ちょうど1年ぶりの“あの球場”で、牧丈一郎投手がプロ初登板《阪神ファーム・北陸遠征を振り返って》
きょう7月30日、阪神の歳内宏明投手が支配下へ復帰しました!午後3時前に球団広報から『本日、育成選手の歳内宏明選手(25)と支配下選手契約を締結しましたので、お知らせします。それに伴いまして、背番号は「126」から「97」に変更となります』と連絡があったもの。97番は、ともに育成契約を経験した玉置隆投手と田面巧二郎投手の番号ですね。
126番でのマウンドは27日のウエスタン・広島戦(鳴尾浜)が最後でした。でも丸亀へ移動しての広島戦と、きょう午前に行われた野球教室でも見られたと思いますが、あす31日からもう新しいユニホームですかね。いや~本当によかった!おめでとうございます。つい先日、ソフトバンクへ移籍したばかりの同期・松田遼馬投手も喜んでくれているでしょう。来年、1軍の交流戦で投げ合ってくれたら最高です。
歳内投手は昨年の春に右肩を痛め、復帰してからもなかなか球速が上がりませんでした。でも今季は徐々に戻ってきて、6月5日のソフトバンク3軍との練習試合(鳴尾浜)では148キロを計測!この時に「不安がなくなったから」と話した歳内投手が印象に残っています。コメントは短いのに全体が長くて申し訳ないですけど…こちらからご覧ください。→<歳内が復活の148キロ!竹安は3か月ぶり、浜地は10か月ぶりの実戦登板>
★1日目は石川ミリオンスターズ戦
さて大変遅くなりましたが、きょうは阪神ファームの北陸遠征を振り返ります。ルートインBCリーグとの交流試合は7月24日と25日、昨年と同じ石川ミリオンスターズと福井ミラクルエレファンツとの2試合で、どちらもナイターでした。24日は足でかき回して序盤に大量点を奪い、25日は最後に再逆転して勝利。ただし列車の都合で逆転シーンは見られなかったのですが…。
まず24日、金沢市民野球場で行われた石川ミリオンスターズ戦の結果をご覧ください。先発の石井将希投手も、後半を投げた藤谷洸介投手も、久しぶりの実戦登板。仲良く3点ずつ取られたものの、打線が11安打と10四死球と9盗塁(当初は暴投としたものを含みます)、さらに相手の4失策や4暴投とボーク2つもあって…10得点。ただし阪神の打点は7で、相手投手の自責点は4です。
《交流試合》24日
石川- 阪神 (金沢市民)
阪神 124 000 102 =10
石川 030 000 201 = 6
◆バッテリー
【阪神】石井-藤谷 / 長坂-小豆畑(6回~)
【石川】有吉(2回)-中根(1回)-矢舗(2回)-藤岡(1回)-伊藤(2回)-森野(1回) / 森口-小林(3回~)
◆本塁打 石:小林(藤谷)
◆三塁打 神:島田
◆二塁打 神:緒方、森越 石:入谷、宮澤
◆盗塁 神:島田4、高山、板山、緒方、長坂2
◆打撃 (打-安-点/振-球/盗塁/失策)
1]遊:熊谷 (5-2-0 / 1-1 / 0 / 0)
2]左:島田 (5-3-4 / 0-1 / 4 / 0)
3]右:江越 (6-0-0 / 3-0 / 0 / 0)
4]指:高山 (3-0-0 / 2-3 / 1 / 0)
5]二:板山 (5-0-0 / 1-0 / 1 / 0)
6]中:緒方 (4-1-0 / 2-1 / 1 / 0)
7]一:今成 (2-1-1 / 1-0 / 0 / 0)
〃一三:西田 (1-0-0 / 0-2 / 0 / 0)
8]三:森越 (3-2-1 / 0-1 / 0 / 0)
〃打一:坂本 (1-1-0 / 0-0 / 0 / 0)
9]捕:長坂 (2-1-1 / 1-1 / 2 / 0)
〃捕:小豆畑 (2-0-0 / 1-0 / 0 / 0)
◆投手 (打-振-球/失-自) 最速キロ
石井 5回 82球 (5-4-3 / 3-3) 143
藤谷 4回 49球 (4-3-1 / 3-3) 142
<試合経過>※敬称略
阪神は1回、2四球などで2死一、三塁として相手投手の牽制悪送球により1点。2回は緒方が中越え二塁打を放ち、今成の中前タイムリー。森越の右越え二塁打で無死二、三塁となって暴投で今成が生還。この回2点を加えました。
三者凡退で立ち上がった石井は2回、1位から四球とヒットで一、二塁として7番・入谷に2点タイムリー二塁打を浴びます。続いてヒットの走者を長坂が盗塁阻止するも、また四球で2死一、三塁となり1番・金山に右前タイムリー。同点です。
