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ことごとく裏目に出た安倍官邸シナリオライターのなぜ

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(293)

弥生某日

森友問題で安倍官邸の打つ手はことごとく裏目に出て、安倍昭恵夫人が「瑞穂の國記念小学院」建設に深く関与していたことや、何かにつけ「神に祈る人」であることを世間に知らしめる結果になった。

まことに拙劣な政治技術で、これまで安倍官邸の筆頭秘書官として安倍政権を操縦してきた今井尚哉氏が書いたシナリオとは到底思えない。辣腕を誇る今井秘書官はどこに行ってしまったのか。

それとも今井秘書官がこのシナリオを書いていたのだとすれば、安倍政権の落日は思っていたより早まる。安倍政権を「一強」に育て上げたシナリオライターにシナリオを書く能力が失われたとしか思えないからである。

権力とは政治のシナリオを書く能力である。国内外に渦巻く様々な力のベクトルを読み解き、それを下地に自分が目標に到達するまでの進路を描く。そしてそれを可能にすべく、政治家、官僚、メディアを要所要所で利用しながら国民世論を形成する。

あるところには飴を配り、あるところには厳しく締め上げる「太陽と北風」を駆使しながら、最後は一気呵成に目標に到達する。その過程を誰にも気づかれずにやるのが最も巧みな政治で、対立を煽り力づくで成し遂げるのは最も愚かな政治だと言われている。

フーテンが政治取材の前線にいた時期は田中角栄氏が日本政治のシナリオライターだった。角栄氏はロッキード事件で有罪判決を受け刑事被告人であったが、中曽根総理は角栄氏のシナリオ通りに動かざるを得ず、米国もキッシンジャー元国務長官が何度も目白の田中邸を訪れるなど、日本政治は「闇将軍」角栄氏の思うままに展開していた。

そのシナリオを狂わせたのが金丸信、竹下登、小沢一郎氏らによる創政会結成で、それがきっかけで角栄氏は病に倒れ、角栄不在の政治状況となった。その時、角栄氏の秘書早坂茂三氏はフーテンに「田中に代わってシナリオを書けるのは中曽根しかいない」と言ったが、現実には中曽根シナリオと金丸シナリオが激しくぶつかりあい、フーテンは権力闘争のダイナミズムを知ることになった。

「政治のシナリオを書く」という権力行為は誰にでもできることではない。国内外の力のベクトルを読み解く能力、目標を目指す進路を描く能力、そしてそれを可能にするため政治家、官僚、メディアを動員する能力がなければならない。第二次安倍政権でシナリオを書くことになったのは安倍総理ではなく政務秘書官に就任した経産省出身の今井尚哉氏である。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:11月24日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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