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タバコ・パッケージからみる日本の後進性

石田雅彦科学ジャーナリスト
(ペイレスイメージズ/アフロ)

タバコというのは実に「摩訶不思議」な商品だ。なにしろ、パッケージに大きく「警告文」が表示されている。「使用すると健康に悪影響がある」という商品が、白昼堂々(夜間もだが)どこでも簡単に手に入るわけだ。

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もちろん、JT(日本たばこ産業)のタバコだけでなく、輸入された外国タバコのパッケージにも同じような文言が記載される。

この表示は、いわゆる「たばこ規制枠組条約(たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約、WHO Framework Convention on Tobacco Control、WHO FCTC)」で定められたもので、日本もこの条約の署名国(2005年に公布)だ。条約批准後、タバコのパッケージに警告文を記載し、受動喫煙防止対策を定め、2008年にはタバコの自販機にtaspoを導入している。

パッケージのURLは存在しない?

以下は財務省が所管する「たばこ事業法」と「たばこ事業法施行規則」だ(太字強調筆者)。

たばこ事業法

(注意表示)

第三十九条  会社又は特定販売業者は、製造たばこで財務省令で定めるものを販売の用に供するために製造し、又は輸入した場合には、当該製造たばこを販売する時までに、当該製造たばこに、消費者に対し製造たばこの消費と健康との関係に関して注意を促すための財務省令で定める文言を、財務省令で定めるところにより、表示しなければならない。ただし、輸入した製造たばこを博覧会において展示し即売する場合その他財務省令で定める場合は、この限りでない。

2  卸売販売業者又は小売販売業者は、前項本文の規定により製造たばこに表示されている文言を消去し、又は変更して、製造たばこを販売してはならない

たばこ事業法施行規則

(注意表示)

第三十六条

2  法第三十九条第一項 に規定する財務省令で定める文言は、別表第一、別表第二及び別表第三に掲げる文言並びに次条の規定により消費者に誤解を生じさせないために表示する文言とする。

4  別表第一及び別表第二に掲げる文言は、枠その他の方法により容器包装の主要な面の他の部分と明瞭に区分され、当該主要な面につき一を限り設けられた部分(その面積が当該主要な面の面積の十分の三以上であるものに限る。)の中に、一を限り、大きく、明瞭に、当該容器包装を開く前及び開いた後において読みやすいよう、印刷し又はラベルを貼る方法により表示されなければならない

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上記にこの「別表第一、別表第二」の内容を示すが、ただ残念ながら、このURL「http://www.mhlw.go.jp/topics/tobacco/main.html」は存在しない。直接、「たばこと健康に関する情報ページ」へリンクさせているようだ。

厚労省によれば「URLの文字が機能していないことを把握しているが、タバコのパッケージからどのような情報を得られるようなページへ導くか、現在は検討中」とのことだった。これ、早急に直すべきだし、直したらアナウンスして欲しい。

いずれにせよ、タバコのパッケージからこんなに長ったらしい文字を打ち込む人がいるのだろうか。QRコードでも使えばいいと思うが、これだけをみても日本におけるタバコの被害についての情宣啓蒙が、いかにお粗末で嘆かわしいかよくわかるし、このパッケージから「実はやりたくない感」がかなり強烈に漂ってくる。

タバコ・パッケージの世界標準とは

オーストラリアのタバコ販売規制は世界で最も厳しい、と言われている。この規制は2012年から始まったが、その眼目は「タバコ・プレイン・パッケージ(Tobacco plain packaging、PP)」だ。

オーストラリアでは、タバコのパッケージをタバコ会社が自由にデザインすることは許されない。パッケージの75%には健康被害を唱った警告文やタバコが原因の疾病画像などを掲載しなければならず、さらにタバコ会社のロゴのサイズも小さくするように定められている。

タバコ・プレイン・パッケージの「Plain」とは「無地」とか「明白明瞭な」といった意味だ。ちなみに、オーストラリアのタバコ・パッケージには、禁煙サポートのための電話相談窓口(クイットライン)の電話番号が記載され、より禁煙しやすい取り組みがなされている。

このパッケージの採用前後を比べた調査があるが、パッケージ採用後にはタバコを止める喫煙者の割合が増えた、と言う(※1)。この研究は、2012年4月から2014年3月まで電話による聞き取り調査で、対象者は18歳から69歳の喫煙者、最近(1年以内)まで喫煙していた非喫煙者だった。

タバコ・パッケージの画像を付加した警告表示の効果では、2001年から2009年の間のカナダの調査で喫煙率を約10%押し下げ(※2)、20年間で喫煙率が50%減少しているブラジルではこの50%の減少のうち少なくとも8%が2001年から導入されたタバコ・パッケージによるものだった(※3)という研究もある。

このように、タバコの警告表示は喫煙率を押し下げる効果がある。未成年者や非喫煙者が、好奇心からタバコに手を伸ばすことをためらわせ、思いとどまらせることも期待できるだろう。当然、その目的のために、パッケージの文言や画像表示はタバコの健康被害を明確に伝えられるようなショッキングなものであるべきだ。

カナダはタバコの健康被害をパッケージに表示させた最初の国だが、2016年にカナダがん協会がタバコ・パッケージの国際比較「Cigarette package Health Warnings(PDF)」をまとめている。

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カナダがん協会がまとめた「Cigarette package Health Warnings」の内容。上段の左端がPP規制前のオーストラリアのパッケージ。警告表示は文字のみ、面積も小さく現在の日本レベルだ。2012年の規制後は、上段中(表)右(裏)という表示になった。下二段は、ハンガリー、ノルウェー、ニュージーランド、カナダ、英国、フランスなど。

これによれば、タバコ・パッケージの警告表示面積は、ネパールとバヌアツが表裏90%以上、インドとタイが表裏85%以上、オーストラリアが表75%裏90%などとなっている。日本の表示規制が「主要な面」の3/10、つまり30%以上、となっているのとは、かなりの開き(ウガンダやエチオピア、イスラエルなどど並び面積で123位)があるわけだ。

日本では受動喫煙防止対策の強化が議論されているが、それも「骨抜き」にされようとしている。

世界の趨勢は、タバコのパッケージ一つとっても日本の「常識」とはかけ離れた場所にあるが、喫煙者がタバコという商品をこれほど手に入れやすく、タバコを吸うことに対しての恐怖心や後ろめたさを感じられずにすむ国も少ない。

タバコのパッケージに対する健康被害を含む画像警告の表示は、前述した「たばこ規制枠組条約(WHO FCTC)」にもハッキリ定められ、強く勧められていることだ。この条約の署名国である日本は、条約内容を遵守しない状態が10年以上も続いている。

まがりなりにも先進国を標榜するのなら、国民の生命や健康にもっと気を配るべきだろう。タバコ対策は、国や行政が国民の健康を守る、という態度表明の象徴とも言える。

関連記事:

※1:S Durkin, et al., "Short-term changes in quitting-related cognitions and behaviours after the implementation of plain packaging with larger health warnings: findings from a national cohort study with Australian adult smokers." BMJ Journals Tobacco Control, Vol.24, 2014.

※2:Azagba S, Sharaf M. "The Effect of Graphic Cigarette Warning Labels on Smoking Behavior: Evidence from the Canadian Experience." Nicotine & Tobacco Research. 2012.

※2:Huang J, Chaloupka F, Fong T. "Cigarette graphic warning labels and smoking prevalence in Canada: a critical examination and reformulation of the FDA regulatory impact analysis." Tobacco Control. 2013.

※3:Levy D, de Almeida L, Szkl A. "The Brazil SimSmoke policy simulation model: the effect of strong tobacco control policies on smoking prevalence and smoking-attributable deaths in a middle income nation." PLoS Medicine. 2012; 9(11).

※2017/05/12:17:15:タイトル「タバコのパッケージからみる日本の後進性」を「タバコ・パッケージのURLは『死んでいる』」に変えた。

※2017/05/13:0:26:記事中に筆者の勘違いとスペルミス、確認不足による重大な過誤があったため、掲載を一時、中止した。タイトルを当初のものに戻すことを含め、内容を修正の上で再度アップした。

※2017/05/13:9:51:タバコ・パッケージの警告表示の効果の文献を追加した。「タバコのパッケージに対する健康被害を含む画像警告の表示は、前述した「たばこ規制枠組条約(WHO FCTC)」にもハッキリ定められ、強く勧められていることだ。この条約の署名国である日本は、条約内容を遵守しない状態が10年以上も続いている。」というパラグラフを追加した。

※2017/05/13:10:24:読者コメントで指摘されたので冒頭のJT製タバコの写真を差し替えた。

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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