韓国の宗教学者が語る統一教会② 「日米韓共通の教団のやり口」 政界への近づき方とは?
ずっと「韓国人の意見」を聞いてみたかった。
昨今の統一教会に関する話だ。確かに韓国で設立された教団に端を発する話が、7月以来日本社会を揺るがしている。
しかし韓国では教団関連の動向は「異端」だとして大きな関心が払われない。その後在韓日本人信者のデモや、元教団ナンバー2の会見などがソウルであったが、ほとんど報じられず、というところだ。
韓国で話を聞くならこの人しかいない。韓国メディアの記者たちからこう推薦を受けた。
タク・チイル釜山チャンシン大教授だ。専門は宗教学。
父ミョンファン氏は韓国内での異端宗教団体研究の先駆者だった。その父を92年に国内宗教団体関係者による刺殺事件により失った。長男である自身も異端宗教研究の道に入り、教理の研究、宗教被害者としての視点から情報発信を続ける。宗教メディア「現代宗教」の理事長兼編集長も務める。確かに筆者自身、これまでも韓国メディアからの意見を引用するならこのメディアから、というイメージがあった。
9月下旬、韓国金海市の研究室を訪ね、話を聞いた。今回はその第2弾を。
韓国の宗教学者が語る統一教会① 「なぜ韓国では教団に無関心なのか」
アメリカ、韓国では「大きな被害は起きていない」
日本では統一教会の問題がかなり高い関心を集めていると聞きます。韓国から見ていても大きな危機感を感じます。
今日はこの事象を少し違う視点で話しましょう。
「統一教会の韓米日での比較」です。
教団にとって基本軸となる3国です。韓国は宗主国であり、アメリカと日本は布教において重要な国。これらを比べてみると、ある点が分かります。
社会的に大きな問題が起きているのは日本だけで、韓国とアメリカではそうはなっていない。
韓国についてはすでにお話したとおりです。実際に被害が出たのは「1950年代、設立当時の性的スキャンダル」で、後はじつのところ、イメージによるものです。
最も大きな影響があるのは、国内のキリスト教団体から「異端」と切り捨てられたこと。韓国政府も国内で「主流」と公式的に定義する宗教のなかからも統一教会は外れていますから。教義で「文鮮明を再君臨主」と謳っているからです。
その他は「軍事独裁政権と何か結びつきのある団体」としてのイメージ。さらに1987年には「大統領選時の金泳三候補(この時は落選)のスタッフに信者がいた」という点。今の日本と同じで、当時もそれを知っていたか、知らなかったのかは問題になった。そして「そこから資金援助があったのは確か」という周囲の視線は免れ得ませんでした。
ただし、日本と比べると「この程度に過ぎなかった」ということができます。
米国でも「与党から祝電」
では今回の本題、アメリカはどうか。
私は同地でも研究生活を送ったことがあります。在住時には統一教会の行事にも参加してみたりもしました。じつのところ、統一教会関連の資料は韓国よりもはるかにアメリカに多いのです。
統一教会のアメリカでの宣教活動は1959年がスタートです。当初、シアトルから布教を始めようとしたが10人も集まりませんでした。最初は失敗だったのです。
そこで彼らはサンフランシスコに移りました。転機となったのは、アメリカでのベトナム戦争反戦運動が盛んになったこと。その中心が同じ州のバークレーだったのです。最初の信者だった10人は、現地で逆に参戦デモを繰り広げた。「共産主義を倒すためにはこの戦争が重要だ」と。するとニュースでも取り上げられるようになりました。
統一教会にとってプラスだったのは、当時のアメリカの若者がベトナム戦争を取り巻く対立ムードに嫌気が差していたこと。結果、既存のキリスト教社会文化圏とは違う文化圏に触れたい渇望が生まれていた点にありました。
