「新型コロナは人工ウイルス」と告発した中国人研究者の背後に、トランプ氏の元側近バノン氏の影あり
背後には、やはり政治的思惑があったのか?
米国時間9月15日夜、米フォックスニュースのタッカー・カールソン氏が司会を務める「タッカー・カールソン・トゥナイト」に、香港大学公共衛生学部のウイルス研究者で米国に亡命した閻麗夢(イェン・リーモン)博士が登場(下記の動画)、「新型コロナウイルスは自然由来ではなく、武漢ウイルス研究所で作られたもので、中国が意図的にウイルスをばらまいた」、「ウイルスの本来の性質は、中国共産党の抑圧のため、世界には明らかにされていない」などと告発して大きな注目を浴びた。
イェン氏は新型コロナが人工的に作られたものであることを示しているとする論文も発表したが、同氏の背後には、トランプ氏の元主席戦略官で“陰の大統領”と囁かれていた極右戦略家のスティーブン・バノン氏の存在があることが示唆されている。
イェン氏の論文には、ニューヨークにある「ルール・オブ・ロー(法の支配)・ソサエティー」と「ルール・オブ・ロー・ファウンデーション」というNPO法人に所属していると記されているのだが、これらのNPO法人は、2019年1月、バノン氏がアメリカに亡命したビリオネアの中国人実業家、郭文貴(グオ・ウェングイ)氏とともに、中国の悪行を暴露し、中国に民主主義と“法の支配”をもたらすことを目的として設立したものだったからだ。「ルール・オブ・ロー・ソサエティー」は、バノン氏が昨年、会長を務めていたという。
また、郭文貴氏は5月2日のYouTubeの投稿で、名前こそあげていないものの、「機密文書を持ち出して米国に来た人物がおり、バノン氏はすでにその人物に接触した」と話していた。また、バノン氏自身も「中国政府が新型コロナの情報を隠蔽し、パンデミックが広がったことを問題視している人物がいる」と言及していた。
トランプ氏を支援し、“反中”の姿勢を強く見せてきたバノン氏は、イェン氏の研究は、「民主党のバイデン前副大統領が大統領になれば、アメリカは中国に乗っ取られる」と言って中国を敵視する作戦に出ているトランプ氏の大統領選勝利に貢献するものになると考えたに違いない。何より、イェン氏の論文は、トランプ氏がポンペオ国務長官とともに新型コロナは「武漢ウイルス研究所由来の証拠がある」と訴えていたこともバックアップできると考えたことだろう。
しかし、イェン氏が所属するバノン氏らが作ったNPO法人は過去に科学論文を発表したこともなければ、同氏の論文が他の科学者により査読され、評価される“ピア・レビュー”を受けたかも不明だという。
“新型コロナウイルスの人工ウイルス説”については米国立エネルギー・感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長をはじめ、多くの科学者がとっくに否定し、アメリカの情報機関を統括している米国家情報長官室もその可能性も否定している。
今回発表されたイェン氏の論文も、すぐに多くの科学者から“トンデモ論文”であると批判された。コロンビア大学のウイルス学者アンジェラ・ラスミュゼン氏は、同氏の論文について「基本的に状況証拠しか提示しておらず、中には全くのフィクションもある」と激しく非難した。
また、イェン氏は「2019年に12月に新型コロナの研究をしたが、発見は香港大学のスーパーバイザーに抑圧された」と訴えているが、香港大学側は同氏は「2019年12月〜2020年1月の間、新型コロナの“ヒト間感染”を研究していない」とイェン氏の主張を否定した。
フェイスブックとインスタグラムは、タッカー・カールソン氏が投稿したイェン氏へのインタビュー動画は問題があるとして、動画に「この情報の主張は事実上正確なものではない」という警告ラベルをつけた。ツイッターも、イェン氏のアカウントを停止した。
新型コロナ問題への対応は大統領選勝敗の決め手となる大きな鍵を握っている。
イェン氏が登場した米フォックスニュースは、言わずと知れた保守系メディアだ。結局のところ、イェン氏は、大統領選を前に激しい反中キャンペーンを展開しているトランプ氏を支援している極右保守派に担ぎ出されたというのが本当のところだったのではないか。
(参考記事)
Steve Bannon Is Behind Bogus Study That China Created COVID
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