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時短の妻はキャリアダウン?夫は長時間労働で昇級の「格差」

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
子育てのため母が時短にすると給与や評価はダウン。夫が昇給すると複雑だ(写真:アフロ)

4月に育児休暇から復帰するにあたり、時間短縮勤務にする人も多いですよね。筆者が会社勤めをしていたころ、時短にした時期があります。助かる制度のようで、給与や評価はダウン。さらに子どもが保育園で病気をもらい、その対応と仕事の大変さに報われない思いは増すばかり。一方、夫は長時間労働で昇級し、キャリアの格差が広がりました。「夫婦で分担」が進まない現状を考えます。

「残念な夫?」(子育て支援サイトに掲載した「アラフォー初めてママのときどきドキドキジャーナル」より)

●生活を柔軟に変える妻

テレビドラマ「残念な夫。」を録画して、2歳の娘と見ています。美男美女のエンターテインメントですが、子育てをめぐる夫婦のあれこれに共感してしまいます。夫の持ち帰り仕事(しかも夜更かし)でベビーが起きちゃってもめたり、子どもにお金がかかるのに以前と変わらない感覚で職場の飲み会に使ったり。

夫に悪気がないというのもポイント。子どもを中心に、柔軟に生活を変えていくママと違い、パパは自分のスタイルを通そうとするのです。娘は出演しているベビーが好きで、「赤ちゃん、保育園行くの?」と興味津々。

この前、保育園のママ会があり、夫の話で盛り上がりました。ほとんどの子は3歳になり、きょうだいも多い、子だくさんクラスです。「子どもふたりの支度をして、持ち物も用意し、保育園に送ってくれる」というありがたいパパもいれば、ふたり目を妊娠中のママが倒れそうになっても「お昼ごはん、まだ?」というパパも。「子どもをみてくれるのはいいけど、ずっとビデオやユーチューブを見せている」というパパは多数でした(笑)。

●妻の時短、夫の長時間労働進む

20代のママは、早朝からの激務で、パパも長時間労働ですが、自然と分担しているそう。「パパは深夜に帰ってきても、朝は機嫌良く起きて保育園に送っていく。土曜日はママが起きなくていいように、さらりと子どもを連れ出してくれる」とうらやましい限り。

若いと「男女は平等」という意識が身についているでしょうし、体力があって身内も若いから援助してもらえる。ただ、仕事の経験はこれからというときに初めての子育てもあるので、アラフォーとは違った大変さがあるのかなと想像します。

3児のママは、「パパは忙しくて平日は家事も育児もやらない。会社では、私が短時間で仕事を仕上げているのに、だらだらと遅くまで残っている人が評価される。モチベーションが上がらない」と嘆いていました。

「男性も育休」なんて言われても、恵まれた職場にいる人しかとれないのが現実。「女性であるママが、子どものために対応するのが当たり前」の空気があるのではないでしょうか。ママが時間短縮の勤務にすると、「早く帰れるんだから、よろしく」ということになり、パパはますます長時間、働くようになる皮肉さ。

●子どもの病気対応もきつい

なかには「子どもが小さいうちは、決まった時間に帰れる職種で」とセーブしているパパや、「子どもの病気のときは、ママと交代で休みをとる」というパパもいますが、まだ少数派でしょう。

我が家も、夫は残業・休日出勤・持ち帰り仕事・出張あり。産前産後は海外に単身赴任という特殊な状況でした。いま思えば私が育休中は、ベビー&ママのペースで過ごせて余力がありました。

育休から復帰後は、授乳で体はきつく、娘はしょっちゅう病気をする。夫も帰国後は夜勤がほとんどでした。寝不足のママが送り迎えからごはんタイム、縫い物、食材の管理、持ち物の用意、保育園が休みの日にどうするかの計画、トラブル処理などすべてを背負い、ひんぱんに看護休暇と有給休暇をとることになります。

●妻の有給休暇はゼロに

私は復帰後に1年ぐらい、週4日の勤務にしていたのですが、子どもは急に熱を出すもの。決まっていた休みの日に病気になるわけではありません。すると休みばかりになる週も。

病児保育のシッターを探しても、病院の受診、病児保育の手配や引き継ぎも大変です。娘が40度の熱を出しても預けて出勤しましたが、どうしても遅刻や早退になってしまい、「仕事が中途半端」と言われました。

さらに密着するママは子どもの病気がうつるんです。娘がかかったあと、私も手足口病や下痢が止まらない胃腸炎にかかりました。大人に伝染しそうな病気でなければ休めません。1月の段階で、今年度のママの有給休暇はゼロ。

●昇級に夫婦間の格差

何とか年度末を乗り切ろうと思っていたところ、ちょっとニガい事件が。夫が昇級すると聞き、「私は長い間、昇級していない」という事実に気づいてしまったのです。産休・育休に短時間勤務となると確かに評価は高くないでしょうが、落ち込みましたね。

子どもに愛情を注ぎつつ仕事を続けるのは、「24時間365日、フル稼働」ということ。産前より時間は限られているとはいっても、いまはフルタイムで仕事。親としては夫がやらない部分を全部、やっている。仕事人としては一人前と見てもらえない。もやもやした気持ちが残ります。

私は「急な残業だから迎えに行って」とか、「飲みで遅いから次の日は寝坊したい」とか、言えません。具合が悪くても、はうようにして出勤し、迎えに行き、ごはんを食べさせる。

「仕事中心の生活は変えたくない。できる範囲で家事や育児をやっている」と言うパパは少なくないです。マイペースで、やったりやらなかったりでは、分担できないんだけどな。ママは頭の中で段取りしつつ、体も動かす。子どもに臨機応変に合わせる、必要な家事をする。日常の生活に終わりはありません。

●「報われない感」に救いを

それでママがいっぱいいっぱいになっていると、パパは「そんな態度はないだろう」と不機嫌になりがちです。夫婦のすれ違いの基本は、ここなんです。

お給料が下がったり、「ママじゃないとイヤ」につきあったりは、娘がかわいいから受け入れる。だけど、心身の疲労と「報われない感」がいつもあるのが働くママ。パパが自分のペースを変えたくないなら、せめてママには気をつかってほしいし、逆切れしないでほしいですよね。「親類が助けてくれる」という逃げ道があったら、ママも我慢できるのでしょうけど…。

ちょっとしたことでくじけそうになりますが、何とか倒れないようにしています。夜6時半の保育園に駆け込むママたちの笑顔に、いとしさがこみ上げ、育児・家事や仕事に使い込んだ手を握りしめたくなる。「ママは何でこんなにがんばれるの? がんばらなくちゃいけないの?」って。パパとママが同じぐらい家事や育児を、と言われますけど、どんなところから変えていったらいいのでしょうか。

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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