高校サッカーの名将からJクラブへ!黒田剛新監督に訊く。新生FC町田ゼルビアの「挑む!」前編
Jリーグ誕生から30周年、FC町田ゼルビアの新しい挑戦が始まる
28年間の監督在任の期間に3回の高校選手権優勝、それを含めた7度の全国大会の日本一タイトルの獲得。育て上げた選手は国内チーム、Jリーグ、日本代表、そして各国のプロリーグへと世界のフットボールの最前線で闘っている。
その存在は「名将」と呼ぶにふさわしいが、本人はまったく世の中の毀誉褒貶には関心がない。常に目の前の選手やチームの本質に迫り、ぶつかり、育てていくー青森山田高校・前監督の黒田剛氏。その黒田氏が今年新しい挑戦の場に選んだのは、Jリーグ・FC町田ゼルビアだ。
高体サッカーの名将がJクラブの監督へ挑戦した例は、他では布啓一郎氏(現 VONDS市原監督)だろうか。市立船橋高校からJFA、群馬、松本、そして今治で監督を務めている。それぐらい前例が少ないが、布氏は協会での仕事やコーチを経ており、今回のように高体連の指導者がダイレクトにJクラブの監督就任というのは初めてではないだろうか。結果を残せたら、高体連の指導者の新しいキャリアの選択肢が増えることにもなる。
筆者はサッカー漫画や雪中練習の取材をきっかけに監督と懇意となり、定期的に取材を続けてきた経緯から、今回FC町田ゼルビアの合宿地を訪れた。残念ながらメディアは自分一人という状況だった。以下が合宿のトレーニングマッチ(練習試合)の結果である。
1月19日 コンサドーレ札幌 2-1 (得点者:黒川、荒木)
1月21日 京都サンガF.C. 3-1 (得点者:内田 練習生、平河)
1月23日 ヴィッセル神戸 非公開
1月27日 鹿島アントラーズ 3-0(得点者:佐藤、沼田、練習生)
2月1日 サンフィレッチェ広島 2-1(得点者:ミッチェルデューク、沼田)
2月2日 九州産業大学 6-1(得点者:佐藤、練習生、佐藤、佐藤、練習生、OG)
練習試合の結果とはいえ、J1クラブの、しかも優勝経験チームに勝利している。何より試合の中身である。昨シーズン15位に終わった原因の一つである50点あった失点の部分に、かなりの修正がなされていた。
今回、監督就任の経緯はすでに多くのメディアで語られているので、就任してから開幕戦に至る現在の取り組みや手応えなど、リアルな現状を取材した。
また、取材については藤田晋社長の就任など『新生FC町田ゼルビアの「挑む!」』として、前中後編の3部作として描いていく。本企画に全面的な協力をいただいたクラブや広報部に感謝の気持ちを表したい。
(*記事中の画像で表記がないものはFC町田ゼルビア/FCMZの提供)
高校サッカーの指導者から、Jクラブの監督に「挑む」
-Jクラブの監督に就任された経緯などはすでに記事になっています。ここでは就任されて約1ヶ月以上が経過、何をどう変えていこうとしているのか、また現在の手応えなど聞かせてください。
黒田 プロチームといっても組織じゃないですか。組織がグラついていたり一本通ったものがなければ、その組織は脆いと思ってるんです。
前任者であるポポビッチさんがどのような取組みをされていたかは分かりません。サッカーに特化した組織づくりというのは実は非常に脆い。全体でチームを支え、規律を守り、みんなで一つの目標を成し遂げるには、大きなパワーが軸にならないと組織はグラつきやすいんです。
まず、その部分の見直しと土台作りに着手しました。多少時間はかかるかもしれないですが、少しずつですが方向性や意識の仕方、動き方というのが自分たち指導者の中でも整理できてきました。
例えばですが練習試合の結果を受けて、勝つために必要な判断や行動、実践値というものが明確になってきています。その確認と落とし込みを現在進めています。
ー練習試合の結果は上記の通りです。J1チーム、優勝経験チームなどにも勝利しています。
黒田 こうやって結果を出すことで、選手の間で少しずつ確信に変わり、実感として収まっていくという感覚が凄く重要なんです。だからまず、今回(トレーニングマッチは)J1としか組んでいませんでしたが、それは自分たちの脆さや弱点を確認するためでもあるんです。
昨季のゼルビアは50失点しています。その失点の原因をすべて調べました。この50失点がなぜ起きたのか? 映像から各シーンをチョイスすると、しなくてもいい失点が半分以上もあったんです。