しかし3回、1死からショートのエラーで出た板山が二盗、ボークで三塁へ。緒方は四球を選び二盗成功。二、三塁となって暴投で板山が還り、2死後に森越が右前タイムリー。またボークがあり、続く長坂の中前打で森越は二塁から生還。長坂の二盗後に熊谷が四球を選んで、次の島田が右前タイムリー。4点勝ち越しました。
以降は5回の内野安打2本(熊谷と島田)だけで、他はすべて四死球の走者だった阪神。7回も四死球とエラーで2死満塁となり、島田の遊ゴロで取った1点のみです。9回に代打・坂本が右前打し、1死後に熊谷の左前打で一、三塁。続く島田が右越えのタイムリー三塁打を放って2点を追加しています。
なお6回から藤谷と小豆畑のバッテリーに代わって、7回に四球とヒットなどで1死一、三塁となり暴投で1点を失い、2死後に3番・宮澤のタイムリー二塁打を浴びました。8回は三者凡退に切って取った藤谷ですが、9回は1死から途中出場の9番・小林にセンターへソロホームラン。そのあとは遊ゴロ2つで抑え、試合終了です。
交流試合での収穫、島田&熊谷
試合後の話は、島田海吏選手からご紹介しましょう。この日は2番を打って3安打4打点の活躍!最後の9回は1死一、三塁から初球をとらえた右越え三塁打。おまけに4盗塁(試合直後に相談の結果、3回の二進は暴投によるものと記録したのですが…盗塁に加えました)と掻き回します。
9回の2点タイムリー三塁打について「前の2打席でストレートを打ったので、(最後は)変化球を狙おうとチャレンジしたんですけど、初球から変化球が来て対応できました」と島田選手。そして「きょうは収穫があった。いいポイントで打てるようになっているし、継続してコンスタントに、課題としてやっていきたいです」とのこと。
矢野燿大監督は「島田のああいう打球をもっと見たいね。あんまり多くないから。足が速く、ゴロを打つのも大事だけど、強く振ることを目指してほしい。あれくらいしっかり振って、あれくらいの打球を飛ばすというのを、これからね」と期待の言葉。なお盗塁には「それは最低限。(熊谷)敬宥がファームに来たから、高いレベルで争うのを目指すべき。敬宥は敬宥で負けたくないだろうし。そういう意識の中でやってくれたら。マークの厳しい中で走ることができれば、1軍で自信を持ってやれる」と話しています。
熊谷選手も9回に1死二塁から初球を左前打。いい当たりでしたね。「タイミングが合っていなかったけど、最後は何とか合わせていくことができました」。この日は盗塁死が1つですが「こういう時に自分がどう悪いのかわかるので、この2日間は悪い部分を修正できる、いい機会かも」と前向きなコメントです。
久々の登板だった石井&藤谷
先発の石井投手は、6月23日のファーム交流試合・ヤクルト戦で9回の1イニングを投げて以来、1か月ぶりの登板でした。先発は3月27日の関西大学戦(5回無失点)以来、2度目です。三者凡退で立ち上がりながら、2回に6安打を集中されて3失点。「初回からまずは思いきって投げることを意識して入りましたが、連打されたのは腕が縮こまってカウントを取りにいったところです」
それでも3回以降は3イニングを完璧に抑えたことを「点を取られてからは、吹っ切って切り替えられました」と振り返った石井投手。今後に向け「ゾーンにどんどん強い球を投げて、勝負していければ」と。本当に2回以外は腕を振って、力強く投げられていたと思います。
また藤谷投手も久々の登板です。5月5日に社会人・大和高田戦で7回からの3イニングを投げて、そのあと内転筋痛などで戦列を離れていました。よって約80日ぶりの登板。3回の予定だったようですが、球数も少なかったので最後までいったのかもしれません。ホームランは真っすぐを打たれたもので、3失点については「力不足です」とひと言。しっかり打ち取っているところもありましたね。「いいボールも何球かあったので、それを多くしていきたい」
★2日目は福井ミラクルエレファンツ戦
2日目は福井フェニックススタジアムで福井ミラクルエレファンツとの対戦。毎年、ここに来ると福井4年目の木下裕揮選手が気づいて話しかけてくれます。昨年も書いたように同い年の一二三慎太さんとは旧知の仲でした。1つ下の西田直斗選手は中学時代のチームが同じ、長坂拳弥選手は東北福祉大学の2つ後輩。というわけで、ことしも3人でご飯を食べたみたいですよ。
