名古屋がタイム誌「世界の最も素晴らしい場所」に! 観光戦略のカギは“外国人目線”
世界的な観光地と並んで「名古屋」が選出
アメリカ『タイム』誌の2023年版「世界の最も素晴らしい場所」が3月に発表されました。同誌の国際特派員、寄稿者らが世界各地の観光地をリストアップした中から50都市を選出。イタリアのナポリ、オーストリアのウィーン、アメリカのワシントンD.C.、スペインのバルセロナ、スイスのサンモリッツなど世界的に名の通った観光都市が並ぶ中、日本からは京都、そして何と名古屋が選出されました。
この話題が届くや、名古屋では「地元関係者は喜びにわいている」などと報じられる一方、「えっ、名古屋?」「名古屋といいつつ紹介されているのはジブリパーク(長久手市)やサントリー知多蒸溜所(知多市)など、名古屋市以外ばかり」など戸惑いの声や冷めた反応も。
そこで、あらためて『タイム』の名古屋・評を検証し、この評価に対する関係者の反応、そして名古屋の観光の可能性をさぐってみることにします。
『タイム』の「Nagoya」評を翻訳すると…
そもそも『タイム』は、名古屋をどんなふうに評価したのでしょうか? 原文を翻訳してみます。
【Nagoya,Japan】 アニメ&ウイスキー
名古屋はかねてよりずっと、東京と京都を結ぶ新幹線の停車地。国の製造業の中心である工業地帯と、豊かな山林という矛盾する景色を観光客はう回してきた。
そんな名古屋には、貴重なウイスキーで有名な「サントリー知多蒸溜所」が海岸線にあり、伝説のアニメーター・宮崎駿を祝う待望の「ジブリパーク」がある。今年は日本のテーマパークの当たり年で、「ジブリパーク」の『もののけ姫』『となりのトトロ』『ハウルの動く城』などの大ヒットアニメ作品に命を吹き込む没入型アトラクションは、自然に浸るような気分にさせてくれる。
4月には満開の桜の花という自然の恵みを満喫できる。それを満喫するには2つの新しい選択肢が。「THE TOWER HOTEL NAGOYA」は、1954年築のランドマークである名古屋テレビ塔内にある世界初の電波塔内のホテル。周囲にはトレンディなファッションブティックや、最上級のバーボンウイスキー専門のバー「アンキ」などがあり、町の中心部に新たに整備された「Hisaya-odori Park」(久屋大通公園)を見渡せる。
昨年11月に名古屋の北端にオープンしたのが「ホテルインディゴ犬山有楽苑」。おなじみのブランドと温泉などの日本の伝統的なぜい沢を体験できる。都心部からわずか20分。バルコニーからは山々が見渡せるが、ウイスキーの香りやアニメのキャラクターは見えない。
(『タイム』誌の原文をGoogle翻訳し、それを元に筆者が構成。英語力に乏しいので誤訳があったらすみません)
“観光客にはう回されてきた”とか、ウイスキーにやけに肩入れしていたりとか(サントリー知多蒸溜所は見学などは不可)、内容は若干微妙な気も…。しかし、某世界的グルメガイドでもそうであるように、外からの評価に地元が少々納得がいかないのはいたし方ないもの。ここはひとつ大いに乗っかってPRに活かしたいところです。そこで、まずは当事者である名古屋市および愛知県が、これをどう受け止め、どう活かしていこうと考えているのか尋ねてみました。
「光栄」と名古屋市、「インバウンドに期待」と愛知県
「記事では世界の誰もが知るような観光地が選ばれていて、名古屋がこういった地域と観光面で肩を並べたということで率直に光栄です」というのは名古屋市観光文化交流局。「市内では登録有形文化財である中部電力MIRAI TOWER(名古屋テレビ塔)内の『THE TOWER HOTEL NAGOYA』が取り上げられました。集約電波塔内のホテルとして世界初であるだけでなくアートホテルとしても注目されていると聞いています。名古屋市以外でも独特な特徴をもつ施設が取り上げられていて、他とは異なる優位性が評価された結果だと考えます」と続けます。