そこで守備の習慣づけをしています。やっていいこと、悪いこと、どう守るかというコンセプトの徹底です。以前はチームの共通理解というものが相当散漫になっていたと感じました。
あと、個人の能力や感覚でやっているにすぎなかったものは、シーズンが始まってしまうと戦力がある程度上回っていれば誤魔化しが効くような場面もありますが、ベースがないと連敗した時に取り戻せなくるんです。
プロでも生き続ける「サッカー3原則」
-サッカーの原則の必要性ですね。
黒田 おっしゃる通りです。シーズンを通して連敗もあるなか、原理原則などチームで共通しているところに戻れたら軌道修正し、またやれるじゃないですか。そこのところを高い水準に持っていれば、少し乱れたところを軌道修正すれば、また返り咲けます。
-以前、サッカー漫画の取材で教わった青森山田高校の三原則が軸になるのでしょうか。「球際の強さ、切り替えの速さ、ハードワーク(運動量)」の3つです。
黒田 そうです。ただ、プロ選手なので感覚と体に染み込んだサッカーセンスで彼らは動いているので、声に出していちいち言わなくても何度か整理すると、すぐ理解してくれます。そのあたりはまったく違います。
合宿のミーティング映像でも出したのですが、我々が鹿島アントラーズから取った2つの得点シーン、逆にいえば鹿島さんが“我々が今やってはいけない守備”から失点していました。鹿島さんはそこが整理されていなかった事になります。
-具体的には。
黒田 シュートブロックのシーンでボールがマイナス方向に進んだ時、ラインをプッシュアップしてペナルティエリアの外まで出て、シュートブロックのところは整体して体を当てなければいけない。ところがまずラインが上がっていない、ボールサイドにお尻を向けている。だから*ディフレクションが起きてコボレ球を拾われてしまう。
細かい話といえば細かいのですが、そういったプレーが失点に繋がる。原因を整理してチームで共有することで失点は防げる場合が多いんです。
注)ディフレクション(deflection)。ボールの方向が選手に当たって変わること。 ディフレクションは英語では「それること」「ゆがみ」。シュートやクロスなどがディフェンダーや味方選手にあたり方向が変わる時など使用される。
昨シーズンの町田のサッカーを徹底研究
ー現代サッカーの要であるサイド攻撃やクロスへの対策は。
黒田 昨季の映像を見たのですが、クロスからの失点が非常に多かった。クロスが上がると思ったら自分のゾーンだけを守るようにして、相手選手を見ることを全く怠っていたんです。責任感のない守備になっていました。
2、3歩でもバックステップを踏んで、みんなで補えればスペースも埋まるし人に対してもいけます。相手より先にボールを触るということを習慣化させれば、クロスも防げる。さらに大事なのはクロスを上げさせないこと。山田の頃は二重三重とゴール前にボールを押し込ませないように取り組んでいました。
ただ、キム・ミョンヒなどプロを経験しているコーチもいます。僕自身も今までやってきたことをプロ選手にアレンジしないと、高体連では通用してもプロで通用しない場合が出てきます。
ー実際に合宿や練習試合を指揮して、高校サッカーとプロではどの部分の違いが一番大きいと感じますか。
黒田 スピードや体格も違いますし、ボールスピードとボールの精度も違います。クロスの精度もシュートの精度もプロのほうが技術は上です。高校生は打ってもふかす場合があるし、筋力が足りないので抑えきれなかったりする。でも、プロは枠に飛んでいくので、そういった今ままでの概念など私自身の脳を変えていかなければいけないと考えてます。
ー鹿島との練習試合の後に「(失点)ゼロでいけたのがすごく収穫で、達成感を得られた試合だ」とコメントされていました。
黒田 数字となって現れた時、この方向の努力で良かったと選手は確信するわけです。次はそこから攻撃のオプションをプラスしていきます。
例えばですがGKが蹴る、またはDFがフィードする。1秒前に4mダウンして、その後2mカバーするということを少しずつ増やしていく。背後を取られた瞬間がいくつかあるので、その時のプレーの定義づけを今後はしっかりしていく。抽出された課題を少しずつ埋めていく、改善させることによってプレーの確率を少しでも上げていきます。
