ドラッグストア業界の異端児サツドラに学ぶ、コロナ時代のSNSの使い方
新型コロナウイルスの感染拡大が続き、全国のドラッグストアでマスク販売待ちの行列が続くなど、マスク品薄の問題が続く中、素早い対応と丁寧なコミュニケーションで注目されているドラッグストアチェーンがあるのをご存じでしょうか。
それが北海道の大手ドラッグストアチェーン「サツドラ」です。
サツドラは、4月8日から、大手のドラッグストアチェーンの中ではいち早く、開店時にマスクや消毒液を中止すると発表。
ツイッター上でもおおいに話題になりましたし、その判断が英断であると多くのメディアにも取り上げられました。
参考:マスク・消毒液などを「開店時」に売りません…北海道のドラッグストアの“英断”に称賛の声
さらに4月22日には、AIを活用して3密を防止するシステムを札幌市内の店舗に導入すると日経新聞が記事化するなど、さまざまな活動で注目を集めています。
ドラッグストア業界の異端児と形容されるサツドラ
元々、サツドラは、ドラッグストアでありながら、いち早くAIの活用など新しい技術の導入に積極的に取り組み、業界ではドラッグストア業界の異端児と形容されることも多い印象が強い会社です。
丁度、サツドラ社長の富山さんのインタビュー記事が公開されていますので、詳細はこちらを読んで頂ければと思いますが。
参考:マスクの開店時販売を中止した大手ドラッグストア「サツドラ」英断の背景
興味深いのは、サツドラがこうした迅速な経営判断を下せる背景に、富山社長を中心として、サツドラが会社全体でSNSやデジタルツールを積極的に活用する態勢ができていることが見える点です。
災害時にこそ注目される企業のSNS活用
日本企業におけるSNS活用というと、一般的には企業は「公式アカウント」と呼ばれる企業ロゴや会社名のアカウントで、「中の人」と呼ばれる担当者が個人の顔は出さずにアカウント運用を行うことが一般的でした。
象徴的な存在と言えるのが、シャープさんと呼ばれるシャープのツイッターアカウントでしょう。
先日、シャープのサイトがマスク販売でアクセス集中でダウンしましたが、ツイッター上での対応が早速話題になっていました。
参考:シャープの公式ツイッターが評判! 客への気の利いた返しで企業イメージアップ
今回の新型コロナウイルス感染拡大のような非常時には、企業はどうしても公式のプレスリリースや宣伝広告などを自粛する形になりがちですので、ツイッターやFacebookなどのSNSの公式アカウントの存在がより注目されやすいと言えます。
2011年の東日本大震災の際にも、NHKの公式アカウントの投稿が非常に注目されましたし、首相官邸の災害・危機管理情報の公式アカウントを開設するなど、自治体や行政の公式ツイッターアカウントが多数生まれるきっかけになりました。
例えば、いまや470万を超えるフォロワーを持ち日本の企業公式アカウントを代表する存在であるスターバックスの公式アカウントも、震災時の連絡手段として震災の5日後に開設されています。
また、2018年の大雪の際には、東急ハンズの公式ツイッターアカウントが「東急ハンズに来ている場合ではありません。早めにご帰宅を」と投稿したことが注目されるというケースもありました。
参考:東急ハンズ、ツイッターで好感度が急上昇 大雪めぐる投稿の内容とは
ただ、こうした中の人のセンスやテクニックを軸としたSNS運用は、SNS担当者の能力に依存することが多く、普通の企業では真似しにくいという指摘がされることも少なくありません。
社長が個人でもSNSを活用し、会社全体でSNSと向き合うサツドラ
そういう意味で、今回のサツドラの事例で興味深いのが、サツドラのコミュニケーションがSNS担当者個人だけに依存しておらず、社長を中心に会社全体で、デジタルとリアルを融合したコミュニケーションを実施しているように見える点です。
サツドラの富山社長は、上場企業社長には珍しく、ツイッターやnoteも実名で活用されており、新型コロナウイルス感染初期には、お店の現状に対しての記事を投稿され注目されていました。