何より当時、共和党やニクソンはこの戦争に対して絶対的な支持が必要でした。大義名分のない戦争だったからです。つまりは、自分たちをサポートしてくれる存在が必要だった。そして統一教会としては、韓国で「異端」とされた自分たちを守ってくれる強力な支援が必要。両者の思惑が一致したわけです。
やがて共和党議員から現地の統一教会に「平和のための貴団体の努力に感謝します」という祝電も届くようになります。政権側から、それも反共を掲げる権力の中枢から支援を受けるので、統一教会の現地でのイメージは陰から陽に変わっていきました。
米韓でも「保守の政治家に近づいた」
統一教会、文鮮明の宣教方法というのはこれなんですね。ここのところは韓米日で共通するところです。
まずは信教の自由がある国であることが大前提。しかし、その地にあって自分たちは新興宗教であり、韓国のキリスト教や他の宗教系からも強い牽制もされ、異端とみなされているため活動は簡単ではない。だから政治の力を借りよう。それも保守右翼で、権力の中枢にいる層から。これにより一般社会でも絶対的な支援が生まれるだろう、という。日本では自民党に手を出し、韓国では軍事独裁政権、そしてアメリカでは保守系の共和党です。
文鮮明はこういったアメリカでのやり方をその後、自国である韓国に持ち込みました。勝共運動の集会などを通じて、保守政権側に近づいたのです。軍事独裁を行っていた当時の政権もやはり正当性に描ける部分があったので、絶対的な支持が必要でした。文鮮明もやはり異端と判定されたという立場だったため護ってくれる権力が必要だった。アメリカでの状況と同じく、両者が噛み合ったのです。
日本も状況は似ていたといえますね。朝鮮戦争によって反共産主義的なムードが高まっていたでしょう。アメリカ占領下の時期を経てその基盤が醸成されていたのですが、皮肉なことにその後、その反発もあってか共産主義が力をつけていた。
それは社会的な混乱だったはずです。そこで彼らとコードが合ったのは安倍の祖父の時代の自民党保守右翼派だったわけです。なぜなら、文鮮明に正面を切って日本での共産主義を巡る動きに加わる大義名分はない。日韓間の何らかの「交流」という大義名分もない。しかも自分たちは非主流勢力なわけです。だから安倍の祖父のような人物を見つけ、接触していったのです。教団にとって日本の政界が入り込みやすかったのは、自民党の派閥政治という体質にもあったと言えます。なにせ党内でも戦わないといけない。だから統一教会のようなマンパワーが必要とされた。
韓国はこれに比べて、政党自体が分裂・合併などを繰り返していますから「中に食い込んで活動する」ということが容易ではない面があります。
"アメリカが体験した統一教会"は「たった2つだけ」
しかし、そのいっぽうでアメリカでも「霊感商法によって金銭的な問題が起きた」という話は聞いたことがありません。アメリカでの1つ目の問題点は若い信者の「家出問題」でした。その時期に青年たちが家を離れて、統一教会に人生を賭ける。これがアメリカの一般社会が経験した統一教会です。
2つ目は、文鮮明の脱税疑惑。保守右翼の政治の助けを得て社会に進出した統一教会でしたが、74年のニクソンゲート事件によりそれまで「ニクソンを受け入れなければアメリカはつぶれる」と言ってきたことへの反感を買った。結局は容疑をかけられ、文鮮明は監獄に行った。そのふたつです。
なぜか。なぜ、日本でだけ一般社会に被害の出る事件を起こしたのか次回はそこを話しましょう。
世界レベルで見ても、日本での特に1980年代の霊感商法による被害が一番大きなものなのです。
霊感商法とは何なのか。結局は宗教詐欺であり、宗教犯罪なのです。英語では体裁よく「スピリチュアル・セールス」とも言いますが、被害者がいて、そのうちの多くは日本人です。こと統一教会に関して言えば、合同結婚式によって韓国に来た女性の絶対的多数が日本の女性です。
また韓国でも信者に対する献金要求はあるでしょう。しかしその献金が一番強制的に強いられるのが、やはり日本なのです。
続く。