サッカーは不確定要素の多いスポーツです。トレーニングは確定要素に少しずつ近づける作業でしかない。確定要素を全員に意識させながら実践させていきます。
二人のコーチ、キム・ミョンヒと山中真
ーミョンヒさんと山中真コーチとの役割分担を教えていただけますでしょうか。
黒田 トレーニングのオーガナイズについては全員でミーティングをしながら、トレーニングは山中(真コーチ)とかキム・ミョンヒ(ヘッドコーチ)が中心となり、私は全体を見るような形で進めています。同じ作業をしないよう、みんなで分散して、それぞれが責任を持ってやる。そのリレーションシップはすごくいい状態ですね。
-それにしても凄いメンバーです。以前は高円宮杯で戦った指導者同志です。
黒田 ミョンヒは基本的にはヘッドコーチです。山中コーチがコーチをしていて、アシスタントコーチに上田(大貴)と三田光がいる。「トレ1」のところを山中真がやっていて「トレ2」のところをミョンヒが担ってます。
ー「トレ1」「トレ2」とは何でしょうか。
黒田 サッカーのトレーニングを徐々に高度化しているんです。ウォーミングアップをフィジカルトレーナーの山崎(亨)さんにやってもらい、その後に「トレ1」→「トレ2」→ゲームと構築し、レベルを上げています。
「トレ2」のゲームの前の肝のところをミョンヒが中心となって、みんなが関わっていきます。全体でサーバーをやったりしながらコーチ陣がアシスタントとしてサポートをする。全員でやるべきこと、落とし込むべきことを共有している。それぞれが同じテーマで同じことを指導できるようにコントロールしているんです。
-全体のオーガナイズは黒田監督がされている。
黒田 そうです。彼らはずっとプロでやっているのでトレーニングのオーガナイズは結構知っています。すごくヒントをもらいながら「あれやろう」「これやろう」とみんなで話し合ってます。
-現段階での最大の課題は何でしょうか。
黒田 守備のところはかなり良くなっていると思います。鹿島との練習試合の後に相手選手に聞いたら「立ち位置、アプローチ、プレスの連動性、連続性というものも含めてすごくやりにくかった」と話してました。
ただ、コンサドーレ札幌やヴィッセル神戸との試合の時、直接FKを決められているんです。愕然としたのが、壁の作り方と壁の意識。壁というのはただ立てばいいわけでなく、相手のキッカーに対してどれぐらいプレッシャーを与え続けるかというのが、すごく有効です。それを今までは一切何もしていない。今までそういう習慣でやってきたんたのだと思わされました。
しかし、鹿島との試合では最後にFKを取られてしまったのですが、壁の枚数も増えたし、ジャンプしながらみんなが声を出してました。そうすると壁に当たってはね返るわけです。ちょっと青森山田チックになりましたね(笑)
攻撃面の課題とは
-では、攻撃面はいかがでしょうか。
黒田 まだ未知数な部分があります。(取材時では)ミッチェル・デュークとエリキを使っていません。エリキは適正ポジションがどこなのか。また、日本人選手でできているプレスをエリキが堅実にできるかどうか。または攻め残っているほうが相手にとって脅威なのか。いろいろな物差しで自分の中で見極めてみたいです。
-選手たちがピッチの中で判断、最適解を探してポジションを変えていく。そういった意識づけも段階的に考えられていますか。
黒田 選手たちの中で考えられる選手が結構います。バランスの取り方、ボランチで縦関係になって潰し役とバランスを取る仕事をする選手の役割分担。牽制の仕方とハメ方は少し練習しただけで頭脳的にやれるあたりはさすがだなと思わされました。映像でもしっかりと見せて「この部分はすごい良かった」と再確認させています。
J2優勝、J1昇格という目標
ー今季はJ2優勝・J1昇格という目的がありますが、チームモデルやビジョンはどのようなものを描いていますか。
黒田 一言でいうと「隙のないチーム」にしたいです。
J2であってもポゼッションをしてイニシアチブを取りたいチームもあればロングボールでどんどん裏返していきたいチームもある。または3バックでやるところもあれば、4バックでやるところ、いろいろなパターンが考えられる。どんな戦術、どんなシステムで来ようと対応できる。相手にとって「隙がないな」と思わせるようなサッカーにしていきたいです。
