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法人税:問われる課税体制 デジタル化によって変貌する業務展開 時代の潮流を見据えた課税が求められる

足立泰美甲南大学経済学部教授/博士「医学」博士「国際公共政策」
(写真:イメージマート)

法人も公共サービスを使用するゆえに、課される法人事業税

企業が納める税の一つに、法人事業税がある。法人が、事業を行ううえで利用する公共サービス。その維持費を一部負担するために課される税。企業は都道府県に法人事業税を収める。例えば、道路や上下水道をはじめ、警察や消防などの公共サービスを法人も利用する故に、その経費を法人も負担する。このとき、企業は、必ずしも1つの都道府県で業務展開をするわけではない。当然、県をまたがる形で活動をすることもあるであろう。その場合には、各都道府県に分割して税を納めることになる。これを、分割基準という。その税率は、地方公共団体が通常よるべき標準税率(もしくは軽減税率)が適用されるものの、法人の業種に応じて分割の仕方は異なる。

デジタル化は、法人の業務展開にも大きく寄与する

だが分割基準は、果たして、法人の事業活動の実態を反映して設計されているのであろうか。分割基準の指標。たとえば、製造業であれば従業者数を採用している。その趣旨は、事業活動が、主に、従業者の労働力に依存することを、理由としてあげている。非製造業であれば、従業者数に加え事業所数も基準の一つとして、カウントされる。そこには、事業活動が複数の要素に依存している非製造業の実態を踏まえてのことだ。しかしながら、従業者数と事業所数で、企業の業務活動をどこまで反映できているのだろうか。そこに、昨今、デジタル化の進展が影響する。かつてと比べ、業務の効率化が進み、多くの産業で、少ない従業員で、数多くの業務をこなせるようになってきている。たとえば、情報通信業であれば、IT技術の進展によって、業務の自動化を進めている。製造業であればロボットや自動化技術の導入が、金融業であればオンラインバンキングやフィンテックの普及が、小売業ではオンラインショッピングが広がることで、従業員数の減少がみられる。東洋経済オンラインは、過去5年で正社員を大きく減らした上場企業を対象に独自の調査を行い、有価証券報告書(2018年12月期~2019年11月期の連結ベースの人数)にて、電気・エレクトロニクス業界を中心に5年で1000人以上削減した会社57社を報告している。

法人の業務活動を反映すべく繰り返し見直されてきた分割基準

法人の事業活動の実態を反映すべく、分割基準は繰り返し見直しを行ってきた。総務省「法人住民税・法人事業税」等によれば、分割基準は1951年度(昭和26年度)に遡る。法人事業税に分割基準を導入した当初は、従業者数で分割するとした簡易な基準であった。その3年後の1954年度(昭和29年度)には、課税基準を各都道府県に分割し、従業者数に事務所数も加わる基準へと改定がなされた。1962年度(昭和37年度)には、製造業の分割基準を、資本金1億円以上の法人を対象に、本社管理部門の従業者数を1/2に割り落した。当時、企業は、管理機能を本社に集中させる一方で、設備の合理化を図り工場に勤務する従業者を少なくしてきた。その企業の業務展開を踏まえての見直しだ。管理機能を本社に集中させる動きは、全ての業種に及んだ。1970年度(昭和45年度)には、非製造業の基準においても検討がなされ、製造業と同様に、資本金1億円以上に対して、本社管理部門の従業者数を半分に割り落した。このとき、製造業と非製造業の相違が論点となった。サービス業等は、事業の性質上、事業活動のかなりのウェイトを事務所等に起因する。事業所数の導入が検討されたものの、算定上の煩雑さから見送られた経緯がある。1989年度(平成元年度)には、サービス化が進展するなかで、リース利用の拡大や、オフィスのOA化や工場のFA化を背景に、直接的な生産に携わらない間接部門の人員が高まりつつある製造業の実態を踏まえ、本店所在地の都道府県と工場所在地の都道府県の事業活動の実態を反映すべく、資本金1億円以上の法人のみ、工場の従業者数を1.5倍に割増した。このとき、事務所等の敷地面積も指標に加えることも検討がなされたが、事務処理の煩雑さから従来からの指標である従業者数で調整がなされた。2005年度(平成17年度)に、製造業以外の事業で、従業者数と事業所数の分割基準が導入された。事業所数は、従業者数の多寡にかかわらず、一定の行政サービスを享受していることに起因する。このように、繰り返し、法人の事業活動の実態を反映するために見直しが行われ、地方自治体間の税収の公平性の向上に向けて検討がなされてきた。

事業展開の変化に応じた税源帰属の適正化とは

分割基準の見直しは、事業のいたるところで、検討がなされ、実施されてきた。固定資産の価額を基準とする電気供給業やガス供給業、電線路の電気容量を基準に採用した電気供給業、軌道の延長キロメートル数を基準とした鉄道事業がある。昨今の企業の事業活動は、一層大きく変化してきている。法人の組織形態も、事業部制の導入によって、本社管理機能を各地に分散させてきている。そこに、EC市場の拡大が実態と課税の乖離を拡げる。デジタル化やネットワーク化が進むなかで、人員の削減や店舗に依存しない業務展開が進み、ますます事業活動を従業者数と事業所数とする分割基準では、実態を反映しなくなっているであろう。例えば、電子商取引だ。本店以外の事務所等がなくとも、全国での事業展開を可能とするオンライン購入。私たちは、インターネットで商品を購入した場合、本社に送金するであろう。今までの基準であれば、本店所在地に、税収が集中する恐れがある。だが、注文以降の一連の作業は、必ずしも、本社で行われるわけではない。物流拠点に注文がいき、商品が出荷され、次いで仕分けされ、私たちの手元に配送されてくる。そこには、デジタル化という潮流にそった新たな指標の追加。例えば売上高や取引量といった指標の検討も必要であろう。

甲南大学経済学部教授/博士「医学」博士「国際公共政策」

専門:財政学「共創」を目指しサービスという受益の裏にある財政負担. それをどう捉えるのか. 現場に赴き, 公的個票データを用い実証的に検証していく【略歴】大阪大学 博士「医学」博士「国際公共政策」内閣府「政府税制調査会」国土交通省「都道府県構想策定マニュアル検討委員会」総務省「公営企業の経営健全化等に関す​る調査研究会」大阪府「高齢者保健福祉計画推進審議会」委員を多数歴任【著書】『保健・医療・介護における財源と給付の経済学』『税と社会保障負担の経済分析』『雇用と結婚・出産・子育て支援 の経済学』『Tax and Social Security Policy Analysis in Japan』

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