VIPや食通をもてなしてきた「俺のフレンチ」伝説シェフのレストランがすごい5つの理由
たくさんのフランス料理店がオープン
昨年は新型コロナウイルスの感染拡大によって、業種別で最多を記録するなど、飲食店の倒産が相次ぎました。しかし、逆境の中でオープンし、話題となったり、繁盛したりしているレストランも少なくありません。
特に美食のフランス料理店は数多く開業しましたが、中でも注目したいレストランがあります。それは、2021年11月12日にオープンした「ノセ・サヴォアフェール(Nose Savoir-Faire)」。
能勢和秀氏のレストラン
「サヴォアフェール」はフランス語で「匠の技」の意につながる言葉。オーナーシェフの能勢和秀氏は「ル・クレール・ド赤坂」で宮廷料理人の志度藤雄氏からフランス古典料理の薫陶を受け、ミシュランガイドで一つ星にも輝いた「シェ松尾・松濤レストラン」の料理長として腕をふるいました。その後は俺の株式会社に入社し、取締役総料理長として「俺のフレンチ」を立ち上げ、一大ブームを築き上げたのは記憶に新しいです。
ディレクターを務めるのは、夫人の能勢美佐子氏。食環境コンサルタントであり、名誉フードスペシャリストを有する食のプロフェッショナルです。九州沖縄サミット首脳晩餐会や日韓同時開催FIFAワールドカップにおけるレセプションに携わったり、コラムを執筆したり、大学で教鞭をとったりしてきました。これまでの豊富な食の経験を生かし、店舗のコーディネートやサービスを担います。
おまかせコースの妙味を体験
「ノセ・サヴォアフェール」で体験できるのが、12品前後の「おまかせコース」(30,000円、税込・サ別)。これよりも2品少ない「ショートコース」(25,000円、税込・サ別)も提供されています。
取材時の「おまかせコース」は次の通り。
・JIYO
・大黒神島の先端
・ブルターニュの青い宝石
・TMD 1. 黒い宝石・白い宝石
・TMD 2. 古代ローマの晩餐会
・萩の甘鯛とクレオパトラ
・ビュルゴー家
・TMD 3. 萩の見蘭牛と幻のコウタケ
・青い宝石ふたたび
・アラスカ
・2002「あき」と「さち」
・ゲイシャ
能勢美佐子氏が創案したメニュー名はどれも興趣が尽きません。では、それぞれがどういった料理なのか、紹介していきましょう。
JIYO
最初に温かいものをということで、滋養たっぷりのスープ。スッポンのダブルコンソメは、海の滋味に溢れています。日本人は味噌汁など、口にお椀を当てて飲むことに慣れているので、温もりのある木の器で飲めると気持ちがほっとします。
大黒神島の先端
球体の有田焼で登場するのは、広島県大黒神島の牡蠣「先端」の冷前菜。低温調理で仕上げられているので、カキのフレッシュな風味も残っています。香味のあるベルモットソースが合わせられ、トップには能登の岩海苔でつくられた真っ黒なフィヤンティーヌ、周りにはわずか1週間だけ収穫を許された最高級品種アルベッキーナ100%のオリーブオイルのパール。最初にフィヤンティーヌを食べてからクリーミーなカキをいただくと、味わいのグラデーションが楽しめます。
ブルターニュの青い宝石
フランス・ブルターニュの名産といえば、卓抜した食味のオマールブルー。炭で香ばしく焼いてタタキ風にしたオマールブルーと、2週間乳酸発酵させたホワイトアスパラガスの一皿です。セップ茸と焦がしバターのソースはシリコンの型に入れて半球状に。仕上げに、自家製バニラオイルを液体窒素で凍らせたパウダーがかけられます。オマールブルーの旨味が引き出された極みの料理であるといえるでしょう。
TMD 1. 黒い宝石・白い宝石
黒のキャビアと白の白子を用いた温前菜。上にはぎっしりとキャビアがのせられており、下には徳島県の赤玉の卵を用いた濃厚なフラン。フランの中には天然の国産フグの白子が入れられており、ますます濃厚な味わいに。
TMD 2. 古代ローマの晩餐会
