彦の最近の記事