<ウクライナ>侵攻1年 子どもの心の傷、見えない被害(写真16枚)
◆戦争で傷つく子どもの心
連日のミサイル攻撃や砲撃で市民の犠牲が相次ぐウクライナ。子どもたちにとっては、心の傷も深刻だ。昨夏、南部オデーサで、ぬいぐるみの犬を子どもの心のケアに取り入れる民間団体を訪ねた。(玉本英子・アジアプレス)
◆ミサイルにおびえ
「この犬の名前はラッキー。私の大切な友だち」
ぬいぐるみの犬を見せてくれたマーシャちゃん(6)。ずっと落ち着きがなく、そわそわしていた。時に笑顔になるが、急にふさぎこみ、悲しそうな目でラッキーを抱きしめる。
3日前、マーシャちゃんの家の近くにロシア軍のミサイルが着弾した。大きな爆発音に震える娘を母は懸命になだめようとした。ずっと恐怖におびえたままのマーシャちゃんを心配し、ケアを受けに来た。トラウマケアに取り組むのは、民間団体キンダーヴェルトだ。
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◆見えにくい心の傷
ぬいぐるみによる心療ケア「ヒブキ・プロジェクト」は、イスラエルの児童心理学者らが、戦争や災害で傷ついた子どもたちの心を癒やすことを目的に始めた。ぬいぐるみの犬を自分のパートナーとして抱いて、話しかける。
「戦争で建物が破壊されると、その被害は目に見えますが、心の傷は見えにくいのです」
カウンセラーのスヴェトラーナ・グロモワさん(25)は、そう話す。マーシャちゃんと母の心療アドバイスをしている。
「心に負った傷を取り除くのは容易ではありません。無理に抑え込むと傷はさらに深くなります。早い段階で不安をやわらげ、心理的な負担を少なくすることが必要です」
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◆防空サイレンのたびにシェルターへ
ミサイルが直撃した集合住宅をいくつも取材した。
崩れ落ちた壁、飛び散ったガラス、一面に広がる瓦礫。人びとの生活が断ち切られた光景に胸が痛んだ。ミサイルや砲弾は軍事施設だけでなく、学校、病院、商店にも襲いかかる。
攻撃の兆候があると、防空サイレンが鳴り響く。そのたびに、市民は建物地下のシェルターに退避したり、部屋の窓から遠ざかったりする。
私も、爆発音とサイレンのなかシェルターに駆け込んだことがある。皆、スマホで着弾地点のニュースを調べ、家族の安否を確認していた。
街角には、避難シェルターを意味する「スホビシチェ」「ウクレッチャ」と書かれた案内板がいたるところにある。シェルターが多いのは、旧ソ連時代の冷戦期に核戦争が想定されていたのも背景の一つという。
◆戦争が日常の一部に
オデーサ市内の公立学校で校内に設置されたシェルターを訪れた。
半地下の窓部分には、爆発の衝撃を防ぐため、土のうが積まれていた。地下でも授業が継続できるように机と椅子が並び、飲料水や医薬品も用意されている。戦争の影響は教育現場にもおよんでいた。
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ユリア・バルドゥク校長(39)は、言う。
「悲しいことですが、児童にとって戦争が日常の一部になっている現実があります。この状況が、子どもたちの内面にどんな影響をもたらすか心配です」
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低学年の教室で、校長が児童のノートを開いた。最後のページの日付は2月22日だった。その2日後、ロシア軍の侵攻が始まった。ノートには、「美しい春の森のすがた」と書いてあった。
侵攻から1年。ウクライナの子どもたちに春が来る日を願ってやまない。
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(※本稿は毎日新聞大阪版の連載「漆黒を照らす」2023年2月14日付記事に加筆したものです)