輪切りした桐の皿を用いた魅惑的な料理。10年熟成の味醂粕でマリネしたフォアグラのテリーヌに、アナゴのリエットを重ね、10年熟成味醂のソースを配しました。周りにはさっぱりとしたピンクグレープフルーツのジュレ、甘酸っぱいフランボワーズのビネガーとハチミツでマリネした柿を添えています。クローブやシナモンなど8種類を用いた自家製スパイスが添えられているので、アクセントに加えてみるとよいでしょう。
萩の甘鯛とクレオパトラ
山口県萩の繊細な食味の釣りアマダイは、昆布と白ワインで蒸して味わいが深められ、柚子風味のサフランソースがかけられます。サフランはクレオパトラが愛用していたということです。アクセントになるのは、滋味溢れるシジミの泡。付け合せはコーンのスプラウト、イタリア野菜のカーボロネロ、マッシュルームの飾り切り。
ビュルゴー家
希少なマダムビュルゴーのシャラン鴨です。エトフェ(鬱血の食肉処理)されているので、味わいが濃厚。カモは、ハチミツが塗られ、コリアンダーとタイムで風味付けられてから焼かれているので、奥行きのある食味に。カシスと黒ニンニクのソースによって、カモの力強さが引き出されています。仕上げにクルミをのせ、貴腐ワインでコンポートした姫リンゴとブルーベリーを添えました。
TMD 3. 萩の見蘭牛と幻のコウタケ
見蘭牛のロースは野性味に溢れており、瞬間燻製によって、和牛香が豊かになっています。マデラワインと黒トリュフの香るペリグーソースを合わせ、ガルニチュールはオーガニックの根菜と食味に優れたコウタケ。テーブルウェアを縦置きにした、珍しいプレゼンテーションも目を引きます。
ちなみに、TMDと命名された料理が1から3まで提供されましたが、実は「Three Major Delicacies」=「三大珍味」の頭文字です。どれも他ではなかなか体験できない料理であるといってよいでしょう。
青い宝石ふたたび
フランス・ブルターニュの至宝、オマールブルーが再び登場。焼いたオマールブルーの頭を白ワインで蒸し煮し、ダックプレスで絞ったジュースで、リゾットに仕上げました。ウニをたっぷりと載せ、仕上げに黒トリュフをスライスし、非常に贅沢です。
アラスカ
ジェノワーズ生地に黒トリュフとビーツのアイスクリームを重ねたベイクドアラスカ。黒トリュフがよく香り、ビーツの自然な甘味も生きています。ビーツは根菜なので木の根に生える黒トリュフとの相性も抜群。目の前でフランベされてダイナミックです。
2002「あき」と「さち」
最後は紅ほっぺの飴がけ。大粒で甘味と酸味のバランスがとれており、パリッとした食感とジューシーさのコントラストも出色です。
豪華な食材
ここで改めて「ノセ・サヴォアフェール」の素晴らしいところを挙げていきましょう。
最初に触れたいのは食材が豪華であること。西洋種の影響を受けていない日本の在来牛、幻の牛とされている山口県の見島牛(アップグレード別料金)が年に数回味わえます。鹿児島県の口之島牛も日本の在来牛ですが、天然記念物に指定されているのは見島牛だけです。
見島牛は年に10数頭しか出荷されないので入荷しない時もありますが、そういった時には同じく山口県の希少和牛であり、見島牛の流れを汲む見蘭牛が提供されます。
この他にもオマールブルー、キャビア、トリュフ、ズワイガニ、コウタケなど高級食材が目白押し。他のレストランではなかなか味わえない食材に出合えることでしょう。
幅広いフランス料理
能勢氏は日本のフランス料理を牽引してきた料理人。その能勢氏だからこそ、フランス料理の変遷に造詣が深く、様々なスタイルのフランス料理を熟知しています。
しっかりとしたソースやパイ包みなどの伝統的なフランス料理から、瞬間燻製や液体窒素、低温調理などを用いた分子調理、さらには地産地消やサステナビリティを意識した料理など、凝縮されたフランス料理の歴史を堪能できるのです。
カウンター席から、外国のオークションで購入した100年以上前のフランス製ダックプレスと最新のコンベクションオーブンが同時に眺められるレストランなど、他にはなかなかありません。
