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韓国の宗教学者が語る統一教会④ 「日本からのカネは韓国に集まり…」

イメージ画像。pixabay

「韓国人の見る統一教会」を綴るシリーズ。

"本国"たる同地では、教団をどう見ているのか。

実のところ多くが、社会から「異端」と切り捨てられた教団に無関心だ。日本では大々的に報じられた7月の「在韓国信者のデモ」や「元教団ナンバー2による会見」もほとんど現地では報じられなかった。そういったなかで、話を聞くならこの人しかいない。

釜山チャンシン大学のタク・チイル教授。宗教学者としての顔の他、宗教メディア「現代宗教」の理事長兼編集長も務める。

アメリカでも研究歴のある同教授による「日米韓での教団比較論」の続きを。

タク・チイル教授 筆者撮影
タク・チイル教授 筆者撮影

韓国の宗教学者が語る統一教会① 「なぜ韓国では教団に無関心なのか」

韓国の宗教学者が語る統一教会② 「日米韓共通の教団のやり口」 政界への近づき方とは?

韓国の宗教学者が語る統一教会③ なぜ日本の信者は「そんな話」を信じたのか

韓国・日本・アメリカ。それぞれの「カネ」

(本人語る)

統一教会について、日本・韓国・アメリカでの違いを眺めつつ見てみよう。

すると違う視点が得られるのではないか。そういった話をしてきました。

3国のうち、日本でのみ「霊感商法」「献金」による大きな被害が生まれています。確かにお金の流れという面ではそれぞれの国での機能が違うのです。

教団の世界的なカネの流れは次のように定義できます。

日本「カネを募る場所」

韓国「カネが集まる場所」

アメリカ「そのカネを基に投資を受けて増やす場所」

言い換えるならば、日本のみが「ビジネスをやる必要がない」という状況にあるのです。

韓国では「ジュースを売った会社」としても知られる

日本以外の話からしましょう。

すでに申し上げた通り、韓国では統一教会は宗教団体以外にも「統一グループ」という財閥としても知られています。1960年代からの軍事政権下では軍需産業で急成長しました。

いっぽうで系列の食品会社では麦から作ったコーラ「メッコール」がロングセラーになっています。2010年の教団発表によると、1980年代から韓国でこれを50億本を売ったといいます。一缶1400ウォンですから、すでに7兆ウォン(7000億円)だということです。

そのほか、高級高麗人参なども売っていますから、全体の財産はどれくらいか算出できないと思います。私自身もよく韓国記者から「教団の全財産はいくらですか?」と聞かれるのですが、把握しきれない、と答えるくらいですから。

  • 販売を行う教団系列の食品会社「一和」のPR動画。2020年公開。韓国での近年のレトロブームに乗せたもの。

そして韓国で儲けた資金は、アメリカでの勢力拡大の「軍資金」にもなっていった。アメリカやカナダの8300箇所のレストランに魚を卸す事業を展開していく運営資金となったのです。「ニューヨーク・タイムズ」によると近年の年間収益は5億ドルになるといいます。日本円で約73億円ですよ。同時に現地でのスタイルは「投資を募って、より資金を増やしていく」というものでした。その過程で政治家や有力な人物に近づくロビー活動を続けてアメリカで地位を築いたのです。

参考記事:「統一教会」が米国に寿司を広めた知られざる経緯(東洋経済)

しかしながら、日本で統一教会=ビジネスの話を聞いたことがないでしょう。

理由は他でもない。

「霊感商法」や「献金」で利潤を得られたからです。やる必要がなかった。

その理由は前述の通り、日本社会の「寂しさ」に入り込んだからです(詳細はこちら)。文化の弱点を突いたとも言えます。

つまり、統一教会は一つの宗教組織なのですが、韓国・アメリカ・日本でそれぞれに合わせた布教を行っているのです。そうでなければ、3つの国で同じような問題が起きているはずです。

そういったなかでも、その国への進出において保守・右翼の政治家を利用するという点では韓国・アメリカ・日本は同一です。

「この人だ」と決めた人を支援して、相手が統一教会に関心を持った時に、勢いに乗ってPRする。これが統一教会の典型的な方法なわけです。

日本でも同じでしょう? 

その過程で、信者による組織力を活用する。アメリカと韓国では政界とのつながりからビジネスも生み出しました。当然、そのためにはその時代の社会の流れを読まなければなりません。アメリカには反戦運動、韓国には軍事独裁政権とそれに対して燻る市民の反感がありました。日本にも1960年代以降には左派が非常に力を持った時代がありましたよね。

残念なのは依然として日本が、資金を確保するための場所として残っている点です。日本の信者に対して「献金をいくら、いつまでにしろ」という司令が降りています。一昔前までは本当に郵便物のなかにお金を忍ばせて送る、といったことが行われていました。

教団は、数字化が無意味なほど資金の流れが多いのです。日本から流れてきた献金も数え切れないほどある。日本からの資金が韓国に集まり、アメリカで再度大きな投資を受けてより大きなお金となるのです。

韓国では日本からのカネは「神格化」にも使われ…

韓国でのカネの話をもう少ししましょう。

韓国で2005年に「週刊朝鮮」が報道したところによると、統一教が韓国国内のリゾート団地を総合開発しようとした。統一教会が所有する土地は1400万坪(要注意)なのですが、記事によるとリゾート開発のための外部の資金が統一教に入ってきた外部資金は3兆ウォンだというのです。だとすればそのカネはアメリカからも来るでしょうが、絶対的な割合で日本からも資金が多いと見ています。

統一教自体が行う事業もありますが、こうやって統一教会が投資を誘致して行った事業も多いのです。日韓トンネルも同じですよ。私もその入口に行きました。詐欺ですよね。ただ投資者を連れて行って見せるだけ。200メートルだけ掘って。今もその現場はそのままだそうですね。

結局はそういった事業の資金が多くは日本からやってきたものなのです。韓国は宗主国だからそこに集めるべきだ、とする。

集まったお金は文鮮明の神格化やさらなる利益増大のために使われるのです。

例えばソウルの龍山区靑坡路にあったかつての本部、ソウル駅近くにあるビル、龍山区漢江路にある現在のソウル市内の拠点施設(写真)。そして釜山にある教会施設。何より、加平郡にある「天正宮」。

ソウル市漢江路にある関連施設、天苑宮・天勝教会 筆者撮影
ソウル市漢江路にある関連施設、天苑宮・天勝教会 筆者撮影

それらは統一教会にとって非常に重要な施設です。

ちなみに各国の最も重要な聖地を見ると、その国の地理的な中心地に土地を購入していることが分かります。ブラジルでもそうだし、天正苑のある加平もほぼ朝鮮半島の中心に位置している。

すべては文鮮明とその家族を神格化するためのことなんです。そうやって神格化することにより「次の経済」が生まれるわけですから。

続く。

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

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