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破壊、略奪、デモ(市長の娘も逮捕)そしてコロナ禍・・・終わらないNYの悲痛と苦悩

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
NYのマンハッタンで6月1日深夜、抗議デモ後に発生した小売店での破壊行為と略奪。(写真:ロイター/アフロ)

新型コロナウイルス問題がまだ終わっていないというのに、次の試練がやって来た。

台風シーズンになると見かける店のショーウィンドウの防護板が今朝、市内の店舗では急ピッチで取り付けられた。況や、これはハリケーン対策ではなく破壊や略奪予防のためだ。

コロナでずっと封鎖されたままの街が防護板でさらに無機質になったのを見て、物寂しさややりきれなさが増す。「“違う種類のハリケーン”が襲来した」そんな気持ちだ。

6月1日、あらゆる小売店には防護板が設置された。BLM=Black Lives Matter(黒人にも命がある)(c) Kasumi Abe
6月1日、あらゆる小売店には防護板が設置された。BLM=Black Lives Matter(黒人にも命がある)(c) Kasumi Abe

ジョージ・フロイドさん(George Floyd)の圧迫死事件(ミネアポリス市)から1週間。警察への抗議活動や暴動は全米中に広がっている。抗議活動はニューヨーク市内でも28日から見られ、日に日に参加者数が膨らみ、過激さが増している。

コロナで空っぽの街は今、一部の過激な活動で完全なるカオス状態だ。

5月31日から6月1日の深夜にかけて、マンハッタンのブランド店や宝石店は窓が壊され、店の商品が略奪された(写真上)。NYPD(ニューヨーク市警察)のパトカーや路上のゴミ箱にも火が放たれた。

「彼らがしたいのは破壊」と地元紙『ニューヨークポスト』の表紙。(キャプチャーは筆者が作成)
「彼らがしたいのは破壊」と地元紙『ニューヨークポスト』の表紙。(キャプチャーは筆者が作成)

ニューヨーク出身の知人は、子どものころに見た怖い記憶が甦ったと言う。その光景は、1970年代の市財政危機や大停電で起きた、数々の強盗や略奪行為。「今年は2020年。もうあれから40年以上も時が経っているのに、また同じことが起こっている」と唇を噛んだ。

「この国に深く根を張る差別問題への抗議行動が悪いとは言わない。しかし賢く行わなければならない」と不満をにじませるのは、ニューヨーク州のクオモ知事。人々にある程度の理解は示しつつも「昨夜の暴動、略奪は抗議行動とは言えない。あれは犯罪だ」と強く非難した。普段は穏やかで冷静な口調もこの時ばかりはやや違った。

もちろん市内で発生しているすべての抗議が暴力的なわけでもない。メディアは過激な行為をフォーカスしがちだが、中には知事が言ったような「賢く、平和的な抗議」も存在している。

静かにプラカードを持って訴え続けるサイレントデモ。(ブルックリンの公園にて)

警官が片膝をついて抗議団体との団結を示すシーンも見られた。(ニューヨーク・クイーンズにて)

警官隊とデモ隊が互いへの理解を示し合った。(ブルックリンにて)

中には賢く、平和的に訴えている人々も多い。しかし残念ながら一部が暴徒化している。そして過激になっているのは、一般市民だけではない。

NYPDもそうだ。群衆に取り囲まれたパトカーがあろうことか、強制的に群衆に向け車両を発進させる一幕も見られた。また警官が群衆の中で銃を抜き出したという報告もある。

ビル・デブラシオ市長は1日の定例記者会見で、「暴力的な抗議や対応はまったく容認できない。暴力や略奪からは何も前進しない。民主主義的、平和的な解決を探ろう」と警察と市民双方に呼びかけた。

警官もエッセンシャルワーカーとして、少し前まで市民にとってヒーローだったはずなのだが。(c) Kasumi Abe
警官もエッセンシャルワーカーとして、少し前まで市民にとってヒーローだったはずなのだが。(c) Kasumi Abe

このまま、人々の行動が暴徒化するようであれば、夜間外出禁止令も辞さない姿勢を、知事と市長はみせている。

Updated: 6月1日午後11時から午前5時まで、2〜7日の午後8時から午前5時まで夜間外出禁止令が発令された)

ちなみに、市内の抗議活動による多数の逮捕者の中には、市長の長女、キアラさん(Chiara de Blasio、25)も含まれている。キアラさんは30日夜に参加した抗議活動で、交通を遮断した罪で逮捕された。

娘の逮捕について、市長は「彼女はこの世界を変えたくて、平和的なマナーで参加した。そんな娘を誇りに思い尊敬している。彼女の人柄の素晴らしさは、自分がよく知っている」と娘を信用し、良き理解者であることを強調するに止まった。

筆者は抗議活動を実際に見て、今回の抗議活動と過去に発生した抗議活動には少し違いがあると感じている。今回の抗議活動は、黒人差別問題への積年の怒りに加え、コロナによる健康や精神不安、ストレス、失業、トランプ政権への不満などが大きく絡み合っているのではないだろうか。

コロナにより多くの社会的弱者(多くの黒人)が命を落とし、人々は外出や自由を制限され、仕事を失った。4月の失業率14.7%は世界恐慌以降で最悪の水準だ。人々の努力と辛抱が報われようやく流行のピークを超え、市内の経済再開まであと一歩、というところで起こった今回の事件。そして暴動。ニューヨークは都市としての手腕が問われてきたが、別の種類の悲痛や苦悩がさらに続くとは誰が予想しただろう。

6月8日、市内でもフェーズ1から経済活動が再開するのだが、コロナ、デモ、暴動(略奪)というトリプルの危機を抱え、再び窮地に立たされた。

6月1日の抗議活動の様子

(c) Kasumi Abe
(c) Kasumi Abe
NYPDは1日、警官を倍増し8000人を配置すると発表。(c) Kasumi Abe
NYPDは1日、警官を倍増し8000人を配置すると発表。(c) Kasumi Abe
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(Text and photos by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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