カウンターガストロノミー
店内にはキッチンが隅々まで見渡せる9席のカウンター席のみ。
カウンターのテーブル幅は60cmでキッチン幅は60cm。食べるには十分な広さで快適、シェフとの距離が近くて臨場感もたっぷりです。
オマールブルーを捌く様子から、ソースづくりや肉の火入れ、瞬間燻製や液体窒素による冷凍など、魔法のようなパフォーマンスを余すところなく鑑賞できます。
古酒が楽しめる
料理だけではなくワインにも注目。フランスワインを中心に取り揃えられており、ハウスシャンパーニュの「ビルカール・サルモン ブリュット・レゼルヴ」に加えて、白ワインと赤ワインも充実しています。ブルゴーニュ地方の古酒にこだわりがあり、他ではなかなか飲むことができないシャルドネやピノ・ノワールに出合えることでしょう。
フランス以外でもおいしい手頃なワインがラインナップされています。ワインペアリング(15,000円、税込・サ別)で料理とワインのマリアージュを楽しんでください。
器も個性的
料理に合わせたテーブルウェアも個性的です。有田焼から輪切りした桐の皿、陶器作家による焼締め、富山県高岡市の鋳物メーカー能作など、料理に最適な器が厳選されています。
日本全国の陶器から磁器、木の器がお目見えするので、気になるものがあれば、能勢氏に訊いてみるとよいでしょう。
能勢氏が独立した背景
「ノセ・サヴォアフェール」は、どのような経緯でオープンしたのでしょうか。
能勢氏は次のように振り返ります。
「『シェ松尾 松濤レストラン』はVIPや食通の方が訪れたり、特別な記念日に利用されたりするグランメゾンでした。その後は、もっと多くの方に本物のフランス料理を届けたいと考えて『俺の株式会社フレンチ』で腕をふるいました。これまであまりフランス料理に接点がなかった方にも、本格的なフランス料理を楽しんでいただけたのはよかったです。ただ、これで料理人生を終えてよいのかと考え、私が自らお客様の前で料理をつくりたいと思うようになりました」
60歳を過ぎてからの独立ということで、他のシェフからは驚かれたといいます。しかし、能勢氏の信念は揺らぎません。
「古典料理、ヌーベルキュイジーヌ、イノベーティブなど、フランス料理の変遷を間近でみてきました。この経験を生かして、今こそ自分が本当につくりたいものをつくり、やりたいことをやりたいと決心しました」
そこからテナントを探すなど具体的に動き始めます。
「2021年6月に今回の物件に巡り合いました。自分で全てできるカウンターレストランを考えていたので、コの字型に9席とれるサイズ感も最適だと思いました」
将来に関して尋ねると、真摯な語り口で次のように答えます。
「1人でも多くのお客様に1回でも多く来ていただき、愛されるお店になったら嬉しいですね。余裕ができたら、料理教室を開いて、フランス料理を伝えていきたいと思います」
また、ディレクターの能勢美佐子氏は今後、セミナーやコラボレーションを不定期で開催していく予定です。第1回目の「美味しいコーヒーの楽しみ方とレストランの楽しみ方」は5月22日に開催されるので、気になる方は参加してみるとよいでしょう。
できる限り続けていきたい
「シェ松尾・松濤レストラン」の料理長を務めてミシュランガイドの星を獲得し、「俺のフレンチ」を一大ブームに導いた能勢氏。この能勢氏がカウンターガストロノミーを堪能できるレストランを立ち上げたことは、昨年末の大きな話題でした。
まん延防止等重点措置も解除となり、通常営業に戻りました。空気清浄機よりも効果的な空気除菌機を現在も24時間稼働させたりするなど、ゲストが安心して楽しめるように腐心しています。
「いくつになっても、できる限り続けていきたい」と力を込める能勢氏がオープンした「ノセ・サヴォアフェール」。能勢氏による匠の技とフランス料理の素晴らしさを是非とも体験してください。
※営業時間などは店のホームページやSNSで最新情報をご確認ください。