オバマ大統領の広島訪問のキーワードは「ともに追悼」である
フーテン老人世直し録(221)
皐月某日
オバマ大統領の広島訪問が正式に発表された。71年前に人類史上初の原爆投下を行った米国の現職大統領が被爆地を訪問することは歴史的な出来事である。そこでオバマ大統領がどのような演説を行うかに世界は注目することになる。
オバマ大統領は就任直後の2009年4月にチェコのプラハで「核なき世界」を提唱し、「アメリカは核兵器を使った唯一の核保有国として行動する道義的責任がある」と現職大統領として初めて踏み込んだ演説を行った。
その直後からオバマ大統領は最初の原爆投下地である広島訪問を模索したが、当時の日本外務省はルース駐日大使に「時期尚早」と伝えていたことが、ウィキリークスの内部文書公開で明らかになった。日本国内の反核団体を勢いづかせることになると外務省は恐れたのである。
しかしルース駐日大使は翌10年から米政府代表として毎年平和記念式典に出席し、後任のケネディ大使も毎年式典に参列してきた。そして先月にはG7外相会合で広島を訪れたケリー国務長官が「原爆資料館」を訪れ、「すべての人が広島を訪れるべき」と発言してオバマ訪問の道筋をつけた。
一方、「核なき世界」の実現は進展するどころか全く前に進んでいない。ウクライナ問題で最大の核保有国であるロシアとの核軍縮交渉は宙に浮いたままとなり、次なる核保有国の中国とも南シナ海問題で米国は対立する。さらに北朝鮮は核保有国になることに国家の活路を見出そうとしている。
そうした世界情勢の中で「核なき世界」の実現が困難であることは当然オバマもわかっている。それでもなお広島訪問を模索し続けたのは、犠牲者の追悼を行うことが「核なき世界」の追求につながるという姿勢を示し、それをプラハ演説の締めくくりとなるレガシー(遺産)にしようとしたからではないか。
大事なことは謝罪ではなく追悼である。オバマが考えているのは、広島で日米の首脳が犠牲者を追悼し、それを世界に発信することだとフーテンは思う。であれば安倍総理にはハワイの真珠湾を訪れて犠牲者を追悼する姿勢が求められる。政府は11月に安倍総理が真珠湾を訪れる案を検討し始めたようだが、オバマの広島訪問のキーワードは「ともに追悼する」事である。
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