風雲急を告げるトランプ城の危機に安倍総理は何を感じるか
フーテン老人世直し録(343)
極月某日
12月に入ってからのトランプ大統領は眠れぬ夜が続いているのではないか。打つ手がことごとく裏目に出て、大統領就任以来最大のピンチを迎えているように見える。
軍事オプションをちらつかせても北朝鮮は全米を射程に入れたICBMの発射実験を成功させ、エルサレムをイスラエルの首都に認めたことで世界中から反発され、「ロシア疑惑」はいよいよ捜査が政権中枢に迫り、アラバマ州上院補選で応援した候補が敗北、その流れで本人のセクハラ疑惑が再び批判を浴び始めた。
1年前の11月、安倍総理はトランプ氏が大統領に当選すると真っ先に駆け付け、自分も偏向メディアと闘っている同士だと訴え、頻繁に電話会談を行うなど各国首脳と比べて特別の関係であることを誇示してきた。しかしここにきて風雲急を告げるトランプ城の形勢に安倍総理は何を感じているだろうか。
先月末にNHKは「スクープ日米首脳会談の内幕―対北朝鮮戦略―」と題するドキュメンタリー番組を放送した。世界で最もトランプ大統領と会談を行っているのは安倍総理で、二人の北朝鮮戦略を巡る極秘の電話会談をNHKはスクープ取材したというのである。
フーテンは長年ドキュメンタリー番組を作ってきたが、そもそも極秘会談をメディアがドキュメント出来るはずはない。NHKの人間がその場にいて映像と音声を記録すればそれはドキュメントだが、メディアが同席すれば極秘会談でなくなる。
メディアに出来るのは会談の後で誰かに内容を取材することである。しかし極秘会談であれば取材された人間が本当のことをしゃべる保証はない。会談の音声記録をすべて聞かない限り本当のことは分からない。会談の一部を教えられただけなら、権力側に切り取られ意図的に「リーク」された情報でしかないと受け止めるべきである。
それを「スクープ」とか「極秘会談の内幕」とか、あたかも真相を取材したかのように放送するのは放送倫理上問題がある。少なくも公共放送がやるべきことではない。そうした批判のうえで番組内容を紹介すると、番組には安倍総理がトランプ大統領と「蜜月関係」にあることを印象づけたい狙いがあった。
まず番組はトランプ大統領が北朝鮮政策で安倍総理の考えを参考にし、強硬策は安倍総理との会談から生まれたような描き方をした。しかし米国には今でも北朝鮮と水面下のルートがあり、安倍総理より何十倍もの情報を握っているはずだ。逆に日本は北朝鮮の近くにありながら世界一北朝鮮情報を持ってない。
第一次安倍政権の時、安倍総理は「制裁強化」を叫び日本と北朝鮮との人的往来を厳しくした。そのために日本の公安調査庁は北朝鮮の情報源を失ったと元公安調査庁幹部が『この国の不都合な真実』(徳間書店)で告発している。
しかしNHKの番組はトランプ大統領が安倍総理を頼っているように描くのである。「ここにシンゾーがいないのが寂しい」とトランプ大統領役の声優が電話会談での感傷的なセリフをしゃべり、それがフロリダの別荘から見える夕陽の映像と重なって流れる。
ドキュメンタリーと銘打つ以上大統領本人の声が流れなければ信用する気にはなれないが、NHKは恥ずかしげもなくドラマもどきの内容を放送した。この番組によって安倍総理とトランプ大統領は運命を共にする政治家だという印象が国内にばらまかれたと思う。
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