また、今回のマスクの開店時販売中止の際には、YouTubeを通じたコミュニケーションにも挑戦。
マスクの現状について、社長自らの言葉で語ったこちらの動画は、サツドラのYouTubeチャネル登録者数がいまだ800人に満たないにもかかわらず、5万回を超えて視聴されています。
上場企業社長のSNS活用というと、ソフトバンクの孫社長を筆頭にIT系企業では珍しくないように思う方もおられるかもしれません。
実はFacebookならまだしも、ツイッターを実名で使っている上場企業経営者はIT系企業でも少なく、筆者が3月に調べた段階では、ツイッターを活用している日本の上場企業の経営者を、50人も見つけられなかったほどでした。
そういう意味では、ドラッグストアチェーンの社長としてツイッターの使いこなすサツドラの富山社長は、日本では非常に希有な存在と言えるでしょう。
参考:今後、経営者noteが増えることを祈って、上場企業の社長や役員の方々のツイッターとnoteのリストをまとめてみる。
社長がリードし、会社全体でSNSと向き合うサツドラ
ただ、実は富山社長は、決して長期間ツイッターやYouTubeを使われていたわけではありません。
ツイッターを実名で運用するようになったのも昨年5月の令和への元号変更がきっかけで、まだ1年。
会社のYouTubeに顔出しされたのは今回が初めてだそうですし、前述のnoteの記事にしても、公開されている記事は3記事だけですから、必ずしも富山社長がソフトバンクの孫社長のように、SNS活用の大ベテランというわけではありません。
あくまで、新型コロナウイルスの感染が拡がるに従い、通常の店頭のポスター経由や店内放送だけのコミュニケーションでは、顧客に会社としての真意が伝わりにくいと考え、初のYouTubeに挑戦されるという判断をされたのだと思われます。
実際に、前述のインタビューでも、「Twitterにあげるタイミングを1日おいて、YouTubeの公式チャンネルでの反応を見てからにした」など慎重に様子を見ながら挑戦を重ねていることがうかがえます。
最も重要なのが、このネットで顧客の声や反応を経営者自らが見ている点でしょう。
今回の開店時のマスク販売中止も、ツイッターでネット上の声や反応を見ていたから判断できたのだそうです。
コロナ禍の今こそ日本企業はネット活用に本気で挑戦すべき
歴史的に日本はネットのリスクばかりが注目される傾向が強く、今でも日本企業の経営者の多くは、ネットやSNSと距離を取っている方が多いようです。
その結果、ネットに理解のある経営者が少なく、会社全体のデジタル化が遅れており、今回の出勤自粛要請を受けても、いまだに社員のデジタルツールやSNS利用禁止を継続しているケースも少なくないように聞いています。
ただ、店頭の接客や打ち合わせなど、リアルのコミュニケーションが常にウイルス感染のリスクを抱えているのに対し、SNSをはじめとしたデジタルの世界のコミュニケーションは、コロナフリーです。
デジタル化が進んでいる企業の社員は、出勤自粛の渦中でも、企業内のコミュニケーションはサツドラのようにチャットで継続できますし、顧客とのコミュニケーションも、ツイッターやYouTubeを組み合わせて丁寧に実施することができるわけです。
メディアの報道が新型コロナウイルス関連のニュース一色になってしまい、店頭での密接なコミュニケーションが難しくなり、イベントや展示会などの開催も難しくなってしまった現在において。
自社がIT系ではないからとか、パソコンやスマホが苦手だからと言い訳している場合ではないのは明らかです。
SNSやネットを若手担当者だけに任せてしまうのも、経営者として間違っていると言えるでしょう。
熟練の公式アカウント担当者一人に頼るのではなく、サツドラのように企業としてのコミュニケーションを、社長も含め、SNSも、店頭のポスターも含めて組み合わせて行う形は、普通の企業でも真似がしやすいやり方と言えると思います。
是非、アフターコロナの時代を見据えて、日本企業の方々には、サツドラのように積極的にSNSを活用することに、今から挑戦していただきたいと思います。