なのでフィジカル的、ハードーワーク的にも負けない、切り替えの早さでも負けない、インテンシティのところでも負けない。それでいて攻撃は脅威で失点もしない。これは一昨年の青森山田のベースだったのですが、それをより上手い選手が集まるプロのレベルで求めることで、さらに高い水準を示せると思っています。あくまでもそれは理想ですけど、ひたすら求めていきたいです。
-選手に「こういうタスクをやってくれ」と言った時の反応やプレーの成熟度はどのようなものでしょうか。
黒田 みんな大人なので高校生みたいなノリはしないので、反応は高校生よりも何倍も悪いです。でも、実践値は高い。
たくさんトレーニングをしてきているので飲み込みが早いです。次から次へといろいろなオーガナイズが出ても、どういうトレーニングか意図を察知して置き換える力がすごくいいです。反応は少しずつですが出てきていて「よっしゃー!」という反応もある。
最初は「どれくらいできるのかな?」「何をしゃべるのかな?」と思う者も中にはいたと思いますけが、練習試合でも少しずつ結果を出してきました。ミーティング内容でも腑に落ちるような内容であれば、彼らは同じ道を歩み始めます。今は「これでJ2優勝を目指していけるな」というある程度の自信までは至らないですが、確信のようなものが少し見えてきているんじゃないかなという印象です。
-過去の町田の試合は一通り見られたとおっしゃっていました。
黒田 見ました。すべての失点も見ました。正直、ちょっとびっくりするようなものが多かったです。
具体的にいうと高校生でもしないような失点が正直多いです。これは、上手いからこそできないんだと考えます。サッカーが上手い選手って抜くんです。例えば身長190cmの選手はボールが頭で引っ掛かることが多くダウンすることを怠ります。でも、これが現実的にダウンできると、もっと守備範囲が広くなります。それがレベルの違いなんです。
背後に回られてもすぐ人を見切ってしまって、ゾーンにボールが入った時はいいですけど、入ってこなかった時に失点してします。だから彼らにその失点パターンをいくつか映像で見せて、守備コンセプトの落とし込みをスタートさせました。
心強かった布氏、高体連からの応援
-少し現在のチーム以外のお話も聞かせて下さい。今回Jクラブの監督就任の決断をした時はどなたかに相談をされたのでしょうか。以前から取材させていただき、新しい分野に挑戦するのは黒田さんの真骨頂のように感じています。
黒田 布(啓一郎)さんには連絡しました。布さんはJリーグの群馬や今治で仕事をされていましたが「後悔はない」と言われていました。ただ、後悔はないですが、やっていてしっくりこなかったり腑に落ちないようなことはなかったのかと伺ったら「自分の思った戦力を得られなかった」とも言われていました。チーム全体の予算などもあり、取りたい選手を取れない時もあったかと思われます。それでも戦わなければいけないのはもちろんなのですが、個の能力の差というのは、ずっと懸念材料としてあり自分の中でそれが心残りだったと。
戦える戦力で戦いたかったのかもしれませんが、チーム力というのは財力も含めトータルで考えるものです。それがプロだと思っています。
-それはフットボールチームの監督の永遠の課題かと思います。話は変わりますが、昨年のカタールW杯でもモロッコの躍進などはどう見られていましたか。
黒田 W杯は全試合を見たわけではないですが、モロッコの躍進は脅威でしたね。予選リーグからモロッコのチーム完成度がすごく高かったので注目していました。
やはり一人ひとりのレベルが相当上がっていると感じました。育成年代で海外のクラブに加入して厳しい環境においている。あとは、サウジアラビアにアルゼンチンが負けたりとアジアやアフリカのチームも結果を出しました。
「PKは運ではありません」
-ベスト16、日本対クロアチア戦はいかがでしたか。
黒田 クロアチア戦のPKは残念でした。リスタートコーチが入っていたのでFKひとつひとつに何らかの工夫がほしいとも思いました。
-高校でもPKはかなり練習するものなのでしょうか。
黒田 かなり練習します。トーナメント戦やトーナメントに入ると尚更です。PKって技術ももちろんありますけど、心理戦です。
例えば選手権の2カ月くらい前からは朝練では必ず毎日PKの練習をやっていました。守る側もGKの入り方、距離、時間、目線…すべて指示をした上で練習させました。高校サッカーのトーナメントでは必ず一回はPKがあります。
