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地球温暖化で花粉量は1.2倍に。世界中で花粉症はなくならない

田中淳夫森林ジャーナリスト
(写真:maruco/イメージマート)

 いよいよ花粉症の季節。日本ではスギ花粉症が広がっているせいか、花粉症を日本特有の病気と思っている人もいるようだ。

 たしかにスギは日本固有の種だが、実は花粉によるアレルギー症は世界的な問題となっている。しかも地球温暖化(現在は、「気候変動」と呼ぶのが一般化している)が進むにつれて、年々悪化の一途をたどっているという論文が出ていた。それをかい摘んで紹介しよう。

 まず海外ではどんな花粉症があるだろうか。

 アメリカの花粉症でもっとも有名なのは、やはりブタクサだ。日本にもあるが、そんなに注目されていない。しかしアメリカでは4人に1人がブタクサの花粉症だといわれている。(日本人のスギ花粉症は3人に1人。)

 樹木花粉ならアカシアオーク(ナラ)、ウォールナッツ、カエデ、クワなどが知られる。さらにカナダでは、ハンノキ、カバ、ニレなども加わる。草本ではブタクサ以外にタンポポの綿毛も含まれるという。

 イギリスでは、ブタクサのほかオーク、プラタナス。オーストラリアではアカシア、オーク、ニレ、デイジーなど。

 さらにアフリカでも花粉症はあり、そこではサイプレス(イトスギ)が有名だ。これはスギと言っても日本のスギとは別種だ。

 花粉症を引き起こす植物を並べ出すときりがないが、種数も増える傾向にある。花粉症に苦しんでいるのは日本人だけではないのだ。しかも各国とも国民の2~4割が花粉症だというから、少数者の例外とも言えないだろう。

 また花粉症を現代病として捉える人もいるが、昔から世界中であったようである。どうやら人類と花粉は相性が悪いらしい。いやサルにも花粉症はあるから、哺乳動物にとって花粉アレルギーは宿痾なのかもしれない。

花粉量1.2 倍、飛散期間は20日延びる

 さて、今年2月にアメリカの学術誌「PNAS」に発表されたウィリアム・アンデレッグ米ユタ大学の生物学准教授(論文筆頭著者)の論文によると、気候変動によって花粉飛散の時期は一段と長期化し、花粉の数や濃度も増えているという結果を指摘している。

 研究チームは、1990年から2018年にかけて北米60カ所の観測拠点で得られた花粉測定の結果を分析した結果、花粉シーズンが始まる時期は20日ほど早くなり、飛散日数も8日長くなったとした花粉の個数や濃度も、1年を通して20.9%増加していた。これを春の花粉シーズン(2~5月)に絞ると、増加率は21.5%になっている。

 その原因だが、花粉濃度は気温と相関していることは数々の実験で確かめられている。そこで長期花粉データと、地球システムモデルシミュレーションを使用し、花粉濃度の大陸パターンを観測したところ、近年の地球温暖化と強く結びついていた。

 つまり近年の人為的な気候変動が花粉の動向に大きく関わっていると証明したのだ。

 そこから導かれたのは、気候変動が過去30年の間に、花粉飛散期間や濃度を増やしたことが、呼吸器の健康に悪影響を及ぼしているという事実だった。

 そして今後も、気候に起因する花粉の傾向が呼吸器の健康への影響をさらに悪化させる可能性があることも示したのである。

 この研究は、北米のデータによるものだ。しかし、日本も無縁ではいられないだろう。

 これまで日本のスギ花粉症患者の増加は、戦後になってスギを大量に植えた林業政策や、人々の食生活の変化、さらにディーゼル排気粒子などの都市環境が大きく影響しているとしてきた。それらの知見を否定するものではないが、日本でも気候変動による温暖化が、多様な植物の花粉生成と飛散に影響を与えている可能性は高い。そして花粉症を引き起こしているのかもしれない。

 となれば、今後花粉の飛散を減らすのは難しいだろう。そしてスギやヒノキ以外の花粉症が頻発する可能性も考えられる。気候変動の影響は、自然災害に止まらず想像以上に広がっていくかもしれない。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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