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マツコ氏と有吉氏が飲食店の料理説明を「正解かな」「ロボットみたい」と指摘 その批判が間違っているワケ

東龍グルメジャーナリスト
(写真:イメージマート)

スタッフの説明

飲食店でスタッフの説明にイライラしたことはありますか。

2024年5月17日に放送されたテレビ朝日系「マツコ&有吉 かりそめ天国」でのこと。

高級なカウンタースタイルのレストランで大将と会話がうまくできないという相談から転じて、マツコ・デラックス氏が「あれ正解かな」と疑義を呈しました。有吉弘行氏も「暗記したやつをただただロボットみたいに言うやつね」と皮肉ります。

さらには、マツコ氏は会話を中断させられることに不満があるといい、有吉氏も内緒話をすることもあるのでさっさと行ってほしいと述べました。

飲食店におけるスタッフの料理説明を、どのように考えればよいのでしょうか。

料理を説明する理由

スタッフが料理を説明するのには、理由があります。

大別すると、味と心身的な安心安全にわかれます。

まず、味に関すること。食材の素晴らしさやシェフのこだわりを伝えることによって、よりおいしく食べてもらおうとしています。料理の由来や発祥を知れば、想像力も膨らんで楽しくなるでしょう。

食べ方を説明することもあります。最初はそのまま食べて、次は塩をつけて、最後はソースをつけて食べるなど、より味わいが深まるように提案することも少なくありません。

味以上に重要となるのが、心身的な安心安全です。

提供する料理について、ゲストが嫌いや苦手であったり、信条や信仰的に忌避していたり、アレルギーがあったりする素材があるかどうかを確認する必要があります。

予約必須の完全予約制のファインダイニングであれば、予約時にこれらを尋ねますが、漏れがあったり、手違いがあったりしたら大変です。そのため、着席時に確認したり、提供時に改めて伝えたりするのが一般的。予約が必須でない飲食店であれば、なおさらのことです。

見た目は食べられそうであっても、プレゼンテーションのためのフェイクや飾りで食べられないものもあります。もしも口に入れてしまえば、健康を害してしまうこともあるので、油断できません。誤って食べられないようにしなければならないので、食べる直前である提供時に必ず説明します。

決定権

スタッフも、ゲストの様子を目の前で見ているので、相手が説明をちゃんと聞いているかどうか、もしくは、面倒に感じているかどうかくらいはわかります。

しかし、前述したように、料理の説明は重要な業務です。いちスタッフが勝手に省略できるものではありません。

一般的に、オーナーを除いて、飲食店で決定権をもっているのはシェフです。ゲストにサービスするスタッフ=サービススタッフをマネジメントしているのは支配人やマネージャーですが、大きな力をもっているのは飲食店の商品=料理を創出するシェフになります。

シェフであれば、料理の工程や食材の全てを熟知しているのは当然のこと。自身の哲学を有していたり、生産者の想いを背負っていたりして、ゲストに伝えたいことが多々あります。アレルギーとなる可能性がある食材や、好き嫌いが多いものについても、十分に把握しており、料理説明の重要性を誰よりも知悉しているのです。したがって、シェフはスタッフに、ゲストへの説明と確認を課します。

スタッフはゲストごとにフレキシブルに対応しながらも、ある程度は定型的な説明をしなければなりません。単なる確認事項なので、首肯したり、わかったと告げたりすればよいだけです。それなのに、地上波で大々的に、ロボットのようだと揶揄されると、飲食店のスタッフには辛いものがあります。

カウンタースタイル

そもそものところ、ファインダイニングのカウンタースタイルは、シェフや大将、スタッフとの会話を楽しむためにあります。

目の前1メートル以内にいつもスタッフ=人がいて、やりとりしているような状況であれば、会話が発生するのは普通ではないでしょうか。

スタッフとの会話が煩わしいのであれば、全国津々浦々にファストフードやファミリーレストランがあるので、そちらを利用すればよいだけです。ファインダイニングではカウンタースタイルが流行していますが、テーブル席が中心のレストランはいくらでも存在しています。

カウンタースタイルのファインダイニングであったとしても、個室を利用すればスタッフとの接触は最低限に抑えられます。カウンター席に座ったとしても、予約時、もしくは、入店時や食事開始時に「説明は不要」と伝えれば、スタッフからのコミュニケーションは最小限に抑えられるもの。

つまり、ゲストがスタッフと極力接触しないようにしたければ、いくらでもできるのです。

食に対する興味

飲食店における楽しみは人によって様々。

ひたすら食べてお腹いっぱいになれたり、ちびちびと一人で飲んで酒と酒肴を嗜めたりすればよいという人がいます。同席者との会話が一番の楽しみであったり、シェフのおまかせコースを堪能したかったりするなど、幅広いです。

今事案に関しては、スタッフとの会話が最も発生するカウンタースタイルでの話題に端を発しています。料理に関する説明を煩わしいと感じるかどうかは、極言すれば、その人が食に対してどれだけ興味があるかどうかに起因しているのではないでしょうか。

マツコ氏と有吉氏が述べていることについて、ある程度は理解できます。しかし、二人の発言は甚大な影響力があるだけに、サービススタッフをただ蔑むだけではなく、飲食店の事情も汲んだ放送になっていたらよかったのではないかと、残念に思えてなりません。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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