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なぜ? 今さら? 動き出した「臨海地下鉄」構想 タワマン需要と不便な公共交通

小林拓矢フリーライター
都心部とこの駅近くを結ぶ路線となる(写真:イメージマート)

 「臨海地下鉄」構想がいよいよ動き出す。小池百合子・東京都知事は11月25日、東京駅周辺からりんかい線の国際展示場付近を結ぶ地下鉄新線の事業計画案を発表した。

 新駅は「東京」「新銀座」「新築地」「勝どき」「晴海」「豊洲市場」「有明・東京ビッグサイト」の7駅(いずれも仮称)となり、JR東日本が手掛ける「羽田空港アクセス線」との接続も予定している。費用は5,000億円を投ずるという。

 なぜ、このエリアに地下鉄なのか?

開発が進むエリアでの新線となる(東京都発表の事業計画案より)
開発が進むエリアでの新線となる(東京都発表の事業計画案より)

人口増のタワマンエリアの交通難解消と開発への対応

 都心から臨海副都心を結ぶ地下鉄の計画は以前からあった。2016年に発表された交通政策審議会答申第198号ですでにこの構想は「国際競争力の強化に資する鉄道ネットワークのプロジェクト」として記されており、整備が必要な区間だということになっていた。

 臨海副都心エリアは、近年多くタワーマンションが建設されており、人口は現在、約1万8000人。人口が増え続けるという、23区内でも希少なエリアとなっている。いっぽう、輸送網は少し離れたところにある地下鉄有楽町線か、都営バスであり、都心から近いながらも公共交通の便が比較的悪い地域となっていた。

 中央区は、新線計画についての調査を行い、報告書を出している。

 それによると、つくばエクスプレスが秋葉原から延伸して接続が可能になった場合、輸送人員は一日当たり37万1400人を想定。費用便益分析の結果、数値は1.9で社会的に意義があるプロジェクトだとしている。東京都による費用便益分析でも1を超えている。

 またこのエリアは、住宅開発とならんで、築地市場跡地や、2021年に開かれた東京2020大会関連施設やその跡地利用の大規模開発が計画されている。都では臨海部を開発して人や投資を呼び込みたいと考えており、臨海地下鉄構想は、そうした需要に対応するための側面もある。

アクセスの困難なエリア

 臨海部は、都心と近いエリアにありながら、公共交通の不便さは長年の課題となっていた。鈴木俊一都知事の時代から、臨海副都心の開発は進められていたが、公共交通は足りていなかった。

「ゆりかもめ」が新橋~有明間に開業したのは1995年11月、豊洲まで延伸したのは2006年。りんかい線が東京テレポート~新木場間で開業したのは1996年3月、大崎まで延伸したのは2002年12月のことだ。

「ゆりかもめ」は臨海副都心エリアのさまざまなスポットに寄っていく路線網で、乗車人員も普通の鉄道に比べれば少ない。いっぽう、りんかい線は新宿へ向かうことは可能なものの、大崎で乗り換えることが多い状況にある。

 りんかい線がまだ東京テレポート~新木場間の運行だった時代、東京ビッグサイトに行くには東京駅の京葉線ホームから新木場まで行き、そこで乗り換えることが必要だった。

 このエリアは、飽和状態ともいえる過密都市・東京で大規模開発が可能な最後の場所だ。世界における日本の経済的地位が厳しくなる中で、東京は、とりわけアジアの中で国際都市としての地位を維持するために、この地域の開発を進めるしかない状況だと考える。

 その意味で、交通アクセスの悪さは大きな懸念材料となりうる。

課題は完成時期と事業費

 この臨海地下鉄計画案は、2030年頃の着工を予定し、2040年代の完成を予定している。事業費は都の試算で5,000億円。なお中央区の試算では、秋葉原からの路線も込みで3,310億円となっている。埋め立て地の地下を掘ることから地盤は弱く、あるいは深いところを掘らなくてはならない可能性も高い。このあたりで工事費用がかさみ、完成までに時間がかかることは予想されそうだ。

 また早くても2040年代となると、そのころには人口減少は東京圏でも始まっている可能性が高い。ただし、都心集中が進むことも想定されるので、この地下鉄を整備するのは一種の賭けであるともいえる。

 気になるのは都営地下鉄か東京メトロかということである。これはどちらも想定できる。ただ、東京メトロの他路線とは接続しない区間のため、都営地下鉄の可能性が高いのではないか。いずれも交通政策審議会の答申通り、つくばエクスプレスと接続とする方針だ。

 この地下鉄ができるころの東京は想像できないものの、想定される需要に対応した路線であるとはいえる。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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