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大物FAと契約した球団が「失ったもの」とその大物に去られた球団が「得たもの」は…。QOの代償と補償

宇根夏樹ベースボール・ライター
ノア・シンダーガード Sep 28, 2021(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 今オフにFAとなった選手のうち、14人はクオリファイング・オファー(QO)を申し出られた。これは、それまで在籍していた球団が提示できる1年契約だ。シーズン途中に移籍した選手や、過去に申し出られたことがある選手は、対象にならない。今オフの場合、その金額は1840万ドルだった。

 14人中9人は、すでにFAではなくなっている。ブランドン・ベルトは、サンフランシスコ・ジャイアンツからのQOを受け入れた。それについては、「クオリファイング・オファーを受け入れた選手は、次のオフに大型契約を得たのか。今オフのQO受諾は1人」で書いた。

 あとの13人はQOを却下したが、ジャスティン・バーランダー(ヒューストン・アストロズ)、クリス・テイラー(ロサンゼルス・ドジャース)、ライセル・イグレシアス(ロサンゼルス・エンジェルス)の3人は、在籍していた球団と再契約を交わした。バーランダーとイグレシアスの契約は、それぞれ、「バーランダーの再契約は確定したものの、2年目の年俸2500万ドルは「なし」も!?」「イグレシアスの4年5800万ドルは高い!? ナ・リーグのセーブ王は2年1400万ドルで新天地へ」で書いたとおりだ。

筆者作成
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 新たな球団と契約を交わした選手も、5人いる。コリー・シーガーマーカス・シミエンは、テキサス・レンジャーズへ移った。ロビー・レイはシアトル・マリナーズ、ノア・シンダーガードはエンジェルス、エデュアルド・ロドリゲスはデトロイト・タイガースに入団した。

 QOを却下した2人と契約したレンジャーズは、2022年のドラフトで持っていた、上から2番目と3番目の指名権(2巡目と3巡目)を失った。それとともに、海外のアマチュア選手に支払う契約金の総額上限、インターナショナル・ボーナス・プールから100万ドルを減らされた。シンダーガードを手に入れたエンジェルスは、上から2番目の指名権喪失と50万ドルの削減だ。マリナーズとタイガースは、上から3番目の指名権を失った。

 一方、ドジャースは、シーガーの退団により、4巡目と5巡目の間に指名権を得た。トロント・ブルージェイズ、ニューヨーク・メッツ、ボストン・レッドソックスは、3巡目の前の指名権だ。シミエンとレイの2人が退団したブルージェイズは、2つの指名権を手にした。

 再契約に際して、こうした代償と補償は発生しない。また、失うものが同じではなく、得るものも異なるのは、選手の契約と球団の財政状態が理由だ。ざっくり説明すると、選手の新たな契約が総額5000万ドル以上か5000万ドル未満か、球団が分配金を得ているか得ていないか(貧乏かそうではないか)、2021年の年俸総額が「贅沢税」を課される上限を超えたか超えなかったかによる。「金で勝利は買えない!?「贅沢税」を課された延べ44球団のポストシーズン進出は…。今年の2球団は明と暗」で書いたとおり、2021年の超過は、ドジャースとサンディエゴ・パドレスの2球団だ。

 例えば、トレバー・ストーリーが、コロラド・ロッキーズ以外の球団と総額5000万ドル以上の契約を交わした場合、ロッキーズは1巡目の直後に指名権を与えられる。ニック・カステヤノスにQOを申し出て却下された、シンシナティ・レッズも同様だ。

 なお、QOを申し出られなかった選手の契約と延長契約を含めた、今オフの大型契約については、こちらで書いた。

「今オフの「大型契約トップ20」。暫定1位の10年3億2500万ドルはロックアウト後に追い抜かれる!?」

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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