-本当に残念でしたが日本がW杯においてPKで敗退するのは二度目となりました。
黒田 そもそもPKは運であるわけがないと思います。日本はベスト8を掲げてやっているのだったら南アフリカ大会のあの失敗(ベスト16・パラグアイ戦)を繰り返さないために、徹底してやらなければいけなかったと思います。
例えば帝京高校の古沼(貞雄)先生は90%くらいの勝率でPKに勝つ指導者でした。PKには様々な心理戦があるわけです。守備ではGKの構え方、キッカーの時間の作り方、相手のキッカーの入ってくる角度が30度か45度なのか、どのくらいからスピードに乗ったかで70%くらいは蹴るところは決まる…そういうことを知った上で大会の準備をしておく。
もちろん高校とプロ、あるいはW杯の舞台を一概に同じようには語れないでしょう。でも、同じサッカーでもあります。PKは運では決してありません。考え得るすべての準備や練習をしっかりとやっておくべきだと思います。
プロ選手の成長と可能性
-青森山田高校から日本代表入りした選手も多いですけど、プロの年代でもまだ伸びるとか、発見されていないポテンシャルがあると感じることはありますか。
黒田 プロでも年齢によると思います。30歳過ぎの選手もいれば20代前半の選手もいるので、身体能力や加齢によるものの差というのは見ていて出ているところはあります。
ただ、発見されていない才能はいっぱいあると見てます。大卒で1年、2年やっている選手などはやれることはたくさんあります。指導してるとみんな伸びていきます。技術が早く伸びるかというよりは意識することが大切なのです。意識して考えながらプレーできているところが随所に出てくる。
例えばですが指導してプレスが上手くハマっていくんです。ここいったプレーは単純ではないので、ズレを上手く利用しなければならない。わざとズレさせて、相手に出させてからどう追い込むのか。そういったところはすべて個人戦術とグループ戦術でやっていきます。そこはしっかりとできてくる。もちろん監督によってやり方が違うので「こういう時はどう追い込めばいいですか?」「今年はこう違いますよね。体の向きが去年はこうでしたけど、今年はこっちですか?」と質問してきたら僕が「こっちだ」と言い「なぜなら…」という理由を説明していくんです。最初はやりにくくても、ビデオを何度も見せているうちに出来るようになっていきます。
ーひとりひとりを見ていて、最適のタイミングでの声がけなどプロでもそういったやり方ができるのでしょうか。
黒田 試合になれば微調整くらいしかできないです。一番はミーティングの時にキチっと良かったこと、悪かったことを見せていくことです。彼らはしっかりと頭に刻みます。ただ、即座にピッチで実践しようとする姿が今はありますが、過去にはあったのかどうかは分かりません。
-全員に映像を見せて伝えている。
黒田 映像を見せながらです。例えば合宿での午後のトレーニングでも13時半から30分ミーティングをやってからグラウンドへ出ました。だから、見せてからトレーニングしていくという感じなので、過去の映像を何十個も抜いて編集したものを、わずか7週から8週間くらいで落とし込んで、みんなが共有して練習しています。選手は完全に理解してトレーニングしていましたね。
-町田でのプレーモデルはどのようなものを構築されていますか。
黒田 先ほど言ったような組織作りを根本的に見直していく必要があると考えていますし、クラブ全体がこの新しい組織づくりが素晴らしいと思えば、応援する人は増えてくるでしょうね。
やはり期待されないと、プレッシャーもなければつまらないです。選手たちは練習試合の結果など上手くいっていた今だからこそ、すごく期待もプレッシャーも感じていると思います。緊張感が逆に我々を成長させてくれます。
町田という市、ファン・サポーターに根付いたチームですから、どうしてもFC東京や老舗のヴェルディなどの根強い人気が周囲にあったりするとは思います。しかし、東京都第3のJリーグクラブとして、それらを上回って、J1に殴り込みしたいというのは町田市民のファン・サポーター全員の願い、想いだと強く感じてます。とにかくそれを実現させたいんです。
-町田市の雰囲気はいかがですか。
黒田 こちらへ来てびっくりしたのが、町田市の駅前は大きいですよね。あんなに大きいとは思いませんでした(笑)
