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アルマーニの小学校長を叩いてばかりでも非生産的―なるべく建設的な提案をする

妹尾昌俊教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事
(写真:アフロ)

新しいことをやろうとする人を叩いてばかりでいいのか?

銀座にある中央区立泰明小学校で標準服(制服)をアルマーニ監修のものにすることが物議を醸している。ひととおり揃えると、8万円以上もするということで、高すぎる、外遊びなども盛んな小学生に必要かといった声があがっている。

わたしも先日この動きについては、保護者負担の軽減が重要な社会なのに逆行しているなどと批判した(記事はこちら)。

が、昨日、妻から強烈な反論をくらった

あんた、文句ばっかり言ってもダメでしょ。

この校長先生、あのアルマーニの協力を取り付けたんだよ。

相当がんばったと思うよ。

それにこれに限らず、日本ではちょっとちがうことをすると、

すぐ寄ってたかって叩くから、萎縮する人が多いんだよ。

もちろん、この制服が高いという家庭もいると思うけど、

アルマーニのスーツだったら何十万すると思ってんの?

毎年背が伸びて、買い換えたとしても数万円、それで納得する親もいると思うよ。

確かに一理あると思った。新しいことにチャレンジすること自体は、むしろ歓迎するべきだ。この校長の交渉力、行動力はかなりあるのかもしれない。

ただし、報道を見るかぎりでは、保護者への説明や決定までのプロセスにはずさんなところが多いように思う。「スクールアイデンティティ」や「服育」ということを校長は話しているが、もっと言葉をくだいてその中身や必要性を説明しないと、伝わらないと思う。

服は教材になる

「服育」という概念を使うかどうかはさておき、標準服、制服ひとつとっても、子どもにとって学ぶ素材になる。専門家の水谷美加さんのブログが参考になった。

「服育」とは高価な服を着ることではありません。

校長が児童の振る舞い(着替えの時に服をたたまない、服を投げ散らかす・・・)を嘆いているようですが、高価な服を着たからと言って変わるものでもありません。

服が綿や麻などの植物から出来ていること

羊毛など動物の毛をいただいて、寒さから守られていること

一枚の服が、多くの人の手にによって作られていること

などなど

きちんと教えれば子どもは大切に扱います。

出典:水谷美加さんのブログ

なるほどと思った。

さらには、安価な服のなかには、途上国等の貧困問題、ものによっては児童労働の問題も横たわっている。チョコレートなども同様だ。こういうことも含めて、社会や総合などの授業で扱うことができれば、服も立派な教材である。もちろん、これは高級服を着せなくとも、できる授業ではあるが。

わたしは、今回のアルマーニ制服の問題は、日本の貧困問題を無視した乱暴なものだと感じていたし、この点について意見を変えるつもりはない。毎年制服だけで数万円かかるかもしれない経済的な負担に耐えられないご家庭は来ないでね、と公立学校でやっていいとは、まったく思わない(この小学校は区中から学校選択できるという意味で特殊ではあるとはいえ)。

が、であれば、安価だったらそれでよいのか?世界の貧困にも目を向ける必要があるかもしれない。

(※ただし、アルマーニを含む高級ブランドがこの問題にどう向き合っているかは検証が必要だ。)

PAKUTASO写真素材より
PAKUTASO写真素材より

アルマーニなど銀座のブランド店に出張授業をしてもらったら!?

ちょっとしたアイデアだが、今回せっかく関係ができたアルマーニ(あるいは、エルメスでもグッチでも、あるいは日本の会社でもいいのだが)に、泰明小は出張授業をお願いしてみてはどうだろうか?

たとえば、こんな内容で企画しては?

★高級ブランド服はなにがちがうのか

★デザインの発想方法

★素材調達から製造、輸送、販売までのモノの流れ

★服にまつわる、さまざまな仕事

★ブランディングの効果的な方法

なんとも贅沢な授業である。高校生や大学生向きかもしれないが、小学校高学年あたりなら、かなり考えられる授業にできるかもしれない。

けっきょく批判になってしまうかもしれないが、わたしは、校長の発想力や企画力、調整力、行動力は、こういう授業づくりやカリキュラムづくりにこそ使うべきだと思う。

また、校長だけのアイデアでなく、教職員の知恵も活かしながら。あるいは保護者、地域の声も聞きながら。

せっかく銀座にあるのだし。近所の社会資源とうまく連携して、クリエイティブな授業ができるとおもしろい。その結果として、子どもたちの豊かな心や力、スクールアイデンティティになっていくと思うのだ。

教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事

徳島県出身。野村総合研究所を経て2016年から独立し、全国各地で学校、教育委員会向けの研修・講演、コンサルティングなどを手がけている。5人の子育て中。学校業務改善アドバイザー(文科省等より委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁の部活動ガイドライン作成検討会議委員、文科省・校務の情報化の在り方に関する専門家会議委員等を歴任。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』、『教師崩壊』、『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』、『こうすれば、学校は変わる!「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法』等。コンタクト、お気軽にどうぞ。

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