そして、ことしは大学の大先輩・矢野燿大監督がいますからねえ。阪神の練習中にベンチから様子をうかがっていた木下選手は終盤になってようやく動きました。バッティングケージの後ろで声をかけて直立。あとで聞くと「僕なんかが挨拶をしていいのかなと思って…」躊躇していたとか。でも、ちゃんと挨拶できてよかったですね。昨年は肩の手術明けだった木下選手ですが、ことしは8番レフトでフル出場して2回に中前打も放っています。
さて試合は、浜地真澄投手が今季初先発で5回を投げ6安打7三振の5失点。ついでドラフト6位ルーキーの牧丈一郎投手が、高校3年間を過ごした福井で“プロ初登板”となりました。前日とは打って変わって、割とシンプルな得点経過です。
《交流試合》25日
福井- 阪神 (福井フェニスタ)
阪神 120 000 003 = 6
福井 050 000 000 = 5
◆バッテリー
【阪神】浜地-牧‐歳内‐山本 / 坂本-小豆畑(6回~)
【福井】園田(4回)-塚田(1回)-楊(1回)-藤原(1回)-イム(1回)-日下部(1回) / 片山-中村(7回~)
◆本塁打 神:江越ソロ、緒方ソロ、今成ソロ(園田)
◆二塁打 神:江越、高山、西田 福:荒道
◆盗塁 神:熊谷 福:松本、西
◆打撃 (打-安-点/振-球/盗塁/失策)
1]二:熊谷 (5-2-0 / 0-0 / 1 / 0)
2]中:島田 (5-0-0 / 1-0 / 0 / 0)
3]指:江越 (4-2-1 / 2-1 / 0 / 0)
4]左:高山 (4-2-2 / 1-1 / 0 / 0)
5]遊:板山 (5-0-0 / 3-0 / 0 / 0)
6]右:緒方 (4-1-1 / 1-0 / 0 / 0)
7]三:今成 (3-1-1 / 0-0 / 0 / 0)
〃打一:長坂 (0-0-0 / 0-1 / 0 / 0)
8]一:森越 (1-0-0 / 0-1 / 0 / 0)
〃一三:西田 (2-1-1 / 0-0 / 0 / 0)
9]捕:坂本 (1-0-0 / 0-1 / 0 / 0)
〃捕:小豆畑 (1-0-0 / 0-1 / 0 / 0)
◆投手 (打-振-球/失-自)
浜地 5回 89球 (6-7-1 / 5-5)
牧 1回 8球 (0-0-0 / 0-0)
歳内 1回 23球 (1-2-0 / 0-0)
山本 2回 37球 (0-3-1 / 0-0)
<試合経過>※敬称略
1回2死から江越がレフトへ先制のソロ!2回は先頭の緒方が右中間へ、続く今成はライトへ2者連続ホームランで3対0とリードしました。ところが、1回は9球で三者凡退に切って取った浜地が2回につかまります。先頭の4番・清田に中前打、続く荒道の左中間越えの二塁打で1点。西の内野安打で無死一、三塁として7番・石井が左犠飛。西野二盗と木下の中前打で1死一、三塁となり、9番・山根に左前タイムリー。
まだ続きます。1番・松本に四球を与えて1死満塁、2番・須藤に左前へ2点タイムリー。これで5対3と逆転を許しました。しかし以降、3回、4回、5回とパーフェクトピッチングだった浜地。5回まで投げて、三振も毎回の7個です。
6回からはキャッチャーが小豆畑に代わり、牧がプロ入り初の実戦登板。まず5番の木内(荒道から交代)を、4球ファウルのあと遊ゴロで1死。次の西は初球を打たせて左飛。最後は石井を1ボールからの2球目で二ゴロに打ち取り三者凡退!7回は歳内が連続三振のあと松本に中前打と盗塁を許したものの、次は三ゴロで無失点でした。
2回までにソロ3本は出た打線ですが、3回は1死から連続四死球も得点につながらず、4回は相手エラーで先頭の緒方が出て1死後に連続四球を選んで満塁としながら0点。5回は江越の二塁打のみ。6回は三者凡退。7回も熊谷が左前打して盗塁を決めましたが後続を断たれ、8回は2三振などで三者凡退。
8回裏、一段と大きな拍手に迎えられて山本が登板。3番、4番から連続三振を奪って、5番は二ゴロ。5対3とリードを許したまま最終回を迎えます。追いつかなければ山本の地元登板は1イニングで終わるところ…。しかし打線が、その山本を勝ち投手にします!
代打・長坂が四球を選んで始まった9回、続く途中出場の西田が左翼線へタイムリー二塁打!さらに小豆畑は四球、熊谷は右前打で無死満塁として、縞田と江越は三振に倒れたものの、高山がピッチャー返しの中前タイムリー!これで2人が還って逆転しました。その裏は山本が2死から1四球を与えるも最後は空振り三振を奪って試合終了です。
「胸が痛む、思い出の球場」
試合途中で退散したため、後日取材した牧丈一郎投手のコメントをご紹介します。その前に、京都から駆けつけて観戦された牧投手の母・雅子さんのお話を少し。試合前に連絡をさせていただいたら「この福井フェニックス球場は去年の7月22日にサヨナラ負けをした、胸が痛む思い出の場所です」という、お母さんの言葉にハッとしました。
啓新の3年だった牧投手が甲子園を目指して戦った昨夏の福井大会。延長に入った準々決勝の福井商業戦は、11回ウラ2死二、三塁で牧投手の投げた直球がキャッチャーミットの網を突き破ってしまい…捕逸でサヨナラ負けを喫したのです。球が速すぎたのか、事前に確認して問題なかったはずのミットに限界が来たのか。それはわかりません。このミットは牧投手いわく「監督が“道具の手入れは大事だぞ”っていうことを後輩たちに伝えるため、今も高校の食堂に置いてある」そうです。
そんな後輩たちも観戦に来ました!この日は啓新高校野球部の1年生と2年生、帰省していない3年生の約50人が集結。試合前からスタンドに座ってニコニコ、5回終了時のイベントにも参加したり、いい息抜きになったしょうね。牧投手はどんな先輩だった?と尋ねたら「おもしろいです!」という答えが一番に返ってきて、一緒に笑ってしまいました。わかる、わかる。
1年前は遠い昔のようだと牧投手
後輩が来ることは知っていたという牧投手。三者凡退で終わって何よりでした。「まあ、いいとこ見せられてよかったって感じですね」。周囲の人に聞くと朝からメチャクチャ緊張していたらしく、試合が進むにつれてなお表情も硬くなっていたような気がします。でもいざ登板すると「マウンドに立ったら“いい緊張感”くらいだった」と言うように、落ち着いていましたね。この日の最速は145キロ。8球のうち1球だけフォークを投げたそうです。
お母さんは胸が痛む場所と言われたけど、牧投手は1年前のことがよみがえったりしたかと聞いたら、思ったより淡々と「球場に入る時は思い出したけど、それ以降は何も感じませんでした」と言います。しかもナイターで、登板した頃は周囲の景色も違いますもんね。あれから1年、長かった?短かった?「何年も前のことみたいです」。何年も?そんなに?「とりあえず高校時代が、もう何年も前のことのように感じています」
牧投手のプロ生活は、春季キャンプ打ち上げの日に矢野監督が「牧は1年中キャンプ!これからもずっと続く」と話したように、体力づくりで始まりました。そろそろ実戦かな?と思ってからも、また足踏みしてしまったり…。ようやくプロ初登板を終えて、矢野監督は「やっと。まだまだ」という言葉だったそうです。公式戦で投げて初めて数字が残るので、ここからですね。次を期待しましょう。
試合前にお母さんが「まさか1年後に、阪神のユニホームを着て投げるなんて。不思議な気持ちとともに運命的なものを感じます。この球場が(プロとしての)初めの一歩を踏み出せた、いい思い出に変わることがすごく嬉しいです」とおっしゃっていましたが、最後にチームが逆転して「本人の登板もですが、試合に勝って帰るということがこんなに気持ちのいいものかと思いました」とお母さん。牧投手自身と先輩たちが、1年前の記憶をきれいに塗り替えてくれたんですね。
地元・山本投手の恩師も観戦
その逆転を呼んだのは、8回に登板した山本投手。2イニングを0点に抑える“凱旋”登板です。本来なら1軍にいて、この北陸遠征に参加できないことが一番なのですが、それでも福井工大付属高校時代の恩師である大須賀康浩さん(現在は福井工大や付属高校、付属中学などの硬式野球部GM・総監督)は、帰りの車を待たせてご覧になっていたのです。試合途中まで福井工大の下野博樹監督もご一緒でした。
大須賀監督に高校時代の山本投手のことを伺うと、当時も本当に人懐っこくて、とても可愛い教え子だったそうです。ちなみに後日この日の登板について聞いた山本投手は「抑えられてよかった」と笑顔でした。ことしも差し入れをいっぱい持ってきてくださった、山本投手のお父さんも喜んでおられたと思います。お父さん、今度は甲子園でお会いしましょう!
<掲載写真は筆者撮影>