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日本人には決して語れない「黒人としてアメリカで育ち、生きること」ニューヨーカーのリアルな声(2)

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
6月9日、ニューヨーク市内にて。(写真:ロイター/アフロ)

人種であれ性差やLGBTであれ、差別とは体験してこそ初めて自分ごととして理解できる。他人が悲しみに寄り添うことはできても、当事者にでもならない限り真の思いを計り知ることは難しい。

そこで私にできることは、ニューヨーカーのリアルな思いや実体験を拾い上げることだと思った。ニューヨークに住む人々に、今回のデモや実体験、気持ちについて聞いてみた。

前回からのつづき)

ニューヨーカーのリアルな声(2)

ドナテラ(Donnatella) Cさん・MyHungryWorld(ビジネスコンサルタント、コミュニケーションスペシャリスト)

ジョージ・フロイド氏の死についてどう思うかと問われて5日が経ったが、私はこの悲劇についてどう答えてよいか、適切な言葉が今も見つからないままでいる。不満、怒り、悲しみ、不信感、戸惑い、心が折れ涙がとめどなく流れる・・・感情を言葉にするとおそらくこのような感じになる。

公然の場で意図的に行われた殺害の映像を観て私は非常に傷つき、10秒と観ていられなかった。黒人が白人の男性警官に殺されるというのは、システミック・レイシズム* の典型的な例だ。一言で“The straw that broke the camel’s back!”(我慢の限界)っていうこと。

(* Systemic Racism:人種別による貧富の差や教育の機会の不平等など、アメリカですでにシステム化された制度的人種差別)

我々の悲痛の叫びと正義への要求がなぜ今起こっているかを理解するには、1619年(もしくは、すでにアフリカ人捕虜がアメリカにいたとされる1400年代)に遡って考える必要がある。この国で有色人種に対して繰り返し行われてきた不正の歴史。長年この国では、黒人の生命の尊さや価値が軽視され続けてきたの。

私の考えは誰一人、人種差別主義者として生まれた人はいないっていうこと。人種差別というものは、人種差別主義者がいて、そこから世代を超えて受け継がれながら、身についていく素行だと思っている。

Donnatella Cさん。@myhungryworld(本人提供)
Donnatella Cさん。@myhungryworld(本人提供)

私はアメリカ南部(皮肉にもメイソン-ディクソン線*より南)で育った。ただ幼少時を思い出しても、親が「黒人の女の子」である私に対して他人とどう向き合うべきかについて話があった記憶はない。ただ一つ思い出すのは「将来、感じの悪い人の中には、私たちから脅されたと感じる人が出てきてもおかしくないから気をつけるように」と言われたこと。理由は、私たちは有色人種だからということだった。公務員だった働き者の母は「いかなる人」に対しても敬意を持ち、礼儀正しく振る舞うことの大切さを教えてくれた。警察に対しては特にね。だからなのか、ニューヨークに住む今、車の運転中は常に周りを警戒している。警官に止められないように祈りながら運転している。

(*Mason-Dixon line: アメリカのメリーランド州とペンシルベニア州の州境。南北戦争前、南=奴隷制存続派と北=廃止派を分けた境界のこと)

これまでの人生を振り返ってみて、人種差別を受けた経験はニューヨークのみならずアラバマ、メリーランド、ニュージャージー、ペンシルベニア、テネシー、マサチューセッツ、ワシントンD.C.などでもある。一言で人種差別と言っても多くの形態があるのはご存知かしら。

最も有害なのは、肌色の濃淡によって優劣をつける社会の偏見が今もあるということ。奴隷制度時代に遡ると、より明るい肌色の奴隷は室内で働くことができ、濃い肌色の奴隷は屋外のプランテーションで働かされていた事実がある。これをカラリズム*と言うの。長年、黒人の中でも肌の色の濃淡のみならず、目の色や髪質などによっても差別があり、これも問題とされている。私自身も以前の職場で、明るい肌色をした黒人の同僚女性が優遇され、傷ついたことがあった。

(*Colorism: 同じ人種や民族間で、肌の色の濃淡で差別すること)

しかしそんな中でも、明るい兆しが私には見えている。今回起こっているデモにより、新たな制度改革がいくつかあった。例えばミネアポリスでは(12日からニューヨークでも)警察による首の圧迫が禁止され、ホワイトハウス前の通りの一部が「Black Lives Matter(黒人の命は大切)プラザ」に改名されたり、警察による過去の残虐行為が再度見直され、今後逮捕、起訴の可能性がありえる、など。また白人の中にも、人種差別や警察の役割について理解しようとする大きな動きが感じられる。そしてこの国の人種差別、警察の残虐行為や抑圧問題が世界中に知らされ、抗議運動が日本、ドイツ、カナダ、イタリア、オランダ、メキシコ、ブラジル、オーストラリア、ニュージーランドなど、世界中でムーブメントになっている。

人権や平等、公平さのために声を上げて戦っている世界中の人々に勝利がもたらされるとしたら、「私には夢がある」(1963年のキング牧師による有名な演説)の中身が現実的で普遍的なものとしてアメリカに存在してこそだと思う。

つづく

写真で振り返る黒人差別反対デモ(ニューヨーク)

(c) Kasumi Abe
(c) Kasumi Abe
(c) Kasumi Abe
(c) Kasumi Abe

(*注:トップと下の画像全3枚はすべてニューヨークで発生した抗議活動からのものです。上記インタビュイーのドナテラさんと直接の関連はありません)

(Interview, text and some photos by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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