ハロウィーンの怪物、瞬時に飛び出す顎と長い鼻を持つ深海サメ「ゴブリンシャーク」とは
世界には不思議な生き物がいてサメには多様な生態があるが、ゴブリンシャークも奇々怪々な生き物だ。深海に住むサメの一種で生きた化石とも言われ、顎を素早く前方へ突き出してエサを食べる生態が特徴的な生き物でもある。
ゴブリンシャークとは
ハロウィーンにはいろいろな怪物が出てくるが、ゴブリンもその一つだ。ゴブリンは、西洋の民間伝承にしばしば登場する矮小で邪悪な怪物の名だ。
英国の作家、ジョン・ロナルド・ルーエル・トールキンの『ホビットの冒険』にも出てくるキャラクターで、ロールプレイングゲーム『ダンジョンズ&ドラゴンズ』でゴブリンの名は欧米以外にも広まった。また、日本のマンガやアニメにも『ゴブリンスレイヤー』など、ゴブリンが登場する作品が多い。
このゴブリンの名が付けられたサメがいる。英語名、ゴブリンシャーク、日本名はミツクリザメ(Mitsukurina owstoni)だ。日本で採集された標本が最初に報告され、古くからの日本名がテングザメだったことから同じ怪物であるゴブリンの英名が付けられた(※1)。
テングザメの由来は、前方に長く突き出した鼻からだ。ゴブリンシャークの長い鼻には、エサの微細な電流を感知するロレンチーニ器官が備えられていて、視界が届きにくい深海の環境に適応している。
ゴブリンシャークは、その長い鼻の下にある顎を瞬時に前方へ突き出してエサを食べる。これもまた深海というエサの少ない環境に適応した生態だと考えられてきた。
瞬時に顎を突き出してエサを食べる
だが、ゴブリンシャークがどのようにしてエサを食べるのか、それは長く謎のままだった。北海道大学や美ら海水族館などの研究グループは2016年、ゴブリンシャークがエサを食べる生態をNHKが東京湾で撮影した映像を分析し、学術誌に発表している(※2)。
同研究グループの報告によれば、ゴブリンシャークの顎の骨は、エサを発見するとまず大きく上下に広がり(約0.3秒)、顎を支える喉の骨がちょうどパンタグラフのように顎を前進させ、エサに向かって突き出しつつ顎が閉じるような仕組みになっている。顎が突き出される速度は秒速3.1mと推計され、その長さは全長の8.6%から9.4%におよび、これは他のサメの追随を許さないほど長い。
また、ゴブリンシャークの顎は、閉じる過程で一度開けてから閉じることも確認されたが、その理由はまだよくわかっていないという。
数千万年前にゴブリンシャークの祖先は、浅瀬で生息していたようだ。その後、深海へ進出したというわけだが、同研究グループは、泳ぎが遅いゴブリンシャークがエサの少ない深海の環境に適応するように進化した結果、こうした顎のメカニズムになったのではないかと考えている。
※1:Barton A. Bean, "Notes on an Adult Goblin Shark (Mitsukurina Owstoni) of Japan" Proceedings U.S. National Museum, Vol.28, No.1409, 1905
※2:Kazuhiro Nakaya, et al., "Slingshot feeding of the goblin shark Mitsukurina owstoni (Pisces: Lamniformes: Mitsukurinidae)" scientific reports, 6, Article number: 27786, 10, June, 2016