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ハロウィーンの怪物、瞬時に飛び出す顎と長い鼻を持つ深海サメ「ゴブリンシャーク」とは

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:イメージマート)

 世界には不思議な生き物がいてサメには多様な生態があるが、ゴブリンシャークも奇々怪々な生き物だ。深海に住むサメの一種で生きた化石とも言われ、顎を素早く前方へ突き出してエサを食べる生態が特徴的な生き物でもある。

ゴブリンシャークとは

 ハロウィーンにはいろいろな怪物が出てくるが、ゴブリンもその一つだ。ゴブリンは、西洋の民間伝承にしばしば登場する矮小で邪悪な怪物の名だ。

 英国の作家、ジョン・ロナルド・ルーエル・トールキンの『ホビットの冒険』にも出てくるキャラクターで、ロールプレイングゲーム『ダンジョンズ&ドラゴンズ』でゴブリンの名は欧米以外にも広まった。また、日本のマンガやアニメにも『ゴブリンスレイヤー』など、ゴブリンが登場する作品が多い。

 このゴブリンの名が付けられたサメがいる。英語名、ゴブリンシャーク、日本名はミツクリザメ(Mitsukurina owstoni)だ。日本で採集された標本が最初に報告され、古くからの日本名がテングザメだったことから同じ怪物であるゴブリンの英名が付けられた(※1)。

 テングザメの由来は、前方に長く突き出した鼻からだ。ゴブリンシャークの長い鼻には、エサの微細な電流を感知するロレンチーニ器官が備えられていて、視界が届きにくい深海の環境に適応している。

 ゴブリンシャークは、その長い鼻の下にある顎を瞬時に前方へ突き出してエサを食べる。これもまた深海というエサの少ない環境に適応した生態だと考えられてきた。

ゴブリンシャーク、ミツクリザメ(Mitsukurina owstoni)。By Bean, 1905
ゴブリンシャーク、ミツクリザメ(Mitsukurina owstoni)。By Bean, 1905

瞬時に顎を突き出してエサを食べる

 だが、ゴブリンシャークがどのようにしてエサを食べるのか、それは長く謎のままだった。北海道大学や美ら海水族館などの研究グループは2016年、ゴブリンシャークがエサを食べる生態をNHKが東京湾で撮影した映像を分析し、学術誌に発表している(※2)。

 同研究グループの報告によれば、ゴブリンシャークの顎の骨は、エサを発見するとまず大きく上下に広がり(約0.3秒)、顎を支える喉の骨がちょうどパンタグラフのように顎を前進させ、エサに向かって突き出しつつ顎が閉じるような仕組みになっている。顎が突き出される速度は秒速3.1mと推計され、その長さは全長の8.6%から9.4%におよび、これは他のサメの追随を許さないほど長い。

ゴブリンシャークの顎の開き方。北海道大学のリリース(2016年)より
ゴブリンシャークの顎の開き方。北海道大学のリリース(2016年)より

 また、ゴブリンシャークの顎は、閉じる過程で一度開けてから閉じることも確認されたが、その理由はまだよくわかっていないという。

 数千万年前にゴブリンシャークの祖先は、浅瀬で生息していたようだ。その後、深海へ進出したというわけだが、同研究グループは、泳ぎが遅いゴブリンシャークがエサの少ない深海の環境に適応するように進化した結果、こうした顎のメカニズムになったのではないかと考えている。

※1:Barton A. Bean, "Notes on an Adult Goblin Shark (Mitsukurina Owstoni) of Japan" Proceedings U.S. National Museum, Vol.28, No.1409, 1905

※2:Kazuhiro Nakaya, et al., "Slingshot feeding of the goblin shark Mitsukurina owstoni (Pisces: Lamniformes: Mitsukurinidae)" scientific reports, 6, Article number: 27786, 10, June, 2016

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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