<ウクライナ>戦う女性たち「故郷守る」と防衛隊に (写真17枚)
◆ロシア軍との戦闘も想定、防衛隊の訓練現場
ウクライナ各地で続く戦闘。ロシア軍の侵攻後、市民防衛隊が編成され、そのなかには女性も加わっている。防衛隊の女性たちや、元ウクライナ軍狙撃兵として戦った女性を昨夏、オデーサで取材した。(玉本英子・アジアプレス)
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昨夏、ウクライナ南部オデーサ市内の工場地帯。戦闘服姿で訓練を受ける市民防衛隊の姿があった。
「それじゃダメだ! 敵に撃たれちまうぞ!」
教官が声を荒らげる。
廃虚ビルにロシア兵が潜んでいるとの想定で、小銃タイプのエアガンを手にチームが突入し、制圧を目指す。屋内の階段を駆け上がる防衛隊に向けて、教官が模擬の手榴弾を次々に投げ込む。爆発音と煙のなか、ガス圧を強化したエアガンの弾が飛び交った。
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◆「自分が銃を持つなんて」
この日参加したのは、20~50代の男女で、学生や会社員、主婦らだ。数カ月にわたる訓練を続けてきた。
建築士の女性、マリアさん(30)は、ロシア軍の攻撃で友人を亡くしたことから、防衛隊に志願。実銃を撃つ訓練を重ねた。
「自分が銃を持つなんて思いもしなかった。でも故郷を守るためには必要と感じています」
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侵攻が始まって以降、各地で市民防衛隊が編成された。自発的な市民からなり、要請があれば、検問やパトロールも担う。
ビクトリアさん(52)の職業は服飾デザイナー。2カ月前に防衛隊に登録した。黒海沿いの美しい浜辺で泳ぐのが毎年の楽しみだったが、いまはそこに飛んでくるミサイルに怯えなければならないと憤る。
侵攻が始まり、毎日、市民の命が奪われるなか、意識が変わったという。
「私はもう『平和な市民』でいることはできなくなった」
ミサイルや砲撃による民間人の犠牲は絶えない。ロシア軍が再び攻勢に転じれば、近隣都市への進撃もありうる。どの隊員の表情にも切迫感があった。
◆元英軍特殊部隊員の義勇兵が教官
教官のひとりは、義勇兵としてウクライナ入りした30代の英国人。元英軍特殊部隊の経験を見込まれ、戦闘教練の教官となった。
「ウクライナ兵も含めて100人以上を訓練したが、女性の方が士気は高い。銃器の扱いなど積極的に質問してくる」
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◆ドンバス戦線で負傷の元ウクライナ軍狙撃兵
ウクライナ軍では、女性兵士の割合は2割におよぶ。ベロニカ・バトリさん(33)は6年前に陸軍に入隊し、狙撃兵となった。
東部ドンバス地域の親ロシア派勢力と対峙する戦線で戦った。作戦中、仕掛け爆弾で右足に重傷を負い、除隊。今回の侵攻で戦列に加われないのを悔やんだ。
ベロニカさんは、ロシア軍の侵攻についてこう話す。
「私たちにとって、この戦争は2014年のクリミア占領から続いているのです。さかのぼれば、300年以上も繰り返されてきたロシアによる支配の目論見の延長です。戦わずに降伏すれば、苦しみは百倍以上になって降りかかる」
◆「祖国に尽くした傷」
故郷を守るため、愛する者のために戦闘の最前線に立つ女たちの姿は勇敢で、凛々しく映るだろう。
私はこれまで各地の戦場で銃を手に戦う女性たちを取材してきた。クルド組織のゲリラ兵やシリア北部で過激派組織イスラム国(IS)と戦った部隊。
生死の修羅場をくぐり抜けてきた女性ほど、男の兵士以上に顔つきが険しく、切り裂くような鋭い目だった。
それはたくさんの死を見てきた目であり、人を殺すことをいとわなくなった人間の目でもあった。恐怖の記憶がよみがえり、苦しむ女性も少なくない。
足の負傷で松葉杖の生活になったベロニカさんは、公園のベンチに座り、静かに言った。
「祖国に尽くした傷だから、これも名誉」
そして、夕日で赤く染まった空をゆっくりと見上げた。
いつ終わるとも分からない戦争。ウクライナは、ロシア軍の侵攻からまもなく1年を迎えようとしている。
(※本稿は毎日新聞大阪版の連載「漆黒を照らす」2023年1月17日付記事に加筆したものです)