ウェアラブルコンピューティングの対象として時計、眼鏡、指輪等自明なもの以外に何があるかと考えると新たなアイデアが生まれるかもしれません。靴、かつら、歯の詰め物等いろいろ考えられるでしょう。実際そういった特許もあります。さて、「マイクロソフト、AI搭載リュックサックの特許を申請」という記事を読み、リュックサック（バックパック）というのは意外と盲点だったかもしれないなと思いました。

この発明のポイントはきわめてシンプルで、バックパックに、コンピューター、マイク、スピーカー、カメラ、位置センサー等を設けて、ハンズフリーで様々な操作を行うことです。実施例として、タイトル画像にスキー場で音声により適切なコースをガイドしてもらうことが記載されています（ハンズフリーであることの必然性がある実施例です）。

ところで、冒頭の記事ですが、間違ったことは書いていないのですが、実はこの記事で言及されている8月24日付けで公開された特許出願（公開番号2023/0267299）というのは、既に2023年6月13日に特許登録されているUS11675996の分割出願なのです。この権利化された方の特許についてまったく言及せずに、分割出願が公開されたことしか書いてないのは記事としてどんなものかと思いました（英文元記事の段階でそうなっています）。

権利化済みの元特許の方は、2019年9月13日出願で、発明の名称は”Artificial intelligence assisted wearable”です。日本への出願は確認できていません。バックパックにカメラ、マイク、スピーカー、コンピューターを備えて、ユーザーと音声でやり取りするという非常に範囲の広い特許になっています（以下の有料部分でもう少し詳しく触れます）。要はスマホの構成要素をバックパックに取り付けただけなのでよくこれで特許査定してくれるものだと思いました（日本だとちょっと厳しいかもしれません）

そして、先日公開された分割出願の方は、この特許のクレームの「バックパック」を「ハンズフリー・デジタル・アシスタント・デバイス」に上位概念化して補正したものになっています。こちらは実体審査はまだ始まっていません。「バックパック」で権利化すると、たとえばウェストポーチやボディバッグに対して権利行使する際に問題になりそうなので、分割出願で範囲を広げて再チャレンジするのは当然とは思います。

では、US11675996の権利範囲と審査過程をもう少し詳しく見てみましょう。