インバウンドに対する効果を期待するのは愛知県観光振興課。「外国人観光客を誘致していく上で大変後押しになると感じています。これまでもジブリパークについては海外向けのプロモーションで重点的に紹介してきました。今回の選出をきっかけにいっそうの情報発信に努め、多くの外国人観光客を呼び込んでいきたいと思います」
名古屋市以外の施設が数多く紹介されていることについても、名古屋市、愛知県ともに前向きに受け止めます。
「観光客の皆さん、特に海外の方にとっては、市町村の境界などは特段意識されないことと考えます。観光エリアとしてNAGOYAが世界に認識されているのならそれに越したことはありません」(名古屋市観光文化交流局)。「これまでも『愛知・名古屋』の世界的な知名度向上に向けて、キャンペーンや情報発信を行ってきました。広域でとらえていただくことで、いっそう当地域の魅力を発信できると考えています」(愛知県観光振興課)
現代アートと地域の伝統工芸を体感できる唯一無二のホテル
ジブリパークが高い評価につながったことは言わずもがなですが、海外の高感度の層にウケているのが「THE TOWER HOTEL NAGOYA」(名古屋市)です。
「当ホテルはSLH(スモール・ラグジュアリー・ホテルズ・オブ・ザ・ワールド)が選ぶ『アート愛好家のための必見ブティックホテル世界10選』(2021年/2020年は20選)に日本で唯一選ばれるなど、海外でも高く評価していだいてきました」とは女将こと豊田涼子さん。ホテルが入居する中部電力MIRAI TOWERは名古屋の戦後復興のシンボルで、昨年国の重要文化財に指定され、いっそう価値が高まっています。現代アートと地域の伝統工芸を融合させた意匠があらゆる空間で楽しめるのも、海外のアートファンやクリエイターに“刺さって”いるようです。
国宝に囲まれ戦国や茶の湯の文化にもふれられる新鋭ホテル
犬山市の「ホテルインディゴ犬山有楽苑(うらくえん)」も、日本の伝統と最新のホスピタリティを合わせて体感できる開業1周年の新しいホテルです。
「国宝犬山城、国宝茶室『如庵』を有する日本庭園 有楽苑とふたつの国宝に囲まれ、犬山祭、鵜飼、木曽川などの犬山の歴史、文化、ホテルのデザインやアート、好奇心を刺激する要素がちりばめられている点を評価していただいたと考えます」とは同ホテル担当者。
サムライ、茶の湯など、海外の人から関心が高い日本のカルチャーを身近に感じられることが高評価につながったと考えられます。
名古屋の観光戦略は“海外の評価の逆輸入”
こうやって『タイム』に取り上げられているスポットを見ると、名古屋人ほど「そこがウケるんだ!」と新鮮な驚きを感じられそう。かつて名古屋都心のランドマーク、オアシス21が「外国人旅行者が選ぶ夏のフォトジェニック観光スポット」で2位に選ばれた時も、名古屋の人はアッと驚きました(参照記事:「外国人観光客が殺到。名古屋『オアシス21』人気の秘密」 2017年11月30日)。“灯台下暗し”というように、地元の人ほど見慣れた景色の魅力に気づいていなかったり、またホテルは近すぎて宿泊をイメージしにくいと考えられます。
だからこそ、外からの視点で魅力を掘り起こしてもらうことは貴重かつ大切。特に名古屋の場合は、国内だと少々色眼鏡で見られがちのため、外国人目線でフラットに見てもらう方が正しく評価してもらえるかも。同時に日本人は、海外の評価に敏感ですから、“世界が認めた”は箔づけにはもってこいです。
今回の『タイム』を参考に、海外でウケそうな話題を積極的に発信していき、その評判を逆輸入して国内に広める、これが名古屋にとって最も有効な観光戦略になるかもしれません。
(写真撮影/筆者 ※ホテルインディゴ有楽苑の写真はホテル提供)