Yahoo!ニュース

殺意を持って丸腰の黒人を殺した白人警官 実はフロイドさんのことを以前から知っていた?

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
ミネアポリス市の元警官、ショーヴィン被告(Derek Chauvin、左上)ら。(提供:Hennepin County Sheriff's Office/ロイター/アフロ)

ジョージ・フロイド(George Floyd)さんの3回目となる最後の追悼式が6月8日、フロイドさんが生まれ育ったテキサス州ヒューストン市でしめやかに行われた。9日には、フロイドさんが首を圧迫されながらも亡くなる直前に助けを求めた母親が眠る同州パーランド市の同じ墓地で、母親の隣に埋葬される。母親は2年前に亡くなっていた。

4日ニューヨークのブルックリンでもフロイドさんの追悼式が、弟のテレンスさんを迎え行われ、多くの人々が集まった。

(c) Kasumi Abe
(c) Kasumi Abe
(c) Kasumi Abe
(c) Kasumi Abe
フロイドさんのNY追悼集会に参加した、弟のテレンスさん。暴力ではない方法での抗議や結束を訴えた。(c) Kasumi Abe
フロイドさんのNY追悼集会に参加した、弟のテレンスさん。暴力ではない方法での抗議や結束を訴えた。(c) Kasumi Abe

全米にこだまする“Enough is enough”(いい加減にしてくれ)

アメリカ・ミネソタ州ミネアポリス市で先月25日に発生した、白人警官による丸腰の黒人男性の圧迫死事件。

いつまで経ってもなくならない黒人差別や根深い人種問題、警官による度重なる理不尽な暴力や権力の悪用に対して“Enough is enough”(もういい加減にして)、“Black Lives Matter”(黒人の命は大切)という言葉と共に、抗議活動が全米、そして日本を含む世界中に広がっている。

今回の事件は、被害者であるフロイドさんが亡くなり、圧迫されている一部始終が映像に収められソーシャルメディアで拡散されたからこそ、この問題が発覚し大問題となったのだが、その裏では明るみになっていない警官による傷害致死事件や暴力事件が全米で毎日のように起こっている。

フロイドさんを殺害したデレク・ショーヴィン被告(Derek Chauvin)やほかの警官が事件後、免職になっただけで逮捕されなかったことも、抗議を拡大させる要因の1つとなった。被告は29日、第3級殺人罪で起訴されたが、その罪の重さが鑑みられその後、第2級殺人罪、第2級過失致死罪に引き上げられ再起訴された。また被告の同僚として事件現場にいた元警官3人も、被告の殺人と過失致死の罪を幇助した罪で起訴されている。

ショーヴィン被告とはどんな警察官だったのだろう?

CNNは、被告のこれまでの「悪事」について少し触れている。

  • ミネアポリス市警察に18年以上勤務していた。
  • 在職中、被告に対して18件もの苦情が提起されていたことが、ミネアポリス市警察の記録に残されている。(市警察はその内容について明らかにしていない)
  • その18件の苦情のうち2件が「懲戒処分」として処理済みとなっている。
  • ミネソタ州で警察による暴力や残虐行為をデータベース化している非営利の活動団体、Communities United Against Police Brutalityによると、ショーヴィン被告はこれまで侮辱的な口調や中傷的な言葉を使ったことで、口頭注意を受けていたという記録がある。

どうやら、ショーヴィン被告は警官として問題児だったようだ。

また、幇助罪で起訴されている3人の元警官のうちの1人、タウ・タオ(Tou Thao)容疑者(トップ画像の右上)も、同様にこれまで6件の苦情が提起されている。うち5件は懲戒や謹慎などがないまま「処理済み」としてファイリングされ、1件は未解決のまま、ということだ。残り2人の元警官の苦情は残されていない。

フロイドさんとショーヴィン被告は互いを知っていた?

CNNの同じ記事ではほかにも、興味深いコメントについて触れている。記事では「フロイドさんとショーヴィン被告は昨年まで、ミネアポリス市内にあるナイトクラブ『El Nuevo Rodeo club』で警備員として勤務していた」とある。そのナイトクラブの元オーナーの証言では、フロイドさんは火曜日の補助要員として働き、ショーヴィン被告は非番の警官として17年間、同じナイトクラブで働いていたという。

2人に接点があったのか?と思いきや、元オーナーの証言はスッキリしない答えだ。「2人がお互いを知っていたことを特徴づけて(指して)いるわけではない」「我々一緒に働く者同士、働く場ですれ違ったり目が合うことくらいはたまにあったかもしれない

  • アメリカ事情についての注釈:公務員であっても副業は珍しいことではない。(州や契約内容によって異なる)

過去記事:

仕事掛け持ちOKのアメリカ副業事情。消防士×レストランシェフの二足の草鞋はアリ?ナシ?

CNNの記事はほかにも、ショーヴィン被告の妻が逮捕の翌日、離婚を申し立てたことも報じた。2人の間に子どもはいなかったとされるが、筆者の周りの反応は、「通常、夫婦というのは困難時になってこそ助け合う存在であるべき。2人の婚姻関係は事件前からすでに終わっていたのだろう」という意見が多い。

さてフロイドさんの最後の追悼式が行われた8日は、起訴されたショーヴィン被告が法廷に初めて現れる日でもあった。被告がフロイドさんの首を圧迫している問題の映像を観た者は誰でも、被告の中にある「明らかな殺意」を感じたのではないだろうか。殺意があったのか、互いを知る仲だったのか(もしそうであれば、いざこざがあったのか)、今後さまざまなことが法廷で明らかにされていくだろう。

Updated: 現地ニュースで被告とタオ容疑者は義理の兄弟だというニュースが流れていましたが、そういう事実はないことがわかりましたので修正を加えております。

(Text and some photos by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

安部かすみの最近の記事