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<ウクライナ>命が断ち切られる日々、占領地からの避難民がミサイルの犠牲に(ザポリージャ)写真13枚

玉本英子アジアプレス・映像ジャーナリスト
ミサイル攻撃の現場に手向けられたぬいぐるみ。子どもが犠牲になった。(撮影:玉本)

◆集合住宅にミサイル攻撃

ロシア軍のミサイル攻撃で破壊された集合住宅。23人が亡くなった現場は、攻撃から半年以上が経っても生々しい傷跡を残したままだった。昨年5月、ザポリージャでの取材報告。(玉本英子・アジアプレス)

ミサイル攻撃の現場で住民救出に出動する消防隊員たち(ザポリージャ) 写真11枚

9階建て集合住宅にミサイルが直撃。建物中央部が吹き飛び、フロアごと下まですっぽりと崩れ落ちた。子ども1人を含む23人が死亡。負傷者は90名。(写真:2022年10月・ザポリージャ・DSNS撮影)
9階建て集合住宅にミサイルが直撃。建物中央部が吹き飛び、フロアごと下まですっぽりと崩れ落ちた。子ども1人を含む23人が死亡。負傷者は90名。(写真:2022年10月・ザポリージャ・DSNS撮影)

エカテリーナ・イワノラさんは転居を余儀なくされた。亡くなった隣人の男性(38歳)は、ロシア軍が侵攻したベルジャンシクから家族で避難してきた。 (2023年5月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)
エカテリーナ・イワノラさんは転居を余儀なくされた。亡くなった隣人の男性(38歳)は、ロシア軍が侵攻したベルジャンシクから家族で避難してきた。 (2023年5月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)

◆占領地からの避難民が犠牲に

「あの部屋には、占領地から避難してきた一家が暮らしていました。それなのに、ここで命を奪われるなんて…」

住人のエカテリーナ・イワノラさん(62歳)は、壁が黒く焦げた部屋を指さした。この集合住宅には、ベルジャンシクなどロシア軍が侵攻した町や戦闘が激化した地域から、安全を求めて逃れてきた避難民が多く住んでいたという。彼女ととともに、建物の中に入った。1階の住居では避難家族の38歳の父親が犠牲となった。

ザポリージャ市内、ゼスタフォンスカ通りの集合住宅にロシア軍のミサイルが炸裂したのは、2022年10月9日の深夜3時。9階建ての建物の一角が、吹き飛ばされ、上のフロアから下まで崩落した。爆発と火災、瓦礫の下敷きになるなどして、子ども1名を含む23人が亡くなった。負傷者は90名にのぼる。両脇のコンクリート壁には、部屋ごとの壁紙や剥がれ落ちた各階の床の跡が残っていた。ひとつひとつに家族がいて、生活があった。それが一瞬にして断ち切られた。

吹き飛んだ壁 響く悲鳴 アパートにロシア軍ミサイル(写真10枚)

亡くなった隣人男性の室内は、天井と壁が崩れ落ちていた。この住宅には占領地域から安全を求めて身を寄せていた避難民家族の複数の世帯が暮らしていた。(2023年5月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)
亡くなった隣人男性の室内は、天井と壁が崩れ落ちていた。この住宅には占領地域から安全を求めて身を寄せていた避難民家族の複数の世帯が暮らしていた。(2023年5月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)

床にはガラスと瓦礫が散乱。幼い子どもの靴が転がっていた。 (2023年5月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)
床にはガラスと瓦礫が散乱。幼い子どもの靴が転がっていた。 (2023年5月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)

瓦礫をかきわけ犠牲者の捜索にあたるレスキュー隊。ゼレンスキー大統領はこの攻撃について「市民への卑劣な攻撃は、悪の所業」とロシアを非難。(写真:2022年10月・ザポリージャ・非常事態庁DSNS撮影)
瓦礫をかきわけ犠牲者の捜索にあたるレスキュー隊。ゼレンスキー大統領はこの攻撃について「市民への卑劣な攻撃は、悪の所業」とロシアを非難。(写真:2022年10月・ザポリージャ・非常事態庁DSNS撮影)


この日、ザポリージャには、ロシア軍のツポレフ機やスホイ機などからミサイルが発射され、市内各地に着弾。その最大の被害がこの9階建ての集合住宅だった。前日にクリミアとロシアを結ぶ大橋が爆破されており、この報復だったとも報じられている。

「この侵攻がウクライナ人の心に何を残すことになるのか、深刻な問題」と話すオレーナ・ジュク・ザポリージャ州議会議長。(2023年5月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)
「この侵攻がウクライナ人の心に何を残すことになるのか、深刻な問題」と話すオレーナ・ジュク・ザポリージャ州議会議長。(2023年5月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)

◆過酷な状況に直面する住民

ザポリージャ州議会のオレーナ・ジュク議長(38歳)は、同州が置かれた状況を説明する。「州全体では、8割におよぶ地域がいまもロシア軍の占領下にあります。そこからザポリージャ市内に逃れてきても、生活の基盤もなく苦しい状況です。そして市内のどこにいても、ミサイル攻撃にさらされる。一方、高齢の年金生活者や家畜や畑を抱える農家のなかには、占領地に留まる人もいます。そこではロシアの『住民登録』が強要される」

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写真はザポリージャ市役所。市内はロシア軍が展開する前線から30~40キロ。ミサイル攻撃にさらされる日々が続く。(2023年5月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)
写真はザポリージャ市役所。市内はロシア軍が展開する前線から30~40キロ。ミサイル攻撃にさらされる日々が続く。(2023年5月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)

ロシア軍の占領地域や戦闘地帯から逃れてきた住民の一部が、安全を求めてザポリージャに避難してきた。(2023年5月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)
ロシア軍の占領地域や戦闘地帯から逃れてきた住民の一部が、安全を求めてザポリージャに避難してきた。(2023年5月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)


現在、ロシア軍が管理するザポリージャ原発が、双方の戦闘によって損傷したり、意図的に破壊されることへの不安はないのか。ジュク議長は、こう話した。

「これは、隣国を侵略して力づくで屈服させようとするロシアによって引き起こされている事態です。攻撃や挑発で住民を危険にさらし、どんな影響がおよぶのか、まともに判断できない相手ですから、最悪の事態も起こりえます。原発損傷による放射能事故は想定し、準備は進めています」

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2022年9月、プーチン大統領はウクライナ南東4州の「併合」を承認。プーチンと4州の「代表」。左から2人めの満面の笑顔なのが、エフゲニー・バリツキー「ザポリージャ州行政代表」。(ロシア大統領府写真)
2022年9月、プーチン大統領はウクライナ南東4州の「併合」を承認。プーチンと4州の「代表」。左から2人めの満面の笑顔なのが、エフゲニー・バリツキー「ザポリージャ州行政代表」。(ロシア大統領府写真)

バリツキー氏は昨年5月時点でもウクライナ・ザポリ-ジャ州議員のままで、制度上は除名できず。議会ページには「反逆者」の烙印つきで掲載が続き、のちにページから削除。(ザポリージャ州議会HP画像)
バリツキー氏は昨年5月時点でもウクライナ・ザポリ-ジャ州議員のままで、制度上は除名できず。議会ページには「反逆者」の烙印つきで掲載が続き、のちにページから削除。(ザポリージャ州議会HP画像)

◆ロシアに寝返った議員を批判

2022年9月、ロシアは、ウクライナ南部・東部4州を一方的に「併合」した。ロシアが占領する地域で「ザポリージャ州行政代表(知事)」を名乗るのは、侵攻前からウクライナで親ロシア派の州議員だったエフゲニー・バリツキー代表だ。彼は「ウクライナ側が砲撃を強めているため、原発がある地域を含む住民を避難させている」と発言。これについてどう思うか、ジュク議長に聞くと、彼女は厳しい表情に変わった。そして、こう言った。

「彼は、ウクライナの市民殺戮をいとわないロシアに寝返った人間です。国と国民を裏切った反逆者です。そんな人物の発言に、真実も価値もありません」

ザポリージャは原発が近く、破壊による放射能流出の事態も懸念される。昨年6月のカホウカ・ダム破壊では、下流域の住民と家屋に甚大な被害が出た。(地図作成:アジアプレス)
ザポリージャは原発が近く、破壊による放射能流出の事態も懸念される。昨年6月のカホウカ・ダム破壊では、下流域の住民と家屋に甚大な被害が出た。(地図作成:アジアプレス)

◆侵攻が社会と心にもたらす深い傷

ジュク議長は、この侵攻が国と社会を引き裂き、人びとが悲しみで疲弊し、深い傷をもたらしていることを懸念する。

「私の娘はいま9歳ですが、砲撃やミサイルの違いを爆発音でわかるようになってしまいました。9歳の子なら、学校の友達との遊び、新しい服、かわいいペットのことに思いを巡らせるのが普通でしょう。侵攻は多くの人から家族や家を奪い、国外避難や離散を強いました。私は勝利を信じていますが、たとえ占領が終わったとしても、このロシア軍の侵攻が人びとの心に何を残すことになるのか、深刻な問題です」

子どもの心の傷、見えない被害(写真16枚)

「ウクライナが勝利すると信じています。いつかベルジャンシクからアゾフ海を望む美しい景色をあなたにお見せしたい」とジュク議長。(2023年5月・ザポリージャ・撮影:坂本卓)
「ウクライナが勝利すると信じています。いつかベルジャンシクからアゾフ海を望む美しい景色をあなたにお見せしたい」とジュク議長。(2023年5月・ザポリージャ・撮影:坂本卓)


ミサイル攻撃や砲撃で破壊された住宅の前で、いくつも並べられた、ぬいぐるみを見かけることがある。その現場で、子どもが犠牲になったとわかる。ぬいぐるみは、近所の住人や同級生の子どもたちが手向けたものだ。ロシア軍の侵攻から、まもなく2年。毎日のように、ウクライナ各地で、たくさんの涙が流れている。

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攻撃から半年以上が経った現場。ミサイルの炸裂で崩れ落ちた建物が残ったままだった。ぬいぐるみや花を手向けたり、パンを供えに来る近隣住民がいまも絶えない。(2023年5月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)
攻撃から半年以上が経った現場。ミサイルの炸裂で崩れ落ちた建物が残ったままだった。ぬいぐるみや花を手向けたり、パンを供えに来る近隣住民がいまも絶えない。(2023年5月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)



アジアプレス・映像ジャーナリスト

東京生まれ。デザイン事務所勤務をへて94年よりアジアプレス所属。中東地域を中心に取材。アフガニスタンではタリバン政権下で公開銃殺刑を受けた女性を追い、04年ドキュメンタリー映画「ザルミーナ・公開処刑されたアフガニスタン女性」監督。イラク・シリア取材では、NEWS23(TBS)、報道ステーション(テレビ朝日)、報道特集(TBS)、テレメンタリー(朝日放送)などで報告。「戦火に苦しむ女性や子どもの視点に立った一貫した姿勢」が評価され、第54回ギャラクシー賞報道活動部門優秀賞。「ヤズディ教徒をはじめとするイラク・シリア報告」で第26回坂田記念ジャーナリズム賞特別賞。各地で平和を伝える講演会を続ける。

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