<ウクライナ>ミサイル攻撃の現場で住民救出に出動する消防隊員たち(ザポリージャ) 写真11枚
◆「瓦礫かきわけ遺体を運び出すときがつらい」
連日、ウクライナに撃ち込まれるロシア軍のミサイルや砲弾。軍事施設だけでなく、住宅地、学校までもが狙われる。着弾現場に駆け付け、住民の救助に奮闘するのが消防隊だ。ウクライナ南東部、ザポリージャ市で隊員たちの声を聞いた。(玉本英子・アジアプレス)
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住宅地に炸裂するミサイルと砲弾。燃え上がる炎に立ち向かい、立ち込める煙のなか瓦礫に埋もれた住民を助け出す消防隊員たち。その姿は、この国の悲しい日常の光景の一部となってしまった。
◆防弾ベストで消火作業
「ミサイルが着弾した住宅で泣き叫ぶ住民を見たとき、そして瓦礫をかきわけ子どもの遺体を運び出すときが、本当につらくてたまりません。激しく揺れる心を抑え、冷静になれ、と自分に言い聞かせて任務を続けています」
ザポリージャ消防隊のステツェンコ・ヴォロデミロヴィチ隊長(35)は、心情を打ち明ける。あいつぐ住宅地への攻撃と犠牲のなか、それを止める手立てがないことに複雑な思いだという。
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◆第2波攻撃で隊員が殉職
消防隊の活動の妨げとなっているのが、ミサイルや砲弾の第2波攻撃だ。消火、救助作業中に、連続してミサイルが撃ち込まれることがあるのだ。このため、隊員たちは防火服に加え、重いプレート入りの防弾ベストを着用する。
ザポリージャ市内の大通りには、軍と兵士を称えるスローガンが掲げられた大きな看板が立ち並ぶ。そのなかに、殉職した消防隊員を追悼する看板がある。ロシア軍の攻撃下、これまでに1名が殉職、6人が負傷している。亡くなった隊員は、現場に到着したところに2発目が着弾し、犠牲となった。
ザポリージャ消防本部のセルヒイ・シェルチェンコ副署長(46)は、第2波攻撃について説明する。
「急いで駆け付けても、そこに次のミサイルが炸裂すれば、犠牲が拡大します。安全を見極めながら、消火作業と救助活動を進めなければならず、迅速に動けません。住民と隊員の命にかかわる大きな問題です」
◆原発破壊に備え、ヨウ素剤
ザポリージャ州には、欧州最大級の原発があり、現在、ロシア軍の占領下に置かれている。戦闘での損傷だけでなく、ロシア軍の意図的な破壊もありうる危険な状況だ。放射能流出の事態を想定し、消防隊はヨウ素剤を携行していた。
「これを服用する日が来ないことを願っていますが、放射能汚染という最悪の事態も想定し、対処できるようにしています」
ヴォロデミロヴィチ消防隊長は、ヨウ素剤の入った小さな白い容器を見せて言った。
消防隊を取材した直後、ザポリージャからさらに南方にあるカホウカダムが破壊され、ドニプロ川下流域のヘルソン一帯に大規模な浸水被害が出た。ロシア、ウクライナ両政府ともダム破壊への関与を否定し、双方が非難。下流域に多大な被害が出る事態が起きたことで、原発破壊も含め、あらゆることが想定される状況となっている。
◆住宅地に繰り返される攻撃
消防部門を管轄するDSNS(国家非常事態庁)は、ミサイルと砲撃による被害者、損壊建物を詳細に記録している。ロシア政府は「軍事施設を標的」としているが、ザポリージャDSNSのニコラ・ザイコ副本部長(44)は、こう話す。
「半径3~5キロ以内に軍事施設が一切ない地区までもが攻撃を受けています。住民の避難場所にも着弾し、子どもを含む多数の市民が犠牲となりました。テロ行為というほかありません」
命を救う最前線で、消防隊員たちは過酷な任務と向き合い続けている。
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