-小田急線の乗降者数では新宿駅の次に町田駅が多いです。
黒田 なるほど。町田のサッカーはすごく歴史があるじゃないですか。FC町田は強かったですが、そこが母体となっているということはヴェルディも老舗ですけど、町田は町田としてのプライドがあると思います。ヴェルディに一つも二つも置いていかれている状況をナニクソという気持ちで変えていきたいです。
それはFC町田ゼルビアのジュニアユースやユースの選手たちに対しても「こっちのクラブのほうが夢がある」と思えるようにしたいですね。まだまだ全然取っ掛かりですけど、青森山田の監督をやっていましたし、ミョンヒだってサガン鳥栖のユースでも監督をしていましたし、山中真はレイソルのユースで監督をしていましたし、三田光もFC岐阜でユースやジュニアユースを指導していた。育成のトップトップでやっていたので、我々がユースやジュニアユースを見ることがあれば、そこに通う価値は出していきたいです。
-さて、今月19日はホームでのベガルタ仙台とのJリーグ開幕戦です。どんな考えやプランで臨みますか。教えていただける範囲で構いません。
黒田 初めてのJリーグでの試合なので不安もあるし期待もあるので、なんとも言えないのが正直なところです。外国人選手をフィットさせるのも時間がかかります。今後も自分の不安値というのは上がったり下がったりするでしょう。まずはケガなく全力でいけるよう準備をするしかない。勝負事なので勝った負けたはもちろんありますし、研究したりされたりするという状況もあります。
練習試合ではいろいろな人が見に来ていたというので、研究されていくと思いますが、その上でもう一つ二つ武器を増やしながら、システムを変えながらプレーできるようにしていきたい。どれくらいオプションを増やしていけるかも含めて、まずはどれだけ泥臭くてもベガルタ戦に勝利することに重きを置きたいですね。
高校サッカー指導者の新しいキャリアの選択肢
-高校サッカー指導者の新しいキャリアの挑戦としても注目されています。
黒田 自分の挑戦が様々な意味で高校サッカーの指導者たちの価値を上げる作業になるとも思うので、そういった意味でもチャレンジを続けていきます。だから高体連の関係者や指導者がみんな応援してくれています。布さんがチャレンジする時もみんなで布さんを応援しようとなりました。
今回も様々人たちから「黒田をみんなで応援する!」というメッセージをいただき感激しました。この町田というチーム、町田という街にも注目が集まるかと思います。それは高校サッカーを、Jリーグを、日本のサッカー全体を元気づけることにもなります。今後も面白いチャレンジができたらと考えています。
今、セカンドキャリアでいろいろな職がありますけど、僕はセカンドキャリアでJリーグの監督となりました。
-高校サッカーの指導者の新しい形です。新しいことに挑戦するのがお好きですよね、きっと。
黒田 そのほうが自分らしいですよね。
-開幕戦(4/19)を楽しみにしています。ファン・サポーターの皆さんへメッセージを。
黒田 ありがとうございます。皆さん、町田のスタジアムでお会いしましょう。皆さんの応援を待ってます!
インタビューを終えて
インタビューは語るほどに熱を帯び、あっという間に時間が経過した。
良い意味で何も変わっていない。が、今回のインタビューの印象である。指導の姿勢や哲学、サッカーの原則、そして情熱…青森山田時代の数度の取材で受けた印象と何も変わっていない。
監督しての哲学や指導方針がブレない、人柄として一本気なところなどが「黒田剛」というパーソナリティーの魅力なのだろう。それを慕って多くの選手が青森山田の扉を叩いて、一流の選手、人間として育っていった。
今回の新しい挑戦、どのような結果となるだろうか。今年Jリーグ30年という節目を迎えた日本サッカー、指導者の新たな挑戦にふさわしい場といえる。今後も注目していきたい。
◯黒田監督のプロフィールはこちら
◯開幕戦のベガルタ仙台のチケットについてチームHPなどご覧いただければと思います。続く2戦目のザスパクサツ群馬戦もホーム開催。
◯今後のチーム日程
→2月19日(日)vs ベガルタ仙台 戦 黒田ゼルビアの開幕戦の情報はこちら
→ベガルタ仙台戦のチケット購入はこちら
→2月26日(日)vs ザスパクサツ群馬 戦 チケットの購